北九州市や福岡市内でミシンの小売りや卸、修理販売などを行っているノー エクスキューズ。同社が2024年9月に販売開始したのが「ニードルパンチミシン」だ。一度は経営破綻したミシンメーカー・リッカーの商標権を取得し、待望の復活第一弾となった同商品は、先行予約販売プロジェクトで目標の931%を達成。ファンを着実に増やしている。
たたいて生地に埋め込む 糸のいらない不思議なミシン
「ニードルパンチミシン」と聞いてどんなものを想像するだろうか。通常は、針に糸を通して生地を「縫う」が、これは針で素材を「たたく」ことで生地に埋め込んでいく仕組みのミシンだ。 「イメージしづらいかもしれませんが、毛糸や刺しゅう糸などさまざまな素材を特殊な針(ニードル)で生地にたたいて埋め込むことで、立体感や新しい風合いを生み出します。20年ぶりに復活を遂げたリッカーブランドの第一弾商品です」と同ミシンを販売するノー エクスキューズ代表取締役の桑原和寛さんは説明する。
操作が複雑なのかと思いきや、ミシンを一度も使ったことがない人や糸掛けがおっくうになってきたという人でも手軽に扱えて、思い思いの手芸作品がつくれるとあって、ハンドメード好きのファンから熱い視線が注がれている。
“糸のいらない不思議なミシン”が誕生したきっかけは、桑原さんが福岡市内でダスキンの個人代理店をしていた時にさかのぼる。掃除道具のレンタル契約をしていた顧客の中に、ミシン専門店を複数展開している会社があった。 「その社長がとてもパワフルな人で、話を聞くうちにミシンの仕事に興味を持ちました。その後、土日にその店でミシンの勉強をさせてもらうようになって、ますますその魅力にはまってしまって。それでダスキンを辞めて、その店と業務委託契約を結び、3年後に独立して北九州市に自分の店を出しました」
市場から姿を消していた 世界的ミシンブランドを復活
ミシンに触ったこともなかったという桑原さんがその魅力に取りつかれた理由は、日本のミシンの技術が高く、世界でも人気を博していたことだった。日本におけるミシンの需要は、2000年頃から減少をたどって以降低迷したままだが、ブラザー、JUKI、ジャノメは、今でも世界のミシンブランドベスト5に数えられている。 「ミシン業界が縮小しているとはいっても、子どもの入園や入学時に指定されたものを縫うために買い求める人は案外多い。また、もともと洋裁が好きで、性能のいいミシンに買い替える人も一定数います。何をすれば、もっと多くの人にミシンに興味を持ってもらえるかを常に考えていました」
その中で目を付けたのが「リッカー」だ。昭和の時代に家庭用ミシンで国内トップシェアを誇ったミシンブランドだったが、1984年に経営が破綻し、その後商標権は別会社に売却されていた。もし、リッカーブランドが復活を果たしたら面白いことができるのでは、と思った。 「商標権を取得しようと問い合わせたところ、相手は上場企業ということもあり、最初は門前払いでした。そこで先輩経営者の方に相談に乗ってもらい、アドバイスされたことを素直に行動に移したら、相手企業の役員の方に話がつながって。こちらの熱意を伝えたところ、『ミシンを生かしてもらえるなら』と話がまとまったんです」
2022年に譲渡が正式に決まり、国内で唯一リッカーミシンを扱う店となった。当初は一般的な家庭用ミシンをリリースするつもりだったが、せっかく復刻するなら“一般的ではない”ミシンの方が目を引くのでは、とニードルパンチミシンに決めた。毛糸をフェルト生地に埋め込んで模様や絵を描いたり、オーガンジーリボンで簡単にバラの花のモチーフがつくれたりと、アイデア次第で実用品からアート作品までハンドメードの可能性が広がり、手芸ファンに刺さると考えたのだ。
「マクアケ」の先行予約で 目標金額の931%を達成
「販売するに当たり、まずはクラウドファンディングで先行予約を受け付けることにしました。面白いミシンだという確信はありましたが、実際にどれくらい売れるのか反響をみたいという気持ちがあったんです。それで事前リサーチを兼ねて、『マクアケ』のプロジェクトを活用しました」
一般販売価格7万7000円を早割価格で5万円にし、目標金額を50万円に設定したところ、ふたを開ければ目標の931%を達成。かつてのリッカーミシンファンから「復活させてくれてありがとう」という感謝の手紙が届くなど、反響の大きさを実感した。
桑原さんは、それと並行してSNSにも取り組んだ。個人アカウントのある「X」でミシンをPRしようと、自らインフルエンサーとなって投稿を続けた。ニードルパンチミシンの実演動画、ミシンの豆知識や使い方の裏技、困ったときの対処法などは特にたくさんの「いいね」がつき、1年以内にフォロワー1万人の目標を10カ月で達成。現在は約2万7000人にまで増え、専門雑誌から監修の仕事が舞い込むなど、着実に売り上げを伸ばしている。 「ニードルパンチミシンを第一弾商品にしたことは、結果的に市場に大きなインパクトを与えたと思います。今年5月には新型家庭用ミシン『RR-001型』もリリースし、今後さらに商品展開を充実させていく予定です。また、世界に名の知られたブランドという強みを生かして、リッカーの商標権を持っていない国を中心に海外輸出にも力を入れていきたい」と、桑原さんは次なる目標を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社NO EXCUSE(ノー エクスキューズ)
所在地 : 福岡県北九州市小倉南区沼本町1-4-11
電 話 : 093-475-4452
HP : https://riccar.jp
代表者 : 桑原和寛 代表取締役
設 立 : 2011年
従業員 : 7人
【北九州商工会議所】
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。