沖縄県の特産品、紅芋を使った商品やグルメは数多くある。そこへ彗星(すいせい)のように登場したのが、那覇市の菓子製造・販売会社、ナンポーが手掛けた「薔薇甘紅芋(ばらかんべにいも)」だ。販売店舗が那覇空港内の土産品店をはじめ数店と限られている上、類似商品と比べて高価格でありながら、発売後わずか3カ月で2万箱を売り上げ、その後も好調な売れ行きを続けている。
新型コロナ禍で経営危機の中未来を見据えて新商品を開発
紅芋は、濃紫色でねっとりとした食感と上品な甘さが持ち味の沖縄を代表する食物の一つだ。加熱するとさらに色が引き立つため、さまざまな加工品に利用されている。そこに新たなアイデアを注ぎ込んで誕生したのが、ナンポーが2023年4月に発売した紅芋スイートポテト「薔薇甘紅芋」だ。ホワイト焼きショコラに塩ちんすこうを混ぜて塩味を効かせた土台に、紅芋ペーストをのせたスイーツだが、目を引くのはバラの花をモチーフにした形状だ。それらが六角形の箱に収まった風情は、「貴方に贈る、食べる花束。」のコンセプト通り、高級感が漂う。 「手頃な土産品というイメージが強い紅芋菓子ですが、見た目も味も満足できる商品を打ち出し、紅芋の価値を上げたかった」と、同社社長の安里睦子さんは商品への思いを語る。
同商品誕生の背景には、新型コロナ禍による経営危機があった。同社は、1984年に土産物の卸・販売で設立。その後、菓子類の製造にも乗り出してさまざまな商品を扱ってきた。並行してカフェや直営店も運営するなど順調に事業を拡大してきたが、新型コロナによる外出自粛や移動制限により、同社の売り上げは前年比の1割程度まで落ち込んだ。 「観光客が来ないので仕方がありません。時間もできたことですし、この機会に未来を見据えた新商品をつくろうと考えました」
バラの花の形に成形するまで試行錯誤し1年半を要す
二代目である安里さんは、もともと同社系列の印刷会社で営業の仕事をしていた。その経験から色やデザイン性の訴求力を熟知していたため、同社入社後は、既存商品のパッケージのリニューアルを進めてきた。新商品の開発に当たっては、従来の紅芋菓子に飽きた人向けに、カラフルかつエレガントなバラの形のスイートポテトを考案。しかもメインターゲット層を40~50代の男性とした。 「出張帰りの会社への手土産や大切な人への贈り物って、渡す相手は大抵女性ですよね。その相手が喜んでくれたり、センスがいいと褒めてくれたりしたら、買った方もうれしいじゃないですか。そんなシーンを想定して、商品やパッケージデザインを考えていきました」
特にこだわったのがバラの形だ。既存の機械ではペーストをバラの形に搾り出すことができないため、コロナ禍の経営難の中で大きな投資を決意。長年付き合いのある機器メーカーとともに新たな生産ラインの構築に踏み出した。 「打ち合わせを重ねながら何度も試作しましたが、なかなか思った形にならなくて。ようやく花びららしくなってきても、『バラというよりカーネーションみたい』とダメ出しした時は、メーカーさんも心の中で泣いていたと思います。でも安易に妥協したくなかったので、1年半ほど試行錯誤を繰り返しました」
商品が完成間近となった頃、同社に追い風が吹く。高級外車ブランドが主催する全国的なゴルフイベントで、参加者に提供する手土産を決めるコンペに応募したところ、同商品が選ばれたのだ。富裕層向けの商品と評価されたことが自信となって発売を後押ししたと同時に、既存商品とは異なる販売戦略を立てた。それは、店で最も目立つ「一丁目一番地」に商品を陳列する、専用の什器(じゅうき)を使用する、商品が欠品しても他商品で代替しないという条件で販売してくれる店に商品を卸すというものだ。その結果、那覇空港の土産品店や免税店などわずか8店と、同社直営店やオンラインショップのみの販売となったが、色鮮やかなパッケージデザインが目を引いて人気に火が付く。2023年4月の発売後わずか3カ月で2万箱を売り上げ、「日経トレンディ」が選ぶ「“空港発”ヒットランキング」で全国1位を獲得した。
シリーズ商品を追加発売し売り場でのインパクトを強化
同社は、早くも同年11月にシリーズ商品「薔薇甘苺(いちご)」を発売。県産イチゴとカマンベールチーズ、甘藷芋(かんしょいも)を使用したまろやかなチーズケーキで、こちらも24年4月に、ジャパンフードセレクションでグランプリを受賞した。「薔薇甘苺は薔薇甘紅芋と同時期に完成していたんですが、まずは紅芋で勝負し、間を空けずにイチゴを出そうと決めていました。カラフルな色使いを売りにしているので、紫と赤という組み合わせは、さらにインパクトが増したのではないかと思います」
安里さんの思惑通り、二つをセットで買う客の割合が高く、シリーズ累計販売数は6万箱を超えた。今後は沖縄だけにとどまらず、日本全国の食材を使ってさまざまな色のバラを咲かせたいと話す。 「苦労してバラの形に搾れる機械をつくったので、有効活用していきたい。それにバラは世界共通の花なので、インバウンド需要も掘り起こせると思っています。そのためにも今後は、パティシエ監修の下での商品開発や、企業とコラボ商品をつくるなどして、沖縄の土産菓子メーカーではなく、全国に名前が知られるような菓子メーカーにするのが目標です」と安里さんは明確なビジョンを語った。
会社データ
社 名 : 株式会社ナンポー
所在地 : 沖縄県那覇市曙3-21-2
電 話 : 098-867-7902
HP : https://e-nampo.com
代表者 : 安里睦子 代表取締役
設 立 : 1984年
従業員 : 70人(パート・アルバイト含む)
【那覇商工会議所】
※月刊石垣2025年4月号に掲載された記事です。