2024年元日に発災した能登半島地震、さらに同年9月に能登を襲った豪雨災害により能登半島の被災地の復旧・復興は遅々として進んでいないのが現状だ。一方で試練を乗り越え、再び能登半島に元気とにぎわいを取り戻そうと立ち上がる地域企業がある。さまざまな困難に負けず、能登の復興をけん引しようと頑張る被災地の企業・団体から話を聞いた。
再建にまい進する老舗和ろうそく店が被災地域に希望の灯をともす
能登・七尾市で130年にわたり和ろうそくをつくり続けてきた高澤商店。能登半島地震では、国の登録有形文化財にも指定された店舗が全壊する甚大な被害に見舞われた。しかし、社員が一人も欠けることなく生産を再開し、再建へと歩みを進めている。伝統を守りながら挑戦を続けるその姿は、被災地復興の象徴となっている。
店舗全壊の甚大な被害 「命が助かっただけでも幸運」
1892年創業の高澤商店は、和ろうそく製造一筋で歩んできた老舗企業である。和ろうそくは、ハゼやヤシ、米ぬか、菜種などから採れるろうを主原料としている。芯は丸めた和紙に灯心草を巻き付けたもので、そこにろうを塗り重ねてつくる。中央の空洞から空気を取り込んで炎が大きく安定し、風にも強い。また、植物性原料のため一般的なろうそくより油煙やすすが出にくい。
「溶けたろうが垂れにくい『錨型(いかりがた)』という形状で、炎が大きく力強いのが特長です。これらはろうそくを生活の明かりとして用いていた先人たちの知恵と工夫の結晶ですね」と、同社五代目の高澤久さんは説明する。
そんな歴史を物語るのが築100年超の本店店舗だ。2度の大火に見舞われたことから防火性を重視して土蔵造りに改築し、国の登録有形文化財にも指定されている。その建物が2024年1月1日の能登半島地震の直撃により全壊し、一瞬にして機能を失った。鉄骨構造だった工場と倉庫は倒壊を免れたが、内部の機械はコンクリートの固定が剝がれて散乱し、生産機能もストップした。「命が助かっただけでも幸運」と語るほど、被害は深刻だった。
製造再開を最優先し従業員の雇用を守る
「すぐに被害状況を確認したところ、店舗は余震が来たら完全に倒れてしまうような状況だったので、大工さんに頼み込んで内部を木材で補強してもらいました。工場の方は片付けて機械を元に戻せば、再開できそうだと判断しました」
1月9日、高澤さんは社員に午前中だけ出社してもらい、工場の片付けに着手した。社員は幸い全員無事だったが、自宅が全壊して避難所から出勤してくる者が何人もいた。それでもろうそくの製造再開を最優先したのは、先行きに不安を抱える従業員の雇用を守るためだ。また、再建を目指す姿は地域にも“明かりをともす”と考えた。
しかし、最大のネックは断水だった。和ろうそく製造では、ろうの冷却に水を使う。水道の復旧まで2カ月かかったため、それまでの間、近隣の田んぼにある地下水ポンプを借り、パイプを延ばして工場まで引水する応急措置を取った。こうして1月下旬には、製造再開にこぎ着けた。
「次の問題は配送です。あちこちで通行止めが発生して、運送屋さんがなかなか来られないので、当店の金沢営業所までろうそくを運んで、そこから全国各地のお得意先に出荷する体制を整えました」
3月には仮店舗をオープンする。「ろうそくや線香が買えないと、お仏壇に手が合わせられない」という地元客の声が後押しとなった。観光客の減少で店舗の売り上げは、震災前の7割程度にとどまるが、ECサイトの販売を強化し、扱う商品数を増やして利便性を向上させたことで、ECの売り上げは震災前の約2倍になったという。
意匠を残して店舗再建を決意 地域のコミュニティ空間に
同店は戦後いち早く、型にろうを流して固める製法を考案し、製造時間と職人の育成期間を短縮、生産量は飛躍的に向上した。需要の拡大に対応して、七尾から北陸、中部地方へと販路を広げ、全国に20社ほどある和ろうそくメーカーの中で、約20%の高いシェアを誇る。
「得意先は、仏事関連専門の問屋や仏壇店、お寺などで、全体の約8割を占めます。後の2割は暮らしの中の“明かり”として楽しむ用途で、百貨店や生活雑貨店などにも卸しています」
仏事用途の需要が減少傾向に転じたことで、20年程前から海外展開に乗り出したのと並行して新商品開発にも積極的に取り組み、100種類以上の商品を扱ってきた。そのマインドを失うことなく、昨年新たに震災復興への思いを込めた「氷割(ひわ)れろうそく」を発売した。春の訪れを告げ、発展や開花を意味する伝統的な「氷割れ文様」をモチーフに、自分の手で割って楽しんでほしいとの思いを込めた一品だ。ろうそくの炎が持つ“心を落ち着かせる”という情緒的な価値にも着目し、今後はヨガや瞑想などのウェルネス分野で心身の健康に貢献するアイテムとして新たな需要創出を見据える。
また、昨年春には店舗再建に向けた工事が始まった。店舗を解体せず、建材の多くを再利用して震災前の外観を復元し、27年春ごろのオープンを目指す。
「本当は全て撤去して一から建てた方が早いんですが、建物や道具とともに歴史や文化、風景を継承するためにも、できるだけ当時の意匠を残したい。店舗は単なる物販の場でなく、店主とお客さまが対話を通じて心のケアや活力を得るコミュニティ空間でもあります。そんな場の再建が地域の“希望の灯”となれば」と高澤さんは語った。
会社データ
社 名 : 株式会社高澤商店(たかざわしょうてん)
所在地 : 石川県七尾市一本杉町11
電 話 : 0767-53-0406
HP : https://takazawacandle.jp/index.html
代表者 : 高澤久 代表取締役
従業員 : 28人
【七尾商工会議所】
※月刊石垣2026年1月号に掲載された記事です。
