香川県三豊市にあるえび煎餅の老舗、志満秀。同社の看板商品「クアトロえびチーズ」が、発売から10年を経ても根強い人気を博している。マカロンのように色鮮やかな見た目とワインにも合う大人の味─。そんな和でも洋でもない新感覚のえび煎餅を生み出し、伝統を超えてロングヒットとなった背景には、時代を読む確かな感性があった。
4種類のチーズとえび煎餅が奏でる絶妙なハーモニー
えび煎餅は、日本の食文化に古くから根付き、幅広い年齢層に親しまれている。多種多様な商品がある中でも異彩を放っているのが、えび煎餅の老舗・志満秀が販売する「クアトロえびチーズ」だ。
「丸いえび煎餅に、チェダー、カマンベール、モッツァレラ、ブルーチーズという4種のチーズソースをそれぞれサンドし、異なる色と味わいに仕上げた新感覚のえび菓子です」と、同社社長の泉宮秀明さんは特徴を説明する。 1950年に創業した同社は、もとは小さな魚屋からスタートした。鮮魚を販売する傍ら、市場で仕入れた小魚を材料に海産珍味を開発。以降、長年にわたり高級えび煎餅を手掛け、主にギフト用途で重宝されてきた。しかし、2010年代に入って贈答文化の縮小を受け、先代社長が打ち出したのが「次の世代に届く煎餅をつくる」という方針だった。
「当時は、贈答品メインの商品ラインナップで、50~70代の方が主な購買層でした。しかし、時代の流れとともにお中元やお歳暮の需要が減ってきたことや、『たまには自分が食べるために買いたい』という声を頂戴していたこともあり、新規顧客を獲得すべく新商品づくりに乗り出したんです」
“女子会にお取り寄せしたいえび煎餅”をイメージ
開発に当たって、ターゲットは情報発信力の高い30〜40代の女性に設定した。当時「女子会」がブームだったことを受け、お取り寄せして女子会に持ち寄るシーンをイメージしながら「見て楽しい、食べておいしいえび煎餅」をコンセプトに決めた。
「当社の詰め合わせ商品の中に、えび煎餅にチーズを挟んだものが入っていて、けっこう人気が高かったんです。ただ、普通のチーズサンドでは他社との差別化は難しい。付き合いのある百貨店のバイヤーさんやシーズニング(調味料)会社に相談したところ、世界のチーズを使ってみたらどうか、というアイデアが出てきました」
とはいえ、世界には数え切れないほどのチーズがある。そこでチーズに詳しいシェフにアドバイスを仰いで試作し、最終的にチェダー、カマンベール、モッツァレラ、ブルーチーズの4種類を選んだ。さらに、それぞれのチーズにブラックペッパーやバジル、ハニーなどを加えることで、味に変化と深みを付けた。
「こだわったのは、口の中でえび煎餅とチーズが同じスピードで溶けるようにつくることでした。どちらかが早くてはダメで、溶け方をシンクロさせることが素材のおいしさを引き立てます。そのために煎餅に使用する馬鈴薯(ばれいしょ)デンプンの種類やえびの配合を変えながら試作を重ねました」
こうして味や食感は固まり、残る課題は“見た瞬間に心をつかむ見た目”となった。当初からえび煎餅への着色を考えており、チーズのフレーバーに合わせてチェダーはオレンジ、カマンベールはイエロー、モッツァレラはグリーンにすんなり決まったが、ブルーチーズのブルーだけ社内から異論が出た。
「淡いブルーだと焼き上がりが色あせするので、ある程度濃くする必要がありますが、濃過ぎると食品っぽくなくなってしまうんです。それでもブルーにしたかったので、何度も調整して社内が納得する色味にたどりつきました」
着手から2年近い時を費やし、ようやく創意工夫を凝らした「クアトロえびチーズ」が誕生した。
瞬く間にSNSで拡散された「ジャパニーズマカロン」
14年5月にオンラインショップや百貨店、駅ビルなどで販売を開始すると、色鮮やかな見た目から「ジャパニーズマカロン」と注目を集め、瞬く間にSNSで拡散された。ターゲットの30~40代の女性だけでなく、50~60代の贈答品需要も取り込み、初年度累計約700万枚を売り上げるロケットスタートを切った。
「えび煎餅は、もともと贈答用として展開してきましたが、『クアトロえびチーズ』に関しては550円から5000円までさまざまな価格帯を設け、自分用に買い求めやすくしたことも売れ行きにつながったと思います」
その後、同商品専用の製造ラインを増設して生産を強化し、シリーズ第二弾として「クアトロえびチーズ・ルッソ」を発売した。イタリア語で「ぜいたく」を意味するルッソの名の通り、世界を代表する料理ジャンル(フレンチ、イタリアン、中華、和食)の食材を組み合わせたフレーバーを加えた、大人の創作えびチーズサンドだ。ほかにも、ワサビやシイタケ、めんたいこ、ホワイトチョコレートなどを使った季節限定品もつくり、現在も年間販売累計300万枚と安定した売り上げを維持している。
「発売から10年以上、当社の看板を背負ってきてくれた『クアトロえびチーズ』ですが、全国的な認知度はまだまだと感じます。特に新型コロナ収束後は、認知度拡大を最重要課題としています。地域限定のオリジナル商品や企業、アニメ、ゲームとのコラボ商品開発を強化して話題性を高め、販売を強化していきたいです」と泉宮さん。
同社は“変わらないおいしさ”と“変える勇気”を両立させながら、今も新たな菓子の未来を描いている。
会社データ
社 名 : 株式会社志満秀(しまひで)
所在地 : 香川県三豊市山本町大野2876
電 話 : 0875-63-2238
HP : https://www.shimahide.com
代表者 : 泉宮秀明 代表取締役社長
従業員 : 60人(パートも含む)
【観音寺商工会議所】
※月刊石垣2026年1月号に掲載された記事です。
