現在、トランプ米大統領の政策は、世界経済にとって大きなリスク要因になっている。その政策運営が世界経済を下押しする中、最も重大な影響があるのは関税だ。8月7日、同氏は約70の国と地域に修正版の相互関税を発動した。ただ、米国と一部の国との間で、相互関税の扱いについて齟齬(そご)は残った。相互関税率の最低は英国などの10%で、39カ国が15%で最も多かった。シリアには41%、インドには、ロシア産原油の輸入を非難して追加で25%の関税を課し、計50%の関税をかけるという。ブラジルに対しても、ボルソナロ元大統領起訴への批判を主な理由に50%の関税をかけた。ベトナムは、中国からの迂回(うかい)輸出を行ったと見なされた場合、40%(相互関税率は20%)を負う。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、1980年から2024年まで、世界全体の実質GDP成長率は年平均3・3%だった。今年7月、IMFは25年の成長率は3・0%に低下するとした。米国は24年の2・8%成長から1・9%に急減速する予想だ。そのインパクトは大きい。今年6~7月、米国では、輸入ステンレス鋼を購入できない企業が出ていたといわれている。関税率の引き上げは、基本的に物価を押し上げ、一部で資材不足の要因になり始めている。そうした政策は、海外、特に新興国の経済成長を阻害する恐れがある。インドやベトナムなど、中国から製造拠点がシフトしている地域では、近年、工業化が急加速した。高関税は、それらの国への直接投資を鈍化させ、雇用、個人消費、物価、財政面に深刻な影響を与えることが懸念される。
