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意見書「観光立国のさらなる前進をめざして」(抜粋)  観光需要の偏り是正を

図1 訪日外国人旅行者が訪日時にしたこと・次回訪問時にしたいこと

日本商工会議所が4月19日にとりまとめた意見書は、政府の「観光ビジョン実現プログラム2018」の策定に先立ち、「観光立国」への歩みを確実なものとするために、官民がそれぞれにあるいは連携して取り組むべき事項などを取りまとめたもの。特集では、本意見書を抜粋して紹介する。

わが国は急速に少子化が進んでおり、各地域には人口減少に対処していく知恵が求められている。交流人口を呼び込んで外貨を稼ぐ観光振興を進めることが重要な鍵である。

訪日外国人は急激に増加して2017年には2869万人を記録した。近年の傾向に照らせば、20年に4000万人という政府目標も達成される見込みである。訪日外国人数の伸びに伴って観光消費も総額ベースで増えており、各地域がそうした需要を確実に取り込めるようにすることが重要である。

訪日外国人の動向に合わせるかのように日本人の国内観光もここ3年間わずかながら増加してきており、17年には過去8年間で最多(6・47億人。速報ベース)となった。ただし、わが国の人口減少が確実である以上、国内観光は先細りの懸念が拭えない。どの地域においても、「また訪れたくなる、何度でも訪れたくなる」魅力ある地域づくりに向けた観光資源の発掘・磨き上げが求められている。

インバウンドの需要拡大が続くこの機を逃さず、持続的な観光振興とリピーター確保対策を柱として「観光立国」を実現するための全国的な取り組みを加速しなければならない。観光インフラの整備はもとより、来訪者に快適な旅・滞在を提供できるような環境や仕掛けの充実に官民を挙げて取り組むとともに、観光需要の大都市圏や特定観光地・地域などへの偏りを是正して交流人口の全国各地への均てんが図られるような政策・施策の展開を強く望む。

なお、インバウンド訪問先の地域的偏りなどから、慢性的な渋滞や事故の発生など負の事案が生じているケースも見られる。安全・安心な環境の中で観光客が快適に過ごせ、かつ当該地域・住民生活との関わりを良好に保ちつつ持続可能な形で地方創生が図られるような観光振興を進めていく必要がある。

Ⅰ. 観光客の地域分散を進める汎日本(オールジャパン)観光へ

1.交通インフラの整備拡充

⑴観光は必ず移動を伴う行動であり、観光振興のためには交通環境の充実が不可欠である。このため、地域分散を図るための基幹交通体系の整備が重要であり、ミッシングリンクの解消をはじめとする幹線道路の整備、整備新幹線・リニア中央新幹線の着実な建設が求められる。

なお、移動手段の利用自体が観光目的とされる豪華列車の旅や、秘境(行きにくい場所)に対する嗜好(しこう)など、人々の「楽しみ方」の多様化に合わせた観光開発とその支援を強化すべきである。

⑵基幹交通拠点からつながる二次・三次交通との結接が未整備であるため、その先の地域に観光客が行きにくい状況にある。JRグループが販売し多くの訪日外国人が利用している「ジャパン・レール・パス」のような周遊パスについてローカル鉄道やバスなどと連携させる仕組みを検討・導入すべきである。また、訪問先で移動手段を持たない観光客にとり、便利・快適な公共交通が果たす役割は大きい。環境にも優しい新たな地域交通システムとしての活用が注目される「エコカート」などの普及支援を図られたい。

⑶地方空港は、インバウンドを直接地域に呼び込む玄関口として重要な役割を果たすが、訪日外国人に対応できる機能やサービスが整っているとは言い難い。地方空港におけるCIQ(税関・出入国管理・検疫)体制の充実や先進的保安検査機器などの導入によるサービス機能およびセキュリティーを早急に強化すべきである。

⑷2017年のクルーズ船の寄港地は130港あり、訪日クルーズ旅客数は253・3万人(前年比27・2%増)、クルーズ船の寄港回数は2765回(前年比37・1%増)となり、いずれも過去最高を記録した。クルーズ船の寄港は、寄港地を中心とした観光客の増加、グルメ・ショッピングをはじめとする地域での消費喚起といった経済効果や訪日外国人と地域住民と交流促進などの効果が挙げられる。しかし、寄港地から遠隔地の大型商業施設に直行し、地元の商店や観光施設への誘客が進まない地域もある。地域内に観光客が回遊するよう官民連携による公共交通の仕組みづくりが必要である。

