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全国中小企業クラウド実践大賞 生産性向上で黒字化実現 優良10社を表彰

全国中小企業クラウド実践大賞受賞企業一覧

日本商工会議所や全国商工会連合会など6団体で構成され、一般社団法人クラウド活用・地域ICT投資促進協議会が事務局を務めるクラウド実践大賞実行委員会は2月12日、東京都千代田区の東商グランドホール(現・東商渋沢ホール)で「全国中小企業クラウド実践大賞」全国大会を開催した。同大会には地方大会を勝ち抜いた10社が登壇。各社がクラウドを活用した取り組みについて熱のこもったプレゼンテーションを行い、その後の厳正な審査を経て総務大臣賞をはじめ各賞の受賞企業を決定した。特集では、本事業の概要および総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞の受賞企業のクラウド活用事例などを紹介する。

全国中小企業クラウド実践大賞とは

本賞は、2019年7月に、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会などの6団体が任意で設立したクラウド実践大賞実行委員会(事務局:一般社団法人クラウド活用・地域ICT投資促進協議会)が実施しているもの。地域の中小企業・小規模事業者などの収益力向上と経営効率化を実現するクラウドサービス実践事例の普及展開を目的としている。

本事業により地域中小企業などが、クラウドサービスの業務への活用度・社内での浸透度が高く、業務の自動化などによる経営効率化に向けた身近なクラウドサービス実践事例やクラウドサービスの先進的な活用による製品・サービスの開発強化、新たな価値の創出を通じた収益力向上を実現する「攻め」のクラウドサービス実践事例を共有することで、地域中小企業などの収益力向上と経営効率化の動機付けや、将来の成長、競争力の強化に寄与することが期待されている。

本大会では、昨年11月に開催した「全国中小企業クラウド実践大賞」地方大会(和歌山、金沢、盛岡、長野、福岡の5都市で開催)に参加した中小企業など48社の中から選ばれた10社が、自ら推進する収益力向上や経営効率化を実現したクラウドサービス実践事例を、図表が描かれたスライドや映像などを使って、200人を超える来場者の前で熱心なプレゼンテーションを展開した。

その後、会場では登壇した10社の中から優良事例2社を選定する来場者投票が行われ、その投票結果も加味した上で行われた審査員による厳正な審査の結果、株式会社atsumel(アツメル、愛知県名古屋市)が総務大臣賞を、ダイヤ精機株式会社(東京都大田区)が日本商工会議所会頭賞を、それぞれ受賞、寺田稔総務副大臣と日本商工会議所の三村明夫会頭から表彰状と記念品が贈呈された。

本委員会では、今回各賞を受賞した10社をはじめ、本大賞の趣旨を踏まえて応募のあった事例のうち、審査を通過した事例(54件)については、同委員会の構成員が主催する中小企業・小規模事業者などに対するデジタル化促進を目的としたセミナー活動などにおいて、ユーザー企業の取り組み好事例として紹介していくことにしている。

事例1

総務大臣賞

社名:株式会社atsumel

所在地:愛知県名古屋市

事業内容:不動産コンサルティング

クラウド活用をした組織変革と新規事業創造

同社は、不動産仲介事業や注文住宅事業、リノベーション事業など、愛知県で不動産業・建設業全般を手掛けるアップウィッシュ株式会社のグループ会社として、2015年に設立。グループ会社全体のマーケティングとインサイドセールス、そして全国の不動産・住宅業界に特化したCRM、SFAのインプリメンテーション・活用コンサルティングを提供している。

東京商工リサーチの「2018年全国社長の年齢調査」によると、不動産業の社長の平均年齢は63・42歳と高く、IT化が進んでいない業界の一つだ。

アップウィッシュ社では、顧客情報や商談情報を紙で出力し営業担当がファイルで管理していた。また営業手法も属人的かつ生産性も低く、年間休日は85日しかなかった。これらの状態を打破するために取り組んだのが「顧客情報の一元管理」と「営業プロセスの見直し」だ。顧客情報、集客、商談、物件、日報、スケジュールなど日々の営業に関する必要な情報はこれまでエクセルファイルでバラバラに管理されていた。セールスフォース・ドットコムが提供する「Sales Cloud」を12年に導入し、これらの情報の一元管理を実現した。

