高市早苗首相の台湾有事発言をきっかけに、日中関係は一気に冷え込み、現実の季節さながらの厳冬期に入った。中国政府の対応、発信は2012年9月の尖閣諸島国有化の時以来の厳しさだが、大きく違う点もある。中国の一般の人の対応だ。思い出せば、12年には中国各地で日本企業の工場、店舗が襲撃され、日本車や日本製品が破壊された。今回は中国政府による訪日自粛呼び掛けや実際の旅行キャンセル、日本関連イベントの中止こそ起きてはいるが、激高した市民が日本企業を襲撃する極端な事態にまでは発展していない。
中国における反日デモは政府の指示、運営で実施されることが少なくない。政府が大学や役所からデモ、集会会場まで送迎バスを出し、マニュアル通りに反日シュプレヒコールを叫ぶという仕組みだ。そこから予期せぬエスカレーションが起き、投石や放火に及ぶこともあり、政府にとっても市民の怒りを制御するのは簡単ではない。
12年9月、筆者は取材で、襲撃・略奪に遭った山東省青島市のイオンのショッピングセンターに足を運んだが、ガラスの壁面はほぼ全壊、店内の什器(じゅうき)は倒され、商品は持ち去られていた。近くの日本メーカーはさらにひどい被害で、4階建ての工場内部が全焼していた。
高市発言の20日後の11月27日、湖南省長沙市に「イオンモール長沙湘江新区」がオープンした。延べ床面積が大型デパート2個分に当たる23万6000㎡という巨大モールで、イオンとしては中国で23番目のモールとなる。当局の妨害もなく予定通り開店し、買い物客でにぎわっている。12年には同じ長沙市の日系大規模小売店の平和堂が暴徒の襲撃・略奪に遭った。青島のイオンの被害も含め、今回はより深刻な政治状況にもかかわらず対照的な光景といえる。
一見矛盾する中国政府の対応の判断基準は「中国経済に役立つかどうか」にある。タレントのコンサートの経済波及効果は薄いが、巨大モールの開店は停滞する中国の建設・資材業界に大きなプラスとなる。中国の小売業は今やEコマースが主導し、リアル店舗は不振が続き、新規開店は激減している。米小売り大手ウォルマートは旧来のスーパーを減らし、倉庫型安売り店舗とネットスーパーに転換した。中国は今なお巨大投資で店舗建設を進めるイオンを評価し、市民もモールの進出を歓迎している。
冬の時代の長期化が必至の日中関係の下で、日本企業が中国ビジネスを続けていくには、経済効果を明確に示し、消費者に新たな価値を提供していくことが鍵となる。

