近年、廃施設を有効活用しようという動きが全国に広がっている。国も、民間のノウハウ・資金などを活用した「スモールコンセッション(※)」を通じ、廃校や歴史的建築物といった“地域資源”にスポットライトを当てて、まちづくり・地域産業の振興に生かす取り組みを推進している。今回はこのような活発な動きに焦点を当て、小さな事業者による大きな可能性を感じさせる事例を紹介する。
※地方自治体が所有する遊休不動産を活用して地域課題解決やエリア価値の向上につなげる、小規模(事業規模10億円未満)な官民連携事業のこと。地域企業などが担い手として期待されている。
廃工場を公園のような“自由な空間”に 地域に開かれた商業空間の新しい形
新潟県柏崎市で不動産業を営む八幡開発は、廃業した建材会社の工場を買い取り、リノベーションを施して芝生の広場などを持つ商業施設「ハコニワ」を2020年10月末にオープン。それから5年、今ではポップアップストアやイベント開催、ウエディング、隣接する田畑での農業体験なども行っており、老若男女が気軽に集まれる施設として市内外から人が訪れ、地域ににぎわいを生み出している。
「不動産×まちづくり」でまちをリノベーションする
柏崎市の郊外にあるハコニワは、かつては廃業したサッシ工場だった。それが今では、駐車場と緑の芝生が広がり、奥の建物にはカフェやベーカリー、雑貨店などの個性豊かな店舗が並ぶ。この施設を再生したのが、市内で不動産業を営む八幡開発社長の飯塚政雄さんだ。飯塚さんは父親が創業した同社を継ぎ、地域に根差した不動産事業を続けてきた。その飯塚さんが挑んだのが「リノベーションまちづくり」で、空き家や遊休不動産を活用し、地域の魅力や人のつながりを再生することだった。
「会社を継いで16年になります。以前は不動産売買が中心でしたが、地方では人口減少が進み、土地も建物も思うように動かない時代になりました。そこで、不動産業者としての利を生かし、地域の価値を高めるようなことができないかと考えるようになったのです」
そう語る飯塚さんが着目したのが、「不動産×まちづくり」という発想だった。2016年には、全国のまちづくり志望者が学ぶ東京のスクールに参加し、まちの再生手法や地域リノベーションのノウハウを学んだ。
「当初考えていたのは、地域に人を呼び込む“点”を一つずつ打っていくことでした。その第一歩として、当時は柏崎駅南にあったうちの事務所に併設してパン屋を始めました。地域においしいパン屋があると、まちの価値が上がる。そうして、ほかの事業者も呼び込んでいこうと考えていました」
まちづくりの現場では、「誰が投資して誰がやるのか」を明確にしないまま頓挫する例も多い。飯塚さんは自らリスクを取り、「まず自分がやる」ことを選んだ。
古い建物には手を加えず内装を新しくしていく
その2年後、次の出店を考えていたときに、借りていた事務所のオーナーとの調整がつかず、地域での新たな展開を進めることが難しくなった。そんな時に耳にしたのが、倒産した工場の建物がまもなく競売に掛けられるという話だった。飯塚さんは迷わず動いた。
「その工場の社長さんには以前お世話になっていて人柄を知っていましたし、建物の規模も手頃だったので、ここを次の拠点にしようと決めました。取得には億単位の借入金が必要でリスクはありましたが、リスクばかり考えていたら踏み込めない。それ以上に“このまちに新しい場所をつくる”という思いの方が強かったんです」
取得したのは土地860坪、建物400坪の物件で、そこに10数軒の店に入ってもらう。そしてもう一つ、飯塚さんが考えていたのは、そこを単なる商業施設ではなく、「民間がつくる公園」にするというコンセプトだった。
「公共の公園では、近隣住民の苦情を恐れるあまり禁止事項が増え、子どもたちが寄りつかなくなってしまっています。本来、公園とはもっと自由で開かれた場所のはず。ここは民有地だからこそ、気軽に訪れて好きなことができる“自由な空間”にしようと考えたのです」
ハード面では、築38年の建物には極力手を加えずコストを抑え、内装は新しくすることで新旧が混在したリノベーション感のある建物にする。そして、駐車場から芝生広場、建物、窓の外の田園風景を一体的にデッキでつなげることで外と中の境界を緩やかにし、公園のように人々が気軽に出入りできる空間を意識して設計した。
初期投資額を抑えテナントは地元事業者に
飯塚さんは現実的な戦略を取った。まずテナントを先に決め、その家賃収入から逆算して初期投資額を決めたのだ。
「最初に家賃収入額を確定させて、それを基に投資額を決める“逆算開発”で、初期投資を抑えて着実に事業を回していくことができます。また、契約したテナントには設計段階から関わってもらいました。配置や内装の希望を聞いて設計することで、入居後のミスマッチを最小限にできるからです」
そしてもう一つの戦略が、地域内経済循環を念頭に置いた「地元事業者だけでテナントを構成する」ことで、チェーン店のように外に利益が流出しない仕組みを意識した。現時点で一軒を除いたテナント全てが柏崎市内の小規模事業者である。飲食、食品、花屋、雑貨店など業種は多彩で、利益は地域に還元される。
「まず店舗の業種構成を決めて、お菓子屋さんならこの人、レストランならこの人とピンポイントにお声掛けしました。断られることもありましたし、途中で出店を取りやめる事業者もいましたが、建物の取得から約10カ月で全てのテナントが決まりました」
そして、2020年10月31日、11店舗が入ったハコニワがオープンした。平日は地元客がメインで、週末には市外や県外からの来場客もある。客の8割は女性客で、週末はファミリー層が増える。
「ハコニワに地元事業者が出店したことで新たな雇用が生まれ、地域の人にとっては憩いの場になっていると思います。今後は広い駐車場を基点に、周囲の有休不動産を活用してエリアリノベーションも進めていけたらと考えています」と飯塚さんは目を輝かせる。
ハコニワの芝生広場には、今日も買い物客が訪れる。それは、空き工場が息を吹き返した証しであり、地域再生の新しい形を示している。
会社データ
社 名 : 八幡開発株式会社(はちまんかいはつ)
所在地 : 新潟県柏崎市横山440-1
電 話 : 0257-22-3357
HP : https://www.hatiman.jp/index.html
代表者 : 飯塚政雄 代表取締役社長
従業員 : 12人(パート・アルバイト含む)
【柏崎商工会議所】
※月刊石垣2025年12月号に掲載された記事です。
