防犯対策の重要アイテム、センサーライトの分野で国内トップシェアを誇るムサシ。多種多様な商品を世に送り出してきたが、「自分が持ちたいライトがない!」という女性社員の声を受けて「護衛さんライト」を開発。小型で丸みを帯びたかわいいデザインやネーミングから注目を集め、年間販売目標5万個をはるかに超える異例の売れ行きを続けている。
ユーザーの使い勝手を追求したセンサーライト
暗い夜道の帰宅やウオーキング、ペットの散歩時の安全確保や防犯対策として、小型センサーライトのニーズが高まっている。近年、さまざまな形態の商品が登場する中、ムサシが開発・販売している「護衛さんライト」が若い女性から注目を集めている。
大きさはわずか3㎝四方、重さは約20g。クリップが一体となっており、衣服やバッグに着けてハンズフリーで使え、ライトの向きも360度自在に変えられる。コンパクトながらライトの光は最大で約10m先まで届き、明るさは3段階に調節できる。USBケーブルで手軽に充電でき、最も弱い「ふんわり点滅」で18時間、弱で3時間40分、強でも1時間30分持続可能と、使い勝手や機能性においてとことんユーザーフレンドリーにつくられている。 「当社は長年、屋内外用のセンサーライトをメインに扱ってきましたが、『護衛さんライト』は大きな挑戦でした」と同社常務執行役員の野田光信さんは振り返る。
同社は創業当初、工具や園芸用品を中心に事業を展開していた。35年ほど前、高枝切りバサミが大ヒットした後、屋外用センサーライトの製造に乗り出し、やがて同社の主力商品となる。15年ほど前から屋内用小型センサーライトの製造も開始して好調な売り上げを記録し、国内トップシェアを誇るメーカーとなった。
女性中心の開発チームをつくりリーダーも女性に
転機が訪れたのは2020年。コロナ禍による外出自粛で、主な販売先であるホームセンターの客足が減少し、同社商品の売り上げも低迷した。危機感を覚えた野田さんは状況を打開しようと、従来の機能や性能を重視した商品展開を見直すことにした。 「当社の開発チームはほとんど男性で、どうしてもスペックを追求しがちです。女性社員から『持ちたいライトがない』と言われていたこともあり、女性が使いたくなるような商品を開発するため、女性中心のチームをつくろうと考えました」(野田さん)
野田さんは、国内営業部に所属する三浦萌以(めい)さんをチームリーダーに任命し、女性メンバーが中心の「みちくさプロジェクト」を発足した。“便利なだけじゃない、遊び心をくすぐる製品づくり”をコンセプトに、第一弾として既存商品のデザインをリニューアルした「てのりまんまるセンサーライト」の商品化に続き、一から開発したのが「護衛さんライト」だ。 「女性が『かわいい』と思える小ささや丸みがポイントです。従来の懐中電灯やヘッドライトと差別化するため、デザインやサイズ感を重視して、アクセサリー感覚で身に着けられるものを考えました」と三浦さんは特徴を説明する。
通常、小型機器にはボタン電池が使用される場合が多いが、交換の手間などを考慮して充電式にこだわった。熟練の技術部員から物言いがついたが、熱意をもって顧客志向を訴えて説得した。ライトの光り方も従来の懐中電灯のような一点集中型ではなく、広範囲を均等に照らせるように材質の透過性など細部まで配慮し、ユーザー目線で利便性を追求した。 「当社商品のメイン販路はホームセンターですが、『護衛さんライト』は女性を念頭に置いた商品なので、ホームセンター以外の販路を開拓することになりました。ただ、どれくらい反響があるかを見極める意味で、24年5月の発売に先立ってギフトショーやインターペットなどの展示会に出展したところ、多くの方に興味を持ってもらえて自信がつきました」(三浦さん)
さらに同商品は、24年にグッドデザイン賞を受賞した追い風もあり、ハンズや家電量販店、イオンやペットショップなど、女性客の多い新規販路の開拓に成功した。ユーザーの評判も上々で、当初の年間販売目標5万個を大幅に上回る8万6500個を売り上げた。
新商品開発の流れを加速 ブランド力向上目指す
同商品は、従来想定していなかった販路も獲得している。例えば、看護師向け医療雑貨を扱う通販サイトのアンファミエやナースリー、紀伊國屋書店やブックファースト、大手コンビニなどで、売り場の一角に専用棚やコーナーが設置されているケースもあるという。そうした状況から、今では長年ホームセンターを中心に活動してきた同社のベテラン営業マンが、ファッション業界など新たな販路開拓に挑戦しているそうだ。 「開発中は試行錯誤の連続でしたが、完成した商品が幅広い層に使ってもらえて率直にうれしいです。実は、以前からセンサーライトにとらわれない、少し違う商品をつくってみたいという思いがあったんですが、販路も広がってきたので、今後はそれを具体化していきたいと思っています」と三浦さんは次なる思いを語り、野田さんもこう続ける。「『みちくさプロジェクト』が世間から評価されたことで、実際、社内の雰囲気にも活気が出てきたと感じています。現在、月1回ペースでアイデアミーティングを行っていて、女性社員を中心にいいアイデアが提案されています。今後も新商品開発の流れを加速させて、ブランド力の向上を図っていきたいですね」
会社データ
社 名 : 株式会社ムサシ
所在地 : 兵庫県加古川市平荘町里551-1
電 話 : 079-429-0634
HP : https://musashi.inc
代表者 : 岡本 篤 代表取締役社長
従業員 : 100人
【加古川商工会議所】
※月刊石垣2025年9月号に掲載された記事です。
