政府は昨年12月25日、高い専門知識や技術を有する高度外国人材と中堅・中小企業を結び付け、定着を図るため、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)に「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」を立ち上げた。特集では、この取り組みを実施する経済産業省の特別寄稿により、概要を紹介する。
活躍推進プラットフォームが始動
高度外国人材活躍推進プラットフォームのポータルサイトでは、関係省庁が実施する施策やジョブフェア、セミナーなどの情報を一括で提供するほか、高度外国人材採用に高い関心を持つ企業情報や国内での就職に関心を有する留学生情報も掲載いたします。
また、本年4月からは、専門家が長期にわたり継続的に相談に応じる支援も提供いたします。
これにより、営業や専門・技術職で優秀な人材を求める中堅・中小企業が、そのような人材を外国人から採用するために必要な情報を包括的に、かつタイムリーに提供するほか、その定着・活躍に向けた環境整備を支援することが可能となります。
昨年6月に閣議決定された政府の経済成長戦略である「未来投資戦略2018」において、第4次産業革命の下で国際的な人材獲得競争が激化する中、海外から高度な知識・技能を有する外国人材(高度外国人材)の積極的な受け入れを図ることが重要であるとして、同プラットフォームの立ち上げが提言されました。
また、昨年12月25日に、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議で取りまとめられた「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」においても、同プラットフォームは、現在36%にとどまっている留学生の就職率を向上させるための施策の一つとして位置付けられています。
同プラットフォームで採用・定着を支援する高度外国人材は、日本国内または海外の大学などを卒業し、企業において海外進出などを担当する営業職、法務・会計などの専門職、機械工学などの技術者などに従事する外国人です。
厚生労働省の昨年10月時点の集計によると、これらの外国人に該当する専門的・技術的分野の在留資格で日本企業に就労している外国人は、「技術・人文知識・国際業務」の約21万人を含め約27万7000人で、2008年の約8万5000人からおよそ10年間で約3・3倍に増加しています。
また、高度外国人材の卵である留学生は、日本の大学において専門分野の学問を修めているほか、日本文化・雇用慣行などに明るく、日本語能力も備わっているため、中堅・中小企業からのニーズが高い状況にあり、その64%が日本国内で就職を希望しています。
他方、昨年12月8日に国会で可決成立した改正入管法により、本年4月から新たに創設が予定されている在留資格「特定技能」は、深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難な産業分野において、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みであり、介護業、建設業、外食業など14分野が規定されています。この仕組みで在留する外国人材と本稿で取り扱う高度外国人材とは別の仕組みですが、今後、産業全体で外国人の活用が進む中、高度人材でも外国人の採用が注目されていくと予想されます。
さて、今回立ち上げた「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」の機能としては、①ポータルサイトでの情報提供・問い合わせへのワンストップ対応、②ジョブフェア・セミナー機会の提供、③専門家による伴走型支援の三つに分類されます。(図1) それでは、それぞれの機能を説明いたします。
①ポータルサイトでの情報提供・問い合わせへのワンストップ対応
ポータルサイト「高度外国人材活躍推進ポータル〝Open for Profesionals〟」(https://www.jetro.go.jp/hrportal/)は、高度外国人材を採用したい中堅・中小企業と、日本での就労を希望する高度外国人材の双方が必要とする情報を、関係省庁の協力を得て一括で掲載しています。
具体的には、法務省監修による「在留資格クイックチェック」で採用職種ごとに必要な在留資格に関する情報や在留資格申請手続きを紹介しているほか、外国人の雇用に関連する労務・税務情報、外国人向けのハローワークである外国人雇用サービスセンターの情報、高度外国人材の活用に関する事例集などの情報を掲載しています。
本年4月からは、留学生を含め、日本での就労を希望する高度外国人材の採用に関心がある中堅・中小企業の側から、自社情報の発信が可能となる機能を新たに追加することにしています。企業が自社のPR文や写真、業務内容、採用したい人材像、インターンの受け入れの可否などの情報を掲載し、自社の魅力を直接発信することで、高度外国人材への認知度を高めることを狙いとしています。高度外国人材にとって魅力的な自社情報の作成・発信に不安がある中堅・中小企業の皆さまに対しては、ジェトロが個別に相談に応じ、作成を支援いたします。
さらに、本年7月からは、企業が留学生と直接接点を持てるよう、文部科学省と全国の大学の協力を得て、留学生の在籍数、国内就職率、進路状況や連絡先などの情報掲載を開始する予定です。留学生の就職に熱心な大学を皮切りに、情報を掲載する大学を随時拡大していくこととしています。
