新客船が続々就航 リピート率も高く
この10年で約2倍の規模に拡大した日本のクルーズ旅行。2025年以降は、さらなる飛躍が見込まれているようです。その理由は、日本のクルーズ会社による新客船の就航や、日本企業による新規参入が控えているからです。
先陣を切ったのが商船三井クルーズの「MITSUI OCEAN FUJI」。横浜ハンマーヘッド新港ふ頭客船ターミナル(神奈川県横浜市)を出発し、国内から近隣アジアを周遊するクルーズで、約1週間と短いものから60日を超える長期ツアーまで準備して、人気を博しています。
さらに注目したいのがクルーズ旅行のリピート率の高さ。JTB社の調査によると、クルーズ旅行に参加したことのある人の中で、「今後もクルーズ旅行に参加したい」と答えた人の割合は90%。非常に高いリピート率を誇っているのです。クルーズ市場に新規参入が増えている理由が分かる調査結果です。
では、どうしてリピートするのでしょうか。船内のアクティビティーや料理の充実も理由の一つでしょう。でも、それだけではありません。船上で新たな価値観を得たからだと考えます。それは、身体的、精神的、社会的に満たされている状態、すなわちウェルビーイングです。競争社会は格差の拡大や地球環境の悪化、貧困などさまざまな問題を生み出しました。当然ながら人に対してストレスをもたらします。こうしたストレスのない状況に置かれることこそ幸福という考え方のことです。
キーワードはウェルビーイング
仕事や日常が忙しい人は見逃しがちです。休日も平均で2泊に満たない弾丸旅行しかしないので、ウェルビーイングな状況など体験したことがない。そんな人がクルーズ期間に満たされた状況を感じて、リピートにつながっていく。そんなケースが増えているように思います。
クルーズ旅行なんて仕事をリタイアしないと無理、と決めつけている人がいます。でも、参加者の中にはバリバリ仕事をしている人もいるのです。先日、知人が長期休暇を取ってクルーズ旅行したことをSNSにアップしていたので、感想を聞いたところ「満たされた時間を過ごすことができたので、来年も参加する」とのこと。「日々の喧騒(けんそう)を忘れてゆっくりと海を見ながら静かな時間を過ごし、心身の充電ができた。仕事に対する意欲はむしろ高まった」と話してくれました。
こうした旅行ニーズはクルーズでなくても満たすことができるかもしれません。何もない山頂や森であることが、むしろ望ましい。ウェルビーイングを感じる機会を提供できる場所として注目される可能性があります。無理に飾ることなく、魅力として伝えてみてはどうでしょうか?
(立教大学大学院非常勤講師・高城幸司)