米の価格が急上昇し、一時、令和の米騒動といわれるほどの状況になった。5月中旬、平均販売価格は4285円/5kgと、過去数年間で約2倍の水準に上昇した(農林水産省のデータによる)。それに伴い、わが国の物価も上昇傾向を示し、主要先進国の中で最も物価上昇の激しい国になってしまった。消費者からは「米価格の急騰で生活が苦しくなった」との声が多く出た。それに対し、政府は備蓄米を放出して価格上昇の沈静化を図ったものの、当初は期待された効果が発揮できなかった。随意契約により直接、小売業者などヘの米の流通を図り、ようやく価格安定化への道が見え始めた。
今回の米価格の急騰には、いくつかの要因がある。一つには、国内の米の需給がタイトになったことだ。わが国では趨勢(すうせい)的に生産農家が減少し、米の供給量も目立って伸びていない。それに対し、インバウンド需要の増加もあり、米の需要は堅調な展開になっている。需給がタイトになったため、米の価格に上昇圧力がかかりやすくなった。これまで、農林水産省は米の価格が下落することを防ぎ、生産者を守ることを重視してきた。その主な政策として減反政策を実施した。米の生産削減に応じた農家には補助金を支給するなどして、供給量を増やさず、価格の安定を目指した。
米国農務省(USDA)のデータによると、1970年ごろから2024年ごろまで、世界の米生産量は約30%増加した。人口増加による米の消費量の増加、需要の獲得を狙った輸出米の生産増などが主な理由だ。それに対して、わが国の政府は減反政策などで米の生産を絞った。その結果、需要の変化に供給サイドが対応することは難しくなった。世界的な気候変動も米価格上昇に影響した。24年夏場、猛暑の影響もあり育成不順が起き、食用になる米の割合が低下した。
そうした状況に呼応した一部の業者などは、米の在庫を増やしたようだ。流通段階にとどまる在庫が増え、需給バランスは一段とタイト化したとみられる。24年夏場以降、米の価格上昇は鮮明化し始めた。価格上昇観測の高まりに反応し、これまで米の流通に関係のない事業者まで取引に参入したという。一部の報道では、値上がりの利益を狙って出荷を渋る業者も出たようだ。フリマサイトを利用し、入手した米を転売する個人も出た。いわゆる“転売ヤー”だ。新規事業者の参入は米の流通の目詰まりの一因になり、需給逼迫(ひっぱく)観測の上昇や価格高騰に影響を与えた可能性がある。
政府の備蓄米放出のタイミングの遅れも、価格高騰に影響を与えた。政府は今回、価格の上昇が鮮明になってから高値で落札する方式で備蓄米の放出を始めた。それでは価格高騰に歯止めをかけるのは難しい。5月21日に農林水産省は、備蓄米の放出を随意契約に切り替えることを決めた。それによって、備蓄米が迅速に安価で手に届くことになった。米の輸入を増やすことも選択肢としている。そうした取り組みにより、ようやく米の価格は落ち着きを取り戻す可能性が見え始めた。本来、米に限らずモノの値段は、市場における需要と供給の関係に基づいて形成される。今回、政府が直接市場に介入した策は苦肉の策といえる。
今回の米騒動を冷静に見ると、いくつかの問題が浮き彫りになる。一つは、価格を下げないことに腐心してきた農業政策だろう。減反などの政策で農家を守り、米の安定供給を目指すことは相応の効果は見込めるものの、逆に供給サイドが需要の変化に対応できない構造をつくってしまった面はありそうだ。また、流通にも非効率性が潜んでいたとの指摘は多い。特定の集荷業者の影響力が強く、最大5次の卸業者が介在する流通経路には非効率な面があるとの見方は以前からあった。そうした状況を改革することは必要だろう。改革を避け、弥縫(びほう)策で短期的に事態を打開しても、また同様の問題が発生する可能性は払拭できない。私たちは、今回の米騒動からさまざまな教訓を得ることができる。その教訓を生かしてこそ、わが国の経済や社会全体が改善できるはずだ。 (6月9日執筆)