②ジョブフェア・セミナー機会の提供
ジョブフェアやセミナーについては、省庁、自治体、独立行政法人、大学、商工会議所、商工会などの公的機関が主催・共催・後援する、合同就職説明会や海外でのジョブフェア、採用・定着に関するセミナーなどのイベント情報をポータル上にタイムリーに掲載いたします。
このサイトでは、開催エリアや開催時期など自社の関心に合わせた検索機能も備わっており、希望に合うイベントに参加できます。また、インターンシップ募集の情報も掲載されます。
③専門家による伴走型支援
本年4月以降は、専門家を活用した全国の中堅・中小企業への顔の見える支援も、きめ細かく展開していく予定です。
具体的には、ジェトロにコーディネーターを配置し、担当地域の中堅・中小企業への継続的な情報提供や個別相談を受け付ける「伴走型支援」を開始いたします。
コーディネーターは、企業の人事や人材会社の知見をバックグラウンドに持つ人材からの採用を想定しており、担当する企業ごとに、採用計画の検討段階から実際の採用活動、内定後から入社までに必要な手続き、入社後の定着に向けた社内環境整備など、長期にわたり継続的に相談に応じていきます。在留資格や異文化コミュニケーションといった専門性の高い相談には、コーディネーターが手配する専門家が応じる体制も構築いたします。
「伴走型支援」を活用いただくことにより全国の中堅・中小企業の皆さまの高度外国人材の採用・定着に係る悩みごとを一つ一つ解決につなげていくことが可能となります。「伴走型支援」の受け付けは、全国47カ所のジェトロ貿易情報センターで、本年4月から開始する予定です。(図2)
高度外国人材の積極登用をビジネスチャンスに
経済産業省では、昨年5月に、高度外国人材の積極的な活用を武器に、事業の海外展開や新規市場の開拓、外国人目線での商品・サービス開発、新たなビジネスモデル構築といったビジネスチャンスを創出している中堅・中小企業50社の事例を集め、「高度外国人材活躍企業50社」として公表いたしました。いくつかの企業の事例を紹介いたします。
大阪府東大阪市の株式会社中農製作所(精密機械加工・組立)では以前からベトナム人の技能実習生を受け入れていましたが、2008年にベトナムのダナン工科大学を卒業したベトナム人を社員として初めて採用しました。このベトナム人社員が17年9月の同社のベトナム拠点立ち上げに際し、原材料の調達先や現地協力会社の開拓などに大きく貢献し、現在ではベトナム拠点の責任者に就任しています。(写真1)
また、長崎県大村市の九州教具株式会社(宿泊・情報通信業)では、訪日外国人観光客増加によるインバウンド対応のため、13年から大学の紹介やハローワークなどを通じて、外国人の採用を開始しています。ホテル事業全般において外国人目線での情報発信やおもてなしを提案、外国人社員が提案した英 語で楽しむ茶道体験は宿泊客に好評を得ています。(写真2)
これら企業の事例を含めた50社の事例は、先ほどご紹介した「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」にも掲載されています。
全国商工会議所との意見交換
経済産業省では、「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」の概要を説明し、高度外国人材活用ニーズなどについて意見交換を図るため、全国22カ所の商工会議所を順次訪問しています。現場の実態、声を踏まえたサービスの提供を行うことにより、高度外国人材の採用に関する全国的な機運の醸成、中堅・中小企業のビジネス活動活性化の一端を担うことを目的としています。高度外国人材の活用に関心の高い商工会議所とはぜひ意見交換をさせていただければと考えています。
ジェトロでも、中堅・中小企業の高度外国人材採用や定着に関するセミナーなどのイベントを随時開催予定です。28日には、東京都港区のジェトロ本部にて、厚生労働省や文部科学省、法務省、経済産業省など同プラットフォームの関係省庁や支援機関などが登壇する「中堅・中小企業のグローバル展開における外国人留学生等の活用セミナー」が開催されます。これらのセミナーの開催告知も「高度外国人材活躍推進ポータル」に掲載され、同サイト経由での参加申し込みも可能です。
以上、「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」に関し、ご紹介させていただきました。「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」は立ち上がったばかりであり、商工会議所会員の皆さまからさまざまなご意見をいただき、より良いものに育てていく必要があると考えています。
ご意見、お問い合わせなどは、経済産業省貿易経済協力局技術・人材協力課(電話:03・3501・1937)、プラットフォームに関するお問い合わせや自社情報の登録相談などは、全国47カ所のジェトロ貿易情報センターまたは本部新興国進出支援課(電話:03・3582・4941)まで、お気軽にお寄せいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
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