2.地域交通システムの構築

⑴地域交通の全般的な特徴として、観光客の利用には地域的・季節的な偏りがあり、通勤・通学の利用は時間的偏り(朝夕に集中)がある。こうした交通需要を支えるためには多くの場合、固定施設(駅・空港など)や高価な機材(車両、航空機など)が必要であり、需要集中期に需給を絶えずバランスさせることは困難である。このため、季節によって需給逼迫(ひっぱく)による混雑などが生じ、観光に支障をきたすケースが見られる。

各地域において、鉄道、バス、タクシーなどの交通事業者と観光地が連携して観光客の移動が円滑に行われるよう、運行計画や運賃制度などを調整する仕組みとして、マドリード州(スペイン)や熊野エリア(和歌山県)に取り組み例が見られる地域ごとに最適な観光交通システムを構築することが必要である。

3.観光渋滞の解消(略)

Ⅱ. 多様なニーズを捉えて地域に人を呼び込むワイドな観光へ

1.産業観光をはじめとするテーマ別観光の一層の推進

⑴全ての地域には産業(なりわい)があり、産業の視点で地域を見つめ直すことにより、工場をはじめとするものづくりの現場、産業遺構といったハードだけではなく、これらの産業を支える技術・技能、デザイン・意匠などといったソフトも観光資源として発掘することが可能になる。さらに、歴史的・文化的価値のある遺産と組み合わせることにより産業観光の幅が広がり、持続可能な観光として推進すべきである。

⑵産業観光は、当該企業の広報・CSR活動や製品ブランド価値向上などを動機として行われているものが多く、一般的に無料であることからビジネスモデルが成立しにくい状況にある。そのため、産業観光による旅行商品が造成できずに取り組みが中断している地域・企業の実態も伝えられている。持続的な産業観光とするため、企業単体ではなく地域として実行委員会・コンソーシアムなどを立ち上げ、収益のプールおよび配分といったビジネスモデルを構築すべきである。

⑶産業観光における見学・体験・テクニカルビジットといった産業(企業・工場)訪問は、「コト消費」を志向する訪日外国人からも関心が高く、MICE誘致に寄与するコンテンツとして、より一層推進するべきである。

⑷2017年の訪日外国人の消費支出に占める娯楽サービスの割合は約3%にすぎず、観光先進国である欧米諸国に比べて低い。一方、同年の訪日外国人の6割はリピーターであり、彼らが次回訪問(リピート)時に希望する活動としては、自然・農漁村体験、温泉入浴、歴史・文化体験などといった「コト消費」への人気が高い。伝統家屋を活用した茶道、華道、琴などの文化体験プログラムが人気を博している実態を踏まえ、体験型コンテンツの開発を強化すべきである。(図1)

⑸ユネスコの世界遺産に登録されている日本国内の文化・自然遺産(文化遺産16件、自然遺産4件)や国宝などの文化財(例:国宝1110件)は、多くが大都市圏でなく地方圏にある。こうした世界遺産や文化財は国内外の旅行者の訪問動機につながり、旅行者の地域分散に有効である。国としてそれらを活用するための各種取り組みを進めているが、より一層重要なことは、各地域の文化財などの情報発信を強力に進めることである。また、2015年度に創設された地域の歴史、文化、伝統に関する「日本遺産」の認定と情報の拡散を図るべきである。これらの情報発信の際には多言語化が当然のこととして必要である。

⑹発想の転換、地域資源の見直しにより、新たな観光サービスを推進すべきである。事業化のために適正な有料化や行政支援が求められる。

2.多様な時間帯に楽しめる観光・サービスの推進(略)

3.国際的イベントをてこにした誘客強化(略)

4.観光による被災地域の復興支援(略)

Ⅲ. 観光を地方創生を実現する競争力のある産業とするために

1.多様な人材の活躍推進による人手不足・人材不足への対応(図2)

⑴宿泊・飲食業などにおける人手不足解消に当たっては、女性・高齢者などの多様な人材の活用促進が不可欠であることから、民間事業者における社会保険料の負担軽減、職業訓練への支援拡充をはじめとした労働環境整備をすべきである。

⑵急増するインバウンドへの対応に当たっては、外国人の一層の活用促進が不可欠であることから、外国人技能実習制度における2年目以降の在留資格となる2号移行対象職種の適宜見直しが必要である。例えば、宿泊・飲食業界からのニーズが高い料飲サービス業においては、職業能力開発促進法に基づき実施される「レストランサービス技能検定」が存在することから、こうした検定試験を2号移行対象職種の追加に必要となる技能評価試験として活用しながら、制度への組み込みを図るべきである。また、現行9項目に限定されている在留資格「技能」(特殊専門職)の追加を前提とした見直しを図るとともに、新たな外国人受け入れ制度の構築に関する検討も開始すべきである。

⑶各地域のDMOを実質的に支えているのは、観光関連企業からの出向者であることも多く、観光人材の確保継続の重要性が指摘されている。観光地経営と観光産業高度化に資する観光経営人材の育成を重点的に推進すべきである。

2.IT・IoTの活用による生産性向上

⑴経営効率の低さが指摘されている宿泊・飲食業などにおいては、汎用的消耗品・食材などの共同調達・購入による経営効率化が期待されることから、こうした共同化事業などの推進の核となり得る業界に対して支援を行うべきである。

⑵きめ細かな接客対応や清掃・ベッドメーキングなどの重労働を伴う宿泊業などにおいては、宿泊予約システムをはじめとしたIT化への支援や重労働の自動化・省力化に向けた産業ロボットなどの開発促進を図られたい。同時に、これらの中小・小規模事業者への導入支援を図るべきである。

3.DMOなどによる国内連携の推進(略)

4.国境を超えた国際連携の推進(略)

Ⅳ.安全・快適な観光実現のために

1.観光客の安全・安心・トラブル防止への対応

⑴国の訪日外国人向け情報アプリ「Safety tips」はプッシュ型の情報周知など有効であるが、認知度の低さが課題である。在留外国人による活用促進を含めJNTO・在外大使館などとも連携した訪日外国人向けプロモーションを強化されたい。

⑵全国の商工会議所に対し、各地における旅行者の安全確保に配慮した危機管理対応について聞いたところ、全国的に取り組みが進んでいないことが分かった。 他方、観光庁では2014年に自治体向けに「訪日外国人旅行者の安全確保のための手引き」を提供し取り組みを促したが、どの程度活用が進んでいるか不明である。各地のその後の状況を把握し、訪日外国人の危機管理対応確立に向けた指導および支援をお願いしたい。(図3)

⑶訪日外国人の傷病対応に関しては、医療機関の過半数が意思疎通や未収金リスクなどを負担に感じており、実際、2015年度の1年間に診療・治療に当たった医療機関の35%が医療費の未収を経験している。市町村など自治体は地域の外国人患者受け入れの実態を十分には把握していないことから、地方運輸局と自治体が連携・協力して状況を把握するとともに対策を速やかに講じるべきである。

2.住民の安全・安心、地域保護への対応(略)

3.訪日外国人旅行者の滞在利便性の拡充(略)

4.親しみを感じ、歓迎されていると感じるもてなしのまちづくり(略)

Ⅴ.官民の連携・協働、情報発信体制の構築、観光統計の整備について

1.連携・協働および新たな観光財源の活用策

観光地域づくりの推進には、官民の連携・協働が欠かせない。特に、財政基盤の弱い地域の取り組みには国による支援が重要である。

国は、観光立国実現に向けた観光施策の拡充・強化を図る観点から、観光促進のための税として国際観光旅客税を創設し、2019年1月7日以降の出国旅客に定額・一律1000円を徴収する。本税の使途については、①ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備、②わが国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化、③地域固有の文化、自然などを活用した観光資源の整備などによる地域での体験滞在の満足度向上、の三つの分野に充当する基本方針が示されている。

本税については、外国人のみならず日本人も徴収対象であることから、インバウンド需要への対応のみならず国内観光の振興にも使われるべきであり、特に観光客を各地域に分散させる施策に重点的に使われることを検討されたい。

2.情報発信体制の構築(略)

3.基礎的な観光統計の一層の整備(略)

本意見書の全文は日商HP(https://www.jcci.or.jp/news/2018/0511110433.html)をご覧ください