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こうしてヒット商品は生まれた! 鰹節屋がつくった食べるだし醤油

良質の大豆と米こうじでつくったもろみがベース。つくだ煮のような固形タイプで、液体のしょうゆのようにこぼれ落ちないところも重宝する。1個500円(税込)

昭和10年、カツオの水揚げ量日本一を誇る静岡県焼津市に、〝削り節屋〟として創業した新丸正。こだわりの技術で良質の削り節をつくり続けてきた同社が、そのうま味を生かして開発した「鰹節屋がつくった食べるだし醤油」が、右肩上がりに売れている。同様の商品もある中、多くのユーザーに支持されるに至った意外な経緯を追う。

かつお節から調味料まで一貫生産を実現して生まれた商品

平成27年の発売以来、ご飯のお供にうってつけと話題になっている食品がある。「鰹節屋がつくった食べるだし醤油」だ。大豆に米こうじを付けてじっくりと熟成させたもろみにかつお節を混ぜ込み、うま味成分をギュッと凝縮させた一品である。白いご飯にのせてそのまま食べるのはもちろん、卵かけご飯やおにぎり、冷ややっこや刺し身などにしょうゆの代わりとしても幅広く活用できる。口の中にだしの豊かな風味が広がる同商品は、発売から右肩上がりで売れ行きを伸ばしている。

同商品を開発・販売しているのは、静岡県焼津市の水産加工会社・新丸正だ。同社は昭和10年に創業し、長年にわたって削り節の製造販売を行ってきた。

「一般の人からすれば、固形のかつお節も、かつお節を削った削り節も同じものと思われるかもしれませんが、業界的には別物で、かつお節と削り節の両方を扱っているところはほとんどありません。当社は創業以来削り節専門でしたが、これからはそれだけで生き残るのは難しい。そこで5~6年前に『だしに、まじめに、一貫生産』というコンセプトを掲げて、自社でかつお節から調味料まで開発、製造、販売できる会社を目指しました。そうして誕生した商品の一つが『食べるだし醤油』です」と同社社長の久野徳也さんは説明する。

しょうゆの塩辛さにかつお節のうま味をほどよくブレンド

同商品を発案したきっかけは、4~5年前にブームになった「食べるしょうゆ」だという。多くのしょうゆメーカーがこぞってつくり、スーパーの棚にさまざまな商品が並んだが、いつしかブームは去った。その原因を〝塩辛さ〟だと考えた久野さんは、食べるしょうゆにだしのうま味を加えることを思い付く。世間ではめんつゆが万能調味料として広く使われており、かつお節が生かせると考えたのだ。

その際イメージしたのは、長野県北信地方に郷土食として伝わる「しょうゆ豆」だ。大豆をしょうゆだれに漬け込んだもので、ふくよかな香りと味わいが持ち味だ。それをヒントにすべく、かねてから付き合いのある長野県中野市の老舗しょうゆメーカー・マルヰ醤油に商品企画を持ち掛けたところ、共同開発が実現する。レシピは新丸正が考え、原料はマルヰ醤油が提供する形で試作に乗り出した。

「しょうゆ豆の味わいや食感を残しながら、かつお節を混ぜてうま味を加えるわけですが、そのバランスが難しい。原料をどの割合で配合すればいいのか、何度も試作を繰り返していきました」

味を決める上で一つの基準にしていたのが、卵かけご飯に合うかどうかだった。久野さん自身の好物であり、また、世間でも卵かけご飯がブームだったことから、同社やマルヰ醤油の社員を動員して味を確かめ、ブラッシュアップしていった。

「個人的には、分かりやすい味やうますぎる味を狙うのはやめようと思いました。分かりやすい味は最初は良くてもだんだん飽きてくるし、うますぎる味は徐々にしつこさを感じやすい。長く食べ続けてもらいたいから、かつお節は脇役に徹してほどほどを目指しました」

妥協せずにイメージした味を追求して1年。ようやく商品が完成し、高速道路のサービスエリアや土産物店、道の駅を中心に販売を開始した。

かつお節をつくり続けるべく新たな商品開発にチャレンジ

長年、BtoBで事業展開してきた同社は、「プロモーションが得意ではない」(久野さん)こともあって、発売当初はさほど話題にはならなかった。しかし、SNS上で「ご飯が何杯でも食べられる」「調味料としても便利」といった投稿が増えるにつれて、ファンも拡大していった。そんなファンの中に、現在グルメコメンテーターとしても活躍するタレントのギャル曽根さんがいたのだ。平成28年に彼女があるバラエティー番組で、おすすめの調味料として同商品を紹介したところ、一気に検索数が上昇。同社の通販ウェブサイトはアクセスが集中してパンクする事態となった。

「知らないところで有名タレントさんが商品を気に入ってくれていたことに驚きました。この商品は単価が高いので、当初はスーパーでは扱ってもらえなかったんですが、テレビの反響のおかげでスーパーにも並べてもらえるようになりました」

一時は生産が追いつかない状態に陥ったが、マルヰ醤油と共に原料の生産量アップに努めた。同時に、第二弾商品として「食べる梅ぽん酢」、第三弾として「かけるすき焼き」などを開発して、スーパーの棚に欠品を出さないよう工夫し、シリーズ全体の売れ行きを維持するように努力した。そのかいがあり、タレント効果による一時的なブームで終わることなく、発売後の売り上げは前年比の2倍ペースで伸びを続け、累計販売数は21万個超を達成した。今では同社の主力商品だ。

「売り上げが伸びていることは本当にありがたい。今後は食べ方の提案などにも力を入れて、細く長く売れる商品に育てていこうと考えています。焼津は日本一のかつお節の生産地であり、良質のかつお節をつくり続けていくためにも、こうした商品づくりにどんどんチャレンジしていきたいですね」と久野さんは強い地元愛ものぞかせた。

会社データ

社名:株式会社新丸正

所在地:静岡県焼津市三和1384-1

電話:054-624-5158

HP:https://s-marusyo.jp/

代表者:久野徳也 代表取締役社長

設立:昭和26年

従業員:100人(パート含む)

※月刊石垣2018年2月号に掲載された記事です。

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