昨年はインバウンドも含めた旅行客がコロナ禍前まで戻ってきた。旅先で欲しくなるのは、なんといっても買って帰りたくなる土産品。新年号は、もはや全国区となったあの商品の開発秘話や、地域の新名物を目指し“お土産”づくりに奮闘する企業の挑戦と自信作をお届けする。
栽培から織りまで手作業の真岡木綿 地域が一丸となって観光資源として復活
1986年に復活を遂げた栃木県伝統工芸品の「真岡木綿」。以来、生産拠点である真岡木綿工房では、綿花の栽培から織りまでを全て手作業で行っている。織り手自らが主体となってデザインや技術の向上、新商品の開発に取り組み、2022年度にはグッドデザイン賞受賞、全国伝統的工芸品公募展入選に輝いた。復活から40年を目前に、今、新たな飛躍期を迎えている。
江戸時代に人気を博した真岡木綿が80年代に再び
江戸時代には木綿の代名詞といわれた真岡木綿。丈夫かつ絹のような肌触りが特徴で、ピーク時には年間38万反の生産を誇ったという。だが、開国を機に状況は一転し、安価でありながら、和綿より織りやすいインド綿などの洋綿に押されていく。大正、昭和を経て風前の灯火(ともしび)となる中、1986年、真岡商工会議所が中心となって復活を遂げた。同所、市の観光協会、商工会連合会、市内の農協組合が一丸となり、真岡木綿保存振興会を設立。同振興会を母体に真岡木綿工房が誕生した。同工房代表の花井恵子さんは言う。 「綿花の栽培は、高温多雨で水はけのいい風土が最適で、真岡は綿花が採れる北限の地とされてきました。地域の伝統と文化を絶やしてはいけないと、官民が力を合わせて真岡木綿をよみがえらせました」
同振興会は、87年より1年間にわたり機織技術者養成講習会を開催し、真岡木綿技術者認定制度を創設。真岡木綿が栃木県伝統工芸品に指定されるまで一気に推し進めた。花井さんは2期生として受講し、92年には真岡木綿技術者に、2005年には栃木県伝統工芸士に認定され、真岡木綿の発展に尽力してきた。 「元来、真岡木綿は分業で生産されていましたが、工房に集約して製法、品質の維持向上を図っています」
真岡木綿は昔ながらの製法を守り、全工程が手作業。それも綿の栽培から糸紡ぎ、染め、織りまでを織り手が担っている。
身近な生活小物が土産品としてヒット
「機織りだけではなく、栽培や染めなど幅広く技術を磨けるのが工房の魅力」と花井さん。技術習得には時間を要するが、技術者や工芸士の認定制度が確立しており、女性のキャリア形成の一翼を担っている点は大きい。 「工房では織り手を『織姫(おりこ)』と呼んでいます。設立当初から織姫の養成と真岡木綿のブランド化、新商品の開発を地道に続けてきました。織姫は一人で反物を織り上げるまでを担う出来高制で、この反物から着物や作務衣(さむえ)、スカーフや額装のオーダーメード商品のほか、土産品が数多くつくられています。お土産はコースターやペンケース、小銭入れなどの生活小物が人気です」と花井さん。
08年に事業母体が真岡商工会議所に移り、真岡市によって工房が建設されると、さらに活動は勢いづいたと振り返る。栃木県工業振興課主催の「活かそう!とちぎの技事業」に参画。織姫らが自主的にデザインや技術の向上、新商品の開発、販路拡大の知識を習得する流れが生まれた。そして生成(きな)りを生かした新商品が誕生する。 「江戸時代の真岡木綿は〝晒(さら)し〟という染め上がりを際立たせる加工技術を得意としていました。生成りシリーズはその原点回帰といえる展開です。ほかにも、栃木市の小曽戸製作所の『いちひこ帆布』とのコラボ商品にも挑戦しました」
コロナ禍=勉強時間と捉え 染色と織りの技術を革新
工房では染めや機織りの体験教室も開催され、一般客でにぎわう。 「でもコロナ禍では体験教室をはじめ、市や商工会議所主催のイベントも軒並み中止になりました。工房の活動自体は継続していましたが、お客さまは激減。それならと発想を変えて、空いた時間を〝勉強時間〟に充てました」
県の事業で交流のあった多摩美術大学教授のプロダクトデザイナーの安次富隆(あんしとみたかし)さんを招き、織姫対象の勉強会を複数回開いた。それを機に「真岡縞(しま)」という独自の織り模様を開発する。面白いのは、縞模様が写真や絵などのデジタル画像を元にしている点。例えば、食器棚に色とりどりのマグカップが並ぶ画像を元に、デジタル画像の小さな点(ドット)を引き伸ばし、ボーダー状に自動生成して色を整え、縞模様に織り上げる。
また、同時期に2年の歳月をかけて完成させたのが「真岡木綿草木染見本帖」だ。同じ草木でも媒染によって発色が異なる木綿糸3種を1枚のカードにまとめ、全45枚のカードを木箱に収めて商品化した。これまでなかった木綿糸の色見本商材は、繊維業界や産業の発展、教材としての価値が高く評価され、2022年度グッドデザイン賞に輝く。さらに草木染めの糸使用の真岡木綿ふきの葉草木染めの着尺(きじゃく)反物が、全国伝統的工芸品公募展に入選する。これらのおかげで、22年度の総売上額が約800万円だったのに対し、翌年度は約1200万円まで伸びた。 「東京ビッグサイトのイベントに出展したり、東京スカイツリー内のアンテナショップに出品したりしていますが、市内を中心とした県内での販売が主です。旅行の思い出やギフト、地域の伝統工芸品として、今後も伝統を大切にしながら、時代に合った商品開発をしていきたいです」と笑顔で語る花井さん。工房からは機織りの軽快な音が、いつまでも心地よく響いていた。
会社データ
社 名 : 真岡木綿工房(もおかもめんこうぼう)
所在地 : 栃木県真岡市荒町2162-1
電 話 : 0285-83-2560
HP : https://www.mokamomenkobo.com
代表者 : 花井恵子 代表
従業員 : 13人
【真岡商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。