企業経営は、平穏な日々ばかりというわけにはいかない。時には業績悪化やビジネス環境の変化による倒産の危機といった逆境もある。会社存続の危機を乗り越えるのは、経営者の企業存続への強い決意とそれを行動に移す「リカバリー力」だ。
業界初“業務用”マッサージチェアで民事再生法適用からV字回復
健康機器の企画・開発を行っている日本メディック。設立以来、家庭用マッサージチェアを扱い、販促のためにコインボックスを付けて温泉旅館などに設置していたが、徐々に売り上げが低迷。民事再生法適用から起死回生をかけて、業界初の業務用に特化したマッサージチェアを開発。独自の販売方法により右肩上がりで売れ行きを伸ばし、国内トップシェアを確立した。
取引先の突然の条件変更で民事再生法適用を決断
旅館やホテル、温泉施設などの休憩スペースに置かれたマッサージチェアは、日本人にとってなじみのある風景だ。入浴後の弛緩した体を預けて、全身をもみほぐすのは至福の時間と言えるだろう。1983年の設立以降、家庭用マッサージチェアの販売を行ってきたのが日本メディックである。 「設立当初は、まだ家電量販店などなかった時代。まちの電気屋さんの店内にマッサージチェアを置くスペースがなかったので、旅館やホテルなどで利用客向けに展示販売を行っていました」と同社社長の城田充晴さんは説明する。
その後、家電量販店やテレフォンショッピングなどが登場し、同社の販売方法の競争力が低下し、売れ行きは徐々に下降線をたどる。そこでコインボックスを取り付け、使用料を払えばいつでもマッサージチェアが使用できるように改良したことで売り上げが回復し、業績は持ち直し始めた。そんな矢先、取引先から条件変更を通達される。 「施設にマッサージチェアを設置するには、まずはその機械をメーカーから買わなければなりません。最初に何百万円も投資して、月々入ってくる大量の100円玉から投資を回収して利益を出すには時間がかかるので、機械代金は分割払いにしてもらっていました。ところがメーカーの経営者が変わり、突然一括払いのみに変更するという通知が来たんです」
それではとても資金は回せないと、余力が残っているうちに全ての事業を売却。2011年、民事再生法の適用申請を決断した。
日本になかった“業務用”に特化して起死回生を図る
同社は起死回生の方策として、長年培ってきたノウハウを生かし、当時日本にはなかった“業務用に特化したマッサージチェア”のファブレス(生産ラインを持たない)メーカーへ転身を決める。実は、マッサージチェアに業務用というカテゴリーはない。コインボックスが付いていて、不特定多数の人が使える場所に設置されているから業務用と呼んでいるが、あくまでも個人使用を念頭につくられた家庭用だ。では、業務用と家庭用はどこが違うのか。 「多くの人が使用すると、本体の側(がわ)生地が傷みやすいんです。擦り切れたり、ほつれてきたり。それを修繕するには本体を分解して側生地を剝がし、張り替えなければなりません。ものすごい手間とコストがかかります。そこで当社は、傷みやすい箇所を交換できる製品を考えました」
そうして開発されたのが「あんま王」だ。頭を乗せる枕、背もたれ、座面など、消耗しやすく、また体が直接触れて汚れやすいパーツを着脱可能にし、誰でも簡単に交換できるのが特長だ。以前は、「破れたから直してほしい」と頼まれても、同じ側生地の在庫がないため、納品まで1~2カ月掛かるケースもあった。その点、同製品は交換用の各パーツが常にストックしてあり、すぐに対応できる。 「現会長の父は、40年くらいマッサージチェアの業界にいて、壊れた機械の修理や破れたパーツの修繕などさんざん経験してきたので、不便な部分を解決して顧客に喜んでもらいたいという思いが強く、それを形にしたのが『あんま王』です」
導入してくれた業者の使い勝手を想定して進化
12年に販売を開始した同製品は、直後から右肩上がりに売り上げを伸ばしていく。その理由は、マッサージ機としての性能や維持のしやすさはもちろんだが、普及拡大のために分割払い(月々払い)を導入したことが奏功している。 「そもそも当社が民事再生の道を選ばざるを得なかったのは、機械代金が一括払いのみになったことが発端です。マッサージチェアを幅広く活用してもらうには、導入しやすい仕組みであることが望ましい。そこで、当初から分割払いの仕組みを整備しました」
また、同製品は業務用としての活用シーンを想定しながら次々と進化を遂げていく。例えば、無重力感覚を味わえるようにリクライニングを工夫したり、座った際に外から丸見えにならないようにフェイスカバーを装着するなどして癒やし効果を高めた。細かいところでは、機械の累計稼働時間を計測するアワーメーターを付けたり、鍵を開けなくてもコインボックスの中にどれくらいコインがたまっているかをリモコン上で確認できるように改良もした。さらには、居座り防止機能としてマッサージチェアが止まってから1分半経過しても座り続けていると、追加のコインを入れるまで『コインを投入してください』とエンドレスでしゃべり続ける設定も追加した。そうした導入業者の役に立つ改良を地道に積み重ねてきた。 「業務用は、導入してくれた業者の方に不便や不都合がないような工夫をすることが肝心です。常にそれを考えてきたことが、当社製品が選ばれている理由ではないでしょうか」
2次元コード決済の導入などIoT化を推進
同社は、21年に製造委託先をM&Aで垂直統合し、企画から製造、販売までの一貫体制を確立した。現在、四代目となる「あんま王Ⅳ」が好調で、業務用マッサージチェアの分野では国内トップシェアを占めている。コロナ禍では多少の導入数減少があったものの、コロナ禍後は売り上げが回復。既存導入先の入れ替え需要もあり、過去最高の売上高となるなどV字回復を果たした。 「家庭用の方が業務用より圧倒的に市場規模が大きい。そういう意味で、大手メーカーが参入してこないニッチな分野だったことも業績回復の要因だと思います」と城田さんは分析し、今後についてこう語る。「ただ、当社製品は家庭用に設計されていないため、海外展開はちょっと考えにくい。そこで国内需要に特化し、より利便性を求めて2次元コード決済の導入を進めています。マッサージチェアがインターネットとつながることで、曜日や時間帯ごとの利用率とか、どのマッサージコースが人気かといったデータが収集できるので、それらを活用して新たなビジネスモデルを考えていきたい」と、次の展望も見えてきたようだ。
会社データ
社 名 : 株式会社日本メディック
所在地 : 神奈川県藤沢市下土棚468-1
電 話 : 0466-45-3288
HP : https://www.nihon-medic.co.jp
代表者 : 城田充晴 代表取締役社長
従業員 : 6人
【東京商工会議所】
※月刊石垣2025年8月号に掲載された記事です。
