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あの人を訪ねたい 小山薫堂

「どんなに良い結果につながりそうな企画でも、やっている自分が不幸になったら、意味がないと思うのです。自分の人生がつまらなくなったら、こんなに悲しいことはない。まずは自分が楽しめるか、幸せになれるかが、企画を考える上で大切なポイントです」

平成23年、「ゆるキャラグランプリ」で見事1位に輝き、一躍全国区となった熊本県PRマスコットキャラクター「くまモン」。その生みの親として知られるのが小山薫堂さんだ。〝ゆるキャラブーム〟の火付け役ともいえる小山さんに、地域や企業を盛り上げる企画づくりのポイントを伺った。

思ったことを口に出すうちにプロデュース業にも進出

〝小山薫堂〟は何を生業にしているのか? それを一言で表すのは難しい。現在の「プロデューサー」というイメージがつくられたのは、平成23年、九州新幹線全線開業にあわせて行われた熊本県のまちづくりキャンペーン「くまもとサプライズ!」によるところが大きい。PRマスコットキャラクターである「くまモン」を全国的なヒットへと導き、一躍〝くまモンの生みの親〟として認知されるようになったからだ(デザイナーは水野学氏)。しかし、キャリアのスタートは放送作家であり脚本家である。

小山さんは「『何の仕事をされてるんですか?』って、よく聞かれるんです。そのたびに、自分が手掛けている仕事を思い返して、『そうだよな、なんて定まらない人生なんだろうな』なんて、思ったりするんですよね」と苦笑いを浮かべる。しかし、〝定まらない〟といっても、そこにネガティブな印象はない。業種の垣根を越えて仕事ができること、この先何が起こるか分からないワクワク感を楽しんでいるようにすら感じられる。その上、それぞれの領域で圧倒的な実績を残している。

例えば、放送作家として手掛けたテレビ番組の代表作は『料理の鉄人』(フジテレビ)、『東京ワンダーホテル』(日本テレビ)、『トリセツ』(テレビ朝日)など。脚本家としても、ヒット映画『おくりびと』がある。日本映画として初めてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品だ。小山さんは大学在学中からラジオ、テレビの世界でキャリアを重ね、第一線で活躍。それに加えて、現在は経営者、大学教授、ラジオのパーソナリティーという顔まで持ってる。

そんな小山さんが、いわゆるプロデュース業を始めたのは平成12年ごろ。きっかけは、なぜかいろいろ頼まれるようになったからと、小山さんは笑う。

「私は良く言えば親身な人、さもなければ良質なクレーマーなんです。日光金谷ホテルに泊まりに行ったとき、社長さんにお会いする機会があって。社長さんが、『何か気になったことがあったら言ってください』とおっしゃったので、『では言ってもいいですか』と(笑)。あそこの空間がもったいないから、もっとこうしたら良いんじゃないでしょうか。なんてお話をしたのです。そうしたら、それから電話で相談を受ける間柄になり、相談も多岐にわたるようになっていきました。いくら何でもそこまで私が意見を言うのはちょっとという話をしたところ『それならば顧問になってください』と。それが最初のプロデュース業だと思います」

自ら積極的にプロデューサーを目指したわけではない。自然とアドバイスを求められる機会が増えていき、それに応えるうちにたどり着いた。日光金谷ホテルのほかにも、企業や地域のアドバイザーなどを多数務めていることに加え、京都の料亭『下鴨茶寮』を経営している。このように、関わっている事業は数えきれない。

「結局、人って〝どう聞くか〟だと思うんです。同じように感想やアドバイスを伝えたとしても、『うるさいなぁ。分かってるけど、こっちの事情でできないから困ってるんだよ』っていう人もいれば、『やっぱりそうなんだな。外から見てそう見えるんだったら、改善しなくちゃ』って思う人もいる。私は改善しなくちゃと思う人の手助けをしていきたいですね」

楽しむ気持ちが大切 企画は〝気〟から!