同社は、顧客の行動が折り込みチラシやポスティングからの問い合わせから、ウェブサイトからメールで問い合わせと変わってきている中で、見込みの低い顧客情報は営業個人の判断で顧客リストから破棄されており、集客が増えても売り上げが上がらないという課題を抱えていた。そこで、14年にクラウドシステムを活用する新たな事業部を発足。ウェブサイトからの問い合わせをインサイドセールス部門が対応し、情報管理と顧客育成を担当するようにした。顧客育成には、マーケティングオートメーション(MA)として16年にpardotの導入を決定。今では1万人の見込み客に5人のインサイドセールスが対応している。

導入の秘訣は、案件の受け渡しはチャットで、会議用資料の作成は廃止しセールスフォースのダッシュボードでの確認など、セールスフォースでないと業務が回らない仕組みを構築していることだ。クラウド活用の成果として、MAツール導入前と比べると商談の設定数が4・4倍に、Sales Cloud導入前と比べると年間休日が1・3倍に増加した(図参照)。さらにこれらのノウハウを生かした不動産業界に特化したマーケティング支援会社として株式会社atsumelを設立。不動産会社のインサイドセールス代行、セールスフォース導入支援事業などを手掛け、今では全国に顧客を抱えている。

事例2

日本商工会議所会頭賞

社名:ダイヤ精機株式会社

所在地:東京都大田区

事業内容:測定器製造

中小製造業特化型のクラウドツールを活用し生産性向上を実現

同社は、大手自動車メーカーや部品メーカー向けのゲージと呼ばれる測定器を製造する創業55年を超える町工場。2004年に諏訪貴子代表が就任し「ものづくり大田区を代表とする企業へ」「超精密加工を得意とする」という経営目標を掲げ、3年の改革に着手、顧客対応力強化のためにITを導入した。職人の高齢化に対応すべく07年より若手への技術承継へ力を入れ、今では社内の年齢構成は逆ピラミッド型から20〜30代の多いピラミッド型になっている。

これまで時代の変化に対応してきた同社が抱えていた課題は「生産性の低下」だった。

生産性低下の理由を調査した結果、若手と熟練職人の総加工時間を比較すると、図面を手にしてから動作に入るまでの段取り時間に大きな差があることが分かった。しかし、段取り時間は経験値の差で生まれるもので短縮は難しい。短縮できる時間をさらに調査したところ「情報のやり取りの無駄」があることが判明した。生産性向上のためには、会議や電話応対の時間、営業と生産現場の確認のために、全社での情報共有が必要不可欠という結論になった。

すでに導入していた生産管理システムで製作手配から納品までのプロセスは管理できていたが、企業の目標、総務・経理、営業、設計、製造、サークル活動など部門ごとの情報を一元管理できていなかった。そこでグループウエアの導入を決断。しかし、システム管理者を設定して運用していくことが困難な上、グループウエアで使われる専門用語が多く、現場の人たちには受け入れてもらえず、社内で利用しているのは諏訪社長を含めて2人だけの状態だった。

その経緯から株式会社テクノアと株式会社リスタ・プロダクツが共同開発をした中小製造業向けのコミュニケーションツール「リスタ」を導入した。リスタは、項目名などを含めて日本語で表示されており、直感的な操作が可能で、製造業に特化していることが特徴。同社では、全社通知機能、顧客管理機能で名刺と日報をひもづけて営業活動を可視化、売り上げと不良数を目標数値として見える化し、また、生産管理システムで管理できない行程をリスタのプロジェクト管理機能を使い設計と営業の情報共有、納品スケジュールからの図面確認を行うなど、全部門で使っている。

売り上げは前年同期比で18%増、経常利益は8倍増となった。また、19年3月から行った不良の見える化により、同4月には5件あったものが、8月(1件)と9月を除いてゼロとなっている。