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「もしも」に備えた会員企業のための商工会議所保険制度

図1 製品群別のPL訴訟件数

日本商工会議所では現在、会員企業へのサービス拡充を目的に、各地商工会議所を通じて「中小企業PL保険制度」「全国商工会議所PL団体保険制度(中堅・大企業向)」「全国商工会議所中小企業海外PL保険制度」「日本商工会議所情報漏えい賠償責任保険制度」「全国商工会議所の休業補償プラン」「全国商工会議所の業務災害補償プラン」といった6つの保険を取り扱っている。各制度とも中小企業者が抱えるリスクを簡便な事務手続きかつ低廉な保険料でカバーできる、まさに中小企業のための制度となっている。本特集では、これらの保険制度について紹介する。

中小企業PL保険 『異物混入』・・・そのとき事業者の取るべき対策は

創設の経緯

平成7年7月、製造物責任法(PL法)が施行された。これに伴い、中小企業のPL法への対策支援および負担軽減を目的に、中小企業庁の指導の下、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会で構成する「中小企業製造物責任制度対策協議会」が設立された。 

中小企業PL保険制度は、同協議会が保険契約者となり、参加保険会社13社(幹事・東京海上日動火災)による共同保険方式で運営している。今年で20年目となる本制度は、これまで数多くの事業者が抱えてきた賠償事故を円満な解決に導いてきた。

PL法とは

製品の欠陥によって、その消費者となる第三者が、身体の障害または財物の損壊を被った場合、その製品の製造・販売に関与した事業者が、被害者に対して法律上の損害賠償責任を負う。これをPL(Product Liability=製造物責任)という。  PL法第2条3項1号では、責任主体を「製造、加工又は輸入した者」としており、最近増加している輸入業者もPLの対象となることから、注意が必要となる。

制度の特長

本制度では、PL法に基づく賠償責任だけでなく、民法上の賠償責任(不法行為責任・債務不履行責任)も対象となっている。従って、製造・販売事業者だけでなく、建設工事業の工事ミスなど、仕事の結果に起因する対人・対物事故も対象となり、実際にはこうしたケースへの支払いの方が多くなっている。 

さらに、近年増加傾向にあるリコールにも対応している。これまでリコールによる経済的損失をカバーする保険は主に大企業しか加入できなかったが、本制度では部品製造・販売事業者でも加入することができ、中小企業のリコールリスクをカバーする。 

なお、保険料は団体制度のメリットを生かして低廉に設定され、加入方式も簡便となっている。 

また、「充実リコール補償特約」では、実際に死亡・後遺障害などの重大事故が発生していなくても、製品の品質の不具合によって対人・対物事故が発生する恐れがある場合、または消費期限などの品質保持期限の誤表示などがある場合によるリコールを対象としている。異物混入などの報道が相次ぐ中、会員事業者、特に食品製造・販売事業者からの関心が高くなっている。

最近の製品事故に関する訴訟

最近、製造物責任法にかかる訴訟(以下、PL訴訟)で、高額な賠償金を認める判決が出た。ここでは訴訟事例を紹介するとともに、日本のPL訴訟の状況を概観する。(出典東京海上日動リスクコンサルティング、PL情報UpdateVol.28より抜粋)

【最近の注目PL訴訟事例】

■自転車事故訴訟 

本件は、イタリア製の輸入自転車で、フロントフォークサスペンションが突然分離して前輪ごと脱落したため、顔面から路面に転倒して頚椎損傷の障害を被り、重度の四肢麻痺の後遺症が残ったとして、被害者の男性と妻が自転車の輸入会社に対して損害賠償を求めた訴訟である。 

この判決が平成25年3月25日に東京地方裁判所で行われた。判決は、原告の主張を認め、自転車の輸入会社に対して合計約1億8900万円の賠償を命じるというもので、被害者が重度の後遺障害を負ったこともあり、高額な賠償金の支払いが認められた事例となった。

【日本のPL訴訟の状況】 

国民生活センターでは、ホームページで日本のPL訴訟に関する情報を独自にまとめて公表している。ただし、主な情報元が判例雑誌や新聞のため、網羅しているわけではないことに注意が必要である(図1)。  製品群別件数では、「保健衛生品(その他)」が45件と多く、続いて「車両・乗り物」35件、「食料品」24件となっている。「保健衛生品(その他)」45件の中には、平成24年に相次いで提訴された、石鹸に含まれる小麦由来成分に起因するアレルギー訴訟39件が含まれている。

■過去の高額認容額事例 

過去に提訴されたPL訴訟のうち、高額な賠償金が認容された事例を5つ紹介する(図2)。 PL訴訟リスクというと、事業者にとっては巨額の賠償金は脅威に感じられると思うが、製品の欠陥により損害を被る被害者の存在を常に忘れてはならない。 

事業者には、事故が起こらないような製品づくりや、リスクを小さくする努力を不断にすることが求められている。取り扱う製品のリスクアセスメントを行い、リスクの大きさに応じて適切な対策を取る必要がある。 

その上で、消費者の安全・安心を求める傾向や、強まる行政の消費者保護政策は今後も続くと予想される。こうしたことから、事業継続には、PLやリコールへの備えを保険でしっかりと手当てすることが必要になるといえそうだ。 

なお、本制度のほか、中堅大企業向けの全国商工会議所PL保険制度もある。

海外PL保険 輸出関連企業に必須の備え

ある日突然、会社に海外の裁判所から召喚状が送られてきたり、弁護士から英語や中国語の訴状が届いたりしたら、どのくらいの中小企業が冷静・的確な対応を取ることができるだろうか。 

中小企業海外PL保険制度は、被保険者である商工会議所の会員中小事業者が、製造または販売した製品(部品含む)が原因で、海外で第三者の身体事故または財物損壊事故を発生させたことによって法律上の賠償責任を負った場合に、和解や判決などによる損害賠償金をはじめ、弁護士費用やエキスパート費用など、必要となる費用を補償するものとなる。

万一、PL訴訟を提起された場合、慣習も法制度も日本と大きく異なる外国で争うことになる。さらに、例え勝訴となっても争訟のために要する時間と費用は莫大なものとなるため、海外PL保険は輸出関連企業には必須の備えといえる。

他人事ではない海外でのトラブル

海外に直接、完成品(OEMを含む)や部品を輸出する企業は当然として、部品を日本の完成品メーカーに納め、そのメーカーを通じて自社製品が海外で流通している企業であっても、被害者の訴えにより法廷に召喚される場合がある。 

事故に遭った消費者は完成品メーカーを訴えることが多いが、部品メーカーを特定できる場合や、訴訟手続き開始後の調査で責任が考えられる場合には、部品メーカーも訴えられることがある。また、完成品メーカー(あるいはそのPL保険会社)から部品メーカーが求償請求を受けることもある。この点では、完成品メーカーのPL保険がどこまでカバーするものになっているのかを確認することも重要である

中国における製造物責任訴訟の状況

わが国最大の貿易相手国である中国では、「独自の司法環境」「歴史的な背景に起因する消費者意識」「懲罰的賠償導入」といった特徴がある。一度企業が訴訟に巻き込まれると、企業側にとって厳しい環境にあるといえる。