小山さんがプロデュースした事業の中で、最も多くの人に知られているプロジェクトといえば、前述の「くまモン」だろう。なぜ、くまモンは全国で愛されるようになったのか。関連商品が売れ続けるようになったのか。根本にあるのは、企画を楽しむ気持ちだと小山さんは言う。

「どんなに良い結果につながりそうな企画でも、やっている自分が不幸になったら意味がない。だから、自分が楽しめるか、幸せになれるかというのが、企画を考える上での大切なポイントです」

その意味で、くまモンの企画に携わったメンバーは、みんなが楽しんでいた。現場で実際に汗を流す人たちが、喜びややりがいを持っていたのである。

「くまモンを知っていただくために、いろいろな場所でいろいろな活動をしました。その結果、くまモンが誕生した翌年には、全国各地からくまモン宛てに年賀状が届くほどでした。熊本県庁に行ったとき、担当の方が『小山さん、ちょっと見てください。くまモンに年賀状が来たんです。100枚もですよ!』って、本当にうれしそうに話してくれました。その姿を見れて僕もうれしかったですね」

現場で働いている一人ひとりが〝楽しむ〟という姿勢を持ち〝幸せ〟を感じていたからこそ、このまちおこしキャンペーンではさまざまな施策が生み出され、実行されて成功したのだろう。架空の生き物であるキャラクターに「年賀状を送ろう」と思ってもらえるほど、見る人一人ひとりの心に〝刺さる企画〟になり得たのである。

「よく、病は気からなんていいますよね。僕は、企画は気からだと思っています。〝企画〟を〝気画〟にしてもいいくらい。やっぱり、企みが過ぎると良くないというか。結果ばかりを求めて、その結果に達しなかったものが失敗、間違いだったと思いがち。でも、そうではなく、たとえ売れなかったとしても、本当のファンが5人でも10人でも生まれたら、その企画は成功だと僕は思います」

企画を考え、実行する前に〝インナー〟をつくる

さらにもう一つ。小山さんが考える企画成功のためのポイントが、企画を発信する側の中身をつくりあげることだ。小山さんは、それを〝インナー〟と呼んでいる。

「例えば海外旅行をしたとき。初めての土地で出会った現地の人がいい人だったら、この国はいい国だなぁ、と思いませんか? それと同じなんです。企業でいえば、社員一人ひとりの振る舞いが、その会社の印象になります。だからこそ、そこで働いている一人ひとりが〝自分自身が会社なんだ〟というくらいの気持ちにならないといけない。その意識がなければ、企業にとって楽しい企画というのは生まれないし、深く刺さる企画というのは生まれない。まずはそのインナーをつくり上げることが大切だと思います」

インナーにはもう一つの意味があるという。それは〝地元〟である。

「くまモンは、たくさんの人にその存在を知ってもらうために全国各地で告知をしました。でもまずは、熊本県内のさまざまな場所を訪問したのです。幼稚園だったり商業施設だったり、地元でしっかりアピールすることで、『こんなに頑張ってるなら応援しよう』と地元の方に思っていただけたんですよね」

思わず応援したくなるような関係性を身近なエリアで築くこと。この関係性ができていれば、ちょっとした印象だけで企画や企業自体を悪く言われたりはしない。批判されたとしても、それは愛のある助言なのだ。小山流企画論の根底には、自分の周りにいる人を幸せにすること、喜ばせるということがあると分かる。

「2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本の価値を再確認するような位置付けになると思います。僕自身、それに沿った仕事を、自分がやっている範囲内でできたらと思います。その手段は映画かもしれないし、経営している料亭の日本料理かもしれない。手段はまだ分かりませんが、そんな仕事をしていきたいですね」

放送作家、脚本家、プロデューサーを始め、さまざまな顔を持つ小山さん。自らも楽しみながら、今後も多くの人に幸せを運んでくれるだろう。

小山薫堂(こやま・くんどう)

放送作家・脚本家

1964年、熊本県出身。日本大学藝術学部放送学科卒業。大学在学中にラジオ番組の放送作家として仕事を始め、その後テレビ番組の放送作家として独立。『料理の鉄人』『トリセツ』などのテレビ番組構成に携わり、脚本を担当した映画『おくりびと』では第81回米アカデミー賞外国語映画賞獲得。熊本県PRマスコットキャラクター「くまモン」の生みの親としても知られる。クリエーターズオフィスN35代表。株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。株式会社下鴨茶寮代表取締役社長。東北芸術工科大学教授。『明日は心でできている』(PHP文庫)他著書多数。

写真・矢口 和也

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