2016年4月1日に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行されて、2年が経過した。昨今の人手不足対策のためにも、女性が働きやすい魅力ある職場づくりに取り組むことは、優秀な人材の確保、定着のためにも有効である。本特集では、あらためて「女性活躍推進法」の概要と同法が目指す「女性が活躍できる会社」になるための中小企業の取り組み事例および厚生労働省などが行っている支援策について、同省の特別寄稿で紹介する。
法律の概要
日本では、働きたいと思っているにもかかわらず働いていない女性が約262万人おり、働いている女性も約5割が、第1子出産をきっかけに退職している。再就職した場合でもパートなどの非正規雇用になるケースが多い。また、管理的立場にある女性の割合は2017年時点で13・2%と国際的に見ても低いというのが現状だ。
このような状況を打破し、女性が活躍できる環境を整えるために、女性活躍推進法が制定された(10年の時限立法)。同法では、国、地方公共団体、一般事業主(民間企業)それぞれの責務を定めている。
一般事業主の責務としては、非正規労働者も含め、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主に対して、
①自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
②①を踏まえた行動計画の策定・社内周知・公表
③行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届け出
④女性の活躍に関する情報の公表を義務付けている。
常時雇用する労働者数が300人以下の事業主については、①~④は努力義務となっているが、女性活躍の重要性を理解し、個々の事業主の課題に応じて取り組みを加速させていくことが求められている。では、具体的に事業主はどのように取り組んでいけばよいのか、次の項で紹介する。
行動計画を策定する際の手順
ステップ1
自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析
行動計画の策定に当たっては、自社の女性の活躍に関する状況に関して、状況把握、課題分析を行い、その結果を勘案し定める必要がある。まず必ず把握すべき項目である「基礎項目」の状況を把握することにより、課題分析を行っていく。
<基礎項目>
①採用した労働者に占める女性労働者の割合
②男女の平均継続勤務年数の差異
③労働者の各月ごとの平均残業時間数などの労働時間の状況
④管理職に占める女性労働者の割合
ステップ2
行動計画の策定、社内周知と外部への公表
ステップ1で把握した課題から目標を設定し、目標を達成するための具体的な取り組み内容を定め、行動計画の形にまとめる。行動計画には、(a)計画期間、(b)数値目標、(c)取り組み内容、(d)取り組みの実施時期を盛り込む必要がある。計画期間は、各事業主の実情に応じておおむね2年から5年間に区切る。行動計画を策定したら、労働者に周知し、併せて外部に公表する。外部へ公表する際、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」(後述)を、ぜひご活用いただきたい。
ステップ3
女性の活躍に関する情報の公表
行動計画の公表とは別に、自社の女性の活躍に関する状況について、指針に定められた項目の中から公表する情報を一つ以上選択し、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」(後述)などにおいて公表する。自社の女性活躍に関する情報を積極的に公表し、就職活動中の学生など求職者に、女性が活躍しやすい企業であることをPRすることができ、優秀な人材の確保やイメージアップにつなげることが期待できる。なお、こちらは、年1回以上公表データの更新を行う必要がある。
ステップ4
行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届け出
行動計画を策定したことを都道府県労働局へ届け出る。
行動計画策定のステップは以上であり、この後、取り組みの実施、効果の点検・評価を行っていく。定期的に、数値目標の達成状況や取り組みの実施状況など行動計画を点検・評価し、その結果をその後の取り組みや次の計画に反映していただきたい。
中小企業の行動計画策定などにより公共調達で有利に
各府省庁が、価格以外の要素を評価する調達(総合評価落札方式・企画競争方式)を行うときは、契約の内容に応じて、ワーク・ライフ・バランス等推進企業(女性活躍推進法に基づく認定(「えるぼし」認定など)の取得企業や女性活躍推進法に基づく行動計画を策定した中小企業)を加点評価することになっている。また自治体によっては、中小企業の場合、行動計画の策定・届け出を行うだけで加点の対象になる場合がある。
「えるぼし」認定を取得してイメージアップ
行動計画を策定し、届け出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取り組み状況が優良な事業主は、都道府県労働局への申請によって、厚生労働大臣の「えるぼし」認定を受けることができる。認定は、採用、継続就業、労働時間などの働き方、管理職比率、多様なキャリアコースの五つの評価項目のうち、満たす項目の数に応じて取得できる段階が決まる。認定段階は3段階あり、五つ全ての評価項目を満たした企業は最高位の3段階目の認定を取得することができる。(図1)
「女性の活躍推進企業データベース」スマホ版の運用を開始~就活生・求職者へのアピールのチャンス~
