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コラム石垣 2018年8月11日号 宇津井輝史

のちに冒険家と呼ばれる堀江謙一さんが、米サンフランシスコの港にヨットを着けたのは1962年8月12日の夕方だった。わずか19フィートのマーメイド号で単独無寄港太平洋横断を達成した。94日間かけた快挙である。だが日本政府は、旅券不所持の堀江さんに密出国の容疑をかける。日本のメディアも不法行為を糾弾した。

▼一方アメリカ合衆国は23歳の若者を温かく迎え入れた。サンフランシスコのジョージ・クリストファー市長は「米国民は皆こんなふうにこの国に来た。コロンブスのときもパスポートは省略した」と堀江さんを称え、名誉市民の鍵を渡した。粋な計らい、寛大な措置に米国の懐の深さを見た。

▼移民に門戸を開く米国は外国製品にも開かれていた。自国市場へのアクセスを容易にし、終始自由貿易体制をリードした。日独の戦後復興を支えたのも米国市場だった▼その米国に昔日の面影はない。米中間の関税報復合戦はもはや経済戦争。保護主義が台頭すれば自由貿易が脅かされる。サプライチェーンを通じて日本も打撃を被る。米国自身の雇用にもプラスにはなるまい。だが問題はトランプ一人なのか。

▼グローバル化の波を制御できない国家に苛立ちを深める人々がトランプ大統領を生んだ。同じ現象は欧州各国でも勢いを増す。先進国で顕在化していないのは日本ぐらいだ。これをポピュリズム、危険な保護主義と一蹴しては何も解決はしない。

▼少しずつ何でも作れる国はない。得意な産品をたくさん作って互いに融通し合うモデルも、所得の分配までは手が回らない。経済効率と民主主義はそもそも相性が悪い。だが自由貿易を堅持しつつ、主権国家の意義と役割を再構築する大きな理論が必要な時代である。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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