本日の第141回通常会員総会に、石破内閣総理大臣、武藤経済産業大臣、各政党のご来賓の皆さまにご臨席を賜り、誠にありがとうございます。また全国の商工会議所の皆さまにご出席・ご視聴いただき、重ねてお礼申し上げます。
はじめに、この夏の各地での大雨災害に見舞われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧・復興に向け、私どもも政府への要望や支援を継続してまいります。
世界秩序が揺らぐ中、中長期的な観点での国家運営が必要
さて、世界を見渡しますと、インフレの継続や経済格差の拡大を背景に、自国第一主義の潮流が一段と強まっています。米国による関税措置など保護主義的な政策は、国際経済秩序に大きな影響を及ぼし、貿易摩擦や地政学的リスクの高まりなど、先行きの不確実性を一層高めています。
貿易立国である日本が持続的に発展するためには、自由貿易体制の維持・発展が不可欠です。わが国には、価値観を共有する国々と連携しつつ、ルールに基づく国際経済秩序の維持・強化を粘り強く主導していくことが求められます。
国内に目を転じますと、現在、衆参共に少数与党体制となりました。世界経済秩序が揺らぐ激動の時代にあって、政治の安定は何よりも重要です。各政党には責任ある議論を重ね、速やかに国民の負託に応え得る新体制を構築し、将来に希望が持てる国づくりに向け、中長期的視点に立った国家運営に当たることを強く期待します。
同時に、わが国は人口減少という構造的課題に直面しております。「成長と分配の好循環」を実現し、持続可能な経済社会を築くには、潜在成長率の底上げ、中小企業の稼ぐ力の強化、地域経済の再活性化といった課題に対し、政策を着実に実行していくことが不可欠です。
もとより、外交・経済安全保障、DX・GXによる産業構造改革、食料・エネルギーの安定確保、少子化対策と社会保障制度改革といった重要課題には、一貫性と継続性ある取り組みが求められます。新たな政治体制の下、これらの課題に果断かつ実効的に対応されることを強く期待します。
中小企業は自己変革で逆境を克服
米国との関税交渉が妥結し、15%の相互関税などが課されることになりました。この新たな関税負担は、輸出企業のみならず、部品供給や物流などサプライチェーンを構成する中小企業にも影響を及ぼすことが避けられません。
中小企業は、渋沢栄一翁の「逆境の時こそ、力を尽くす」の精神を胸に、大きな変化をチャンスと捉え、果敢に自己変革へ挑戦することが求められます。イノベーションによる新技術開発、差別化された高付加価値製品・サービスの創出、知的財産の保護・活用、国内外での販路開拓、DX・GXの推進、さらにはビジネスモデルの転換など、多角的な挑戦が不可欠です。
政府には、こうした中小企業の挑戦を力強く後押ししていただきたいと思います。そして私ども商工会議所としても、これまで以上に中小企業の経営支援にまい進してまいります。
稼ぐ力の強化で持続的な賃上げや成長投資の原資を確保
足元の景況感を見ますと、中小企業の業況は2023年5月をピークに一進一退を繰り返しながら緩やかに下降しています。円安や物価高騰に加え、価格転嫁や賃上げ、人手不足、事業承継など、課題が山積しております。
このような中で、中小企業が持続的な賃上げや成長投資の原資を確保するには、「稼ぐ力の強化」が不可欠です。実際に賃上げの動きは広がっているものの、依然として約6割は防衛的な賃上げにとどまっています。また、都道府県別の最低賃金の改定額が確定し、全国 加重平均で1121円、引き上げ率6・3%と過去最大の上げ幅となりました。中小企業、とりわけ小規模事業者にとって極めて厳しい水準と言わざるを得ません。
政府には、6月に策定された「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」に基づき、官公需も含む価格転嫁・取引適正化や、業種別の「省力化投資促進プラン」を着実に実行し、中小企業が自発的かつ持続的に賃上げできる環境を整備していただきたいと思います。
特に価格転嫁について、今月は政府が定める「価格交渉促進月間」であります。パートナーシップ構築宣言や価格転嫁指針などを踏まえ、サプライチェーン全体での価格転嫁の実現に向け、粘り強く取り組んでいかなければなりません。
また、構造的な人手不足に対応するため、少数精鋭の成長モデルへの変革も急務です。待遇改善や採用・定着支援、能力開発に加え、外国人材・シニア・女性など多様な人材の活躍、柔軟な働き方の推進が重要です。さらに中小企業の実態を踏まえた働き方改革の効果検証も必要です。
次世代への円滑な事業承継に向けては、事業承継税制の活用が重要です。来年3月末に迫る特例措置の期限を見据え、今年末の税制改正において、「事業承継税制の特例措置の恒久化」を、全国の商工会議所が一丸となって強く訴えていく必要があります。
さらに、国内需要が縮小する中、海外需要を取り込むことも欠かせません。商工会議所は、政府やジェトロ、在外日本商工会議所などとの連携を強化し、海外展開を支援します。また、日本商工会議所は、来月末にドイツ・ポーランド・チェコへ経済ミッションを派遣し、民間経済交流を推進します。
また、エネルギーの安定供給は経済成長の基盤です。安全性が確認された原発の早期再稼働に加え、新増設やリプレースを含めた政府主導の取り組みが不可欠です。併せて、省エネルギー対策の加速や地域での脱炭素関連投資の拡大に向け、政府による支援策が求められます。さらに中小企業の実態を踏まえた働き方改革の効果検証も必要です。
地域経済の好循環で地域を再活性化
一方、少子高齢化・人口減少が進む中、「地域経済の再活性化」を図るには、人口規模が縮小しても、豊かで多様性に富み、成長力ある地域経済社会を構築することが必要です。地域の稼ぐ力を高め、新たな投資や消費を喚起する「地域経済の好循環」を実現するには、地域産業の競争力強化、多様な人材活躍と働く場の創出、産業立地や国内投資を促すインフラ整備が不可欠です。
地域産業の競争力強化に向けては、DX・GXなど成長分野への公的投資の拡大や、地域経済をけん引する中堅・中小企業による成長分野への挑戦支援が求められます。さらに、旺盛なインバウンド需要をはじめ域外需要を積極的に取り込むため、農林水産資源や歴史・文化・自然・食といった地域固有の資源を生かし、商品・サービスの高付加価値化を推進する必要があります。
多様な人材活躍と働く場の創出については、副業・兼業など柔軟な働き方の推進や、大都市の専門人材が他地域で活躍できる仕組みの構築、地域の教育機関と産業界の連携強化、外国人材との共生社会の実現が重要です。併せて、人材交流の基盤となる地方都市の再生も欠かせません。暮らしやビジネスに必要な都市機能を集積しつつ、地域固有の歴史・文化などを最大限に活用し、都市の個性と価値を高める取り組みが求められます。
産業立地や国内投資を促すインフラ整備では、産業用地や物流・人流を支える道路・港湾・空港・鉄道などの整備が不可欠です。わが国の立地競争力を高めるため、戦略的なインフラ整備を推進し、投資と雇用を呼び込む地域づくりが急務です。
こうしたインフラ整備は、頻発化・激甚化する自然災害への国土強靱(きょうじん)化の観点からも重要です。中小企業経営者には、BCP(事業継続計画)の策定や損害保険への加入など、日頃の備えも求められます。
政府が6月に閣議決定した「地方創生2・0基本構想」では、地域の稼ぐ力の強化、地方分散、広域連携の推進が掲げられ、年内には具体化に向けた「総合戦略」が策定されます。地域経済の再活性化には、行政と民間の結節点となる商工会議所の役割が一層重要となります。
日本商工会議所は、引き続き政府に地方創生に向けた要望を行います。全国の商工会議所におかれましては、地方自治体との緊密な連携をお願いします。
商工会議所の組織力と財政基盤の強化
私が会頭に就任して、間もなく3年になります。「原点は対話である」という信念の下、「現場主義」「双方向主義」を掲げ、これまで全国各地を訪ね、皆さまと対話を重ねてまいりました。そのたびに、地域総合経済団体としての商工会議所の役割や期待の大きさを実感しております。
商工会議所には、中小企業・小規模事業者への伴走型支援の強化に加え、行政や他団体など多様な主体をつなぐハブ機能を果たすことが求められています。
その実現には、組織力と財政基盤の強化が欠かせません。会員増強やPR活動の強化、青年部・女性会の活動推進に加え、検定試験、保険・共済などの収益事業の拡大、デジタル化の推進、職員の能力開発や待遇向上が不可欠です。
特に、「経営支援体制の強化」は喫緊の課題です。今年3月に小規模企業振興基本計画が改定され、経営支援体制の強化が盛り込まれました。私から石破総理大臣に対し、「伴走支援を担う経営指導員の増員や待遇改善」を強く要望した結果、6月に閣議決定された「実行計画」(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版)や「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針2025)に、経営支援体制・機能の強化が明記されました。
都道府県商工会議所連合会の皆さまには、知事に対し、経営指導員数の拡充を含めた経営支援体制の強化を、強く働き掛けていただきたく存じます。
大阪・関西万博は、開幕から5カ月余りが経過し、先日、累計来場者数が2千万人を超えました。私自身も頻繁に万博会場を訪れていますが、開幕直後から国民の関心と熱気が高まり、大変な盛り上がりが続いていることを実感しています。全国の商工会議所には、チケット購入や視察会の開催など、多大なご協力を賜り厚くお礼申し上げます。閉幕(10月13日)まで残り25日となりました。引き続きよろしくお願いします。
日本商工会議所は、この10月末で第32期を終えます。今期までご尽力いただいた会頭をはじめ役員・議員の皆さまに、これまでの活動に深く敬意を表するとともに、日本商工会議所へのご協力に心より感謝申し上げます。
11月から始まる第33期においても、日本商工会議所は、全国の商工会議所、連合会、青年部、女性会の皆さまとともに、強固なネットワークを存分に発揮し、山積する諸課題に積極果敢に挑戦し、新しい時代を切り開いてまいります。
皆さまの一層のご協力をお願い申し上げ、私のあいさつとします。