厚生労働省では、前述の行動計画や情報公表を掲載するツールとして「女性の活躍推進企業データベース」を運営しており、データ公表企業数はすでに9000社以上に上る(2018年年4月13日現在)。企業は、女性の活躍状況について業界内・地域内での自社の立ち位置を知ることができ、就活生や消費者、投資家に取り組み状況をアピールできる。女性活躍推進法では、前述のとおり、自社の女性の活躍に関する情報について公表と年1回以上の更新を求めている。登録企業に対しては、事前にメールでお知らせする機能があるため、忘れずに情報を更新することができる。
さらに、就活生や転職活動中の人が、移動中や空いた時間に気軽に企業研究・情報収集ができるよう、昨年12月からデータベースについて、スマートフォン版の運用を開始している。就職活動中の学生をはじめとした求職者からのアクセスが多数あり、自社をアピールして優秀な人材を獲得するチャンスにもつなげることができる。(図2)
詳しくはこちらhttps://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を活用
女性活躍推進法に基づき、行動計画を策定し、「数値目標」、数値目標の達成に向けた「取組目標」について、それぞれを達成して申請をすると、両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を受給することができる。受給額は、中小企業と大企業で異なり、中小企業の場合は、行動計画期間内に取組目標を達成すれば「加速化Aコース」を申請できる(各コース1企業1回限り)。(図3)また、行動計画策定の支援「加速化Nコース」においても、中小企業のみを対象に、女性管理職比率が上昇した場合は支給額が加算される。
中小企業への支援~説明会を開催、無料で電話・メール相談、個別訪問にも対応~
中小企業における女性活躍の推進をサポートできるよう厚生労働省では委託事業「中小企業のための女性活躍推進事業」を行っており、中小企業に対し、次のような支援を実施している。
〇説明会の開催
2018年7月~2019年1月(予定)
従業員数300人以下の中小企業の事業主および人事労務担当者向けに、女性活躍推進法の概要、企業の課題分析や行動計画策定、「えるぼし」認定取得などのポイントなどについての説明会が全国各地で開催される。具体的な日時は、「中小企業のための女性活躍推進サポートサイト」に掲載される。(参加無料・事前申込制)
〇女性活躍推進アドバイザーによる電話・メール相談、個別企業訪問支援
専門の相談員である「女性活躍推進アドバイザー」が、状況把握や課題分析、行動計画の策定、認定取得などについての相談に丁寧に対応してくれるほか、個別訪問によるサポートも行っている。企業の実態に合わせてきめ細かく対応しているため、まずは気軽に女性活躍推進センターに連絡いただきたい。(無料)
実施期間:2019年3月中旬まで
対象:従業員数300人以下の企業
<問い合わせ先>
女性活躍推進センター東京本部(一般財団法人女性労働協会)
電話:03(3456)4412
Eメール:suishin@jaaww.or.jp
ホームページ:「中小企業のための女性活躍推進サポートサイト」で検索。
中小企業における取り組み事例
事例1
職域拡大で女性が活躍できる場を増やす
<朝倉染布株式会社(群馬県桐生市、繊維工業)>
常用雇用労働者数 男性:62人 女性:40人
平均勤続年数 男性:18.2年 女性:18.1年
役職者に占める女性割合:リーダー:35.7% 管理職:12.5% (2017年6月時点)
女性活躍の課題
有能な女性リーダーが多く活躍しているが、その上の課長などの管理職となると、女性自身が面談でちゅうちょすることが多かった。また、検査部門に女性社員が集中するなど女性の職域に偏りがあり、生産現場、特に交代勤務のある職場に女性はいなかった。
行動計画の目標
生産現場(二交代の職場)に女性社員を1人以上増員させ、多能工化を推進し、キャリアアップにつなげる。
取り組み内容
・染布運搬のための電気自動車を用意するなど、男女の体力格差への対策を実施
・二交代勤務の現場に女性を配置・新たな女性リーダー、課長の育成にも力を入れるため、教育訓練体系図を作成し、キャリアアップのための研修プログラムを作成
・育児休業などの欠員対応をきっかけに、担当部署以外を手伝ってもらうことで職域を拡大
取り組みの効果
行動計画の策定、「えるぼし」認定取得により、「えるぼし」を見ての応募があり、実際に優秀な人材を確保できた。また、職域拡大により、営業職に初の女性社員が誕生し活躍している。男性メインの職域に女性も登用したことで、男女両方の意識も変わってきた。
事例2
誰にとっても働きやすい職場環境づくりで継続就業につなげる
<株式会社エム・エスオフィス(新潟県長岡市、サービス業)>
常用雇用労働者数 男性:5人 女性:12人
平均勤続年数 男性:6.0年 女性:2.9年
役職者に占める女性割合 係長:100% 管理職:80%(2017年12月時点)
女性活躍の課題
女性社員に家事や育児との両立に悩む者が多く、入社半年以内の離職率が高い傾向にあった。
行動計画の目標
計画期間内に新規採用した女性社員のうち、半年以上継続勤務している女性社員の割合を40%以上にする。
取り組み内容
・子連れ出勤ができる規定を設けるとともに、託児スペースを設置
・社員が家族と過ごす時間を確保できるよう、一斉退社を週2回実施
・継続して働くに当たっての社員の悩みを把握するため、定期的に経営者や上長との面談を実施
取り組みの効果
育児短時間勤務をしている2人の女性社員を管理職(課長クラス)に登用した。ロールモデルができたことに加え、ワーク・ライフ・バランスを整える取り組みが進んだことにより、女性の離職率が下がってきている。
※ その他の取り組み事例は、厚生労働省ホームページ内の女性活躍推進法特集ページに掲載している「女性活躍推進の取組好事例集~中小企業の優秀な人材確保のために~」を参照、活用いただきたい。
最新号を紙面で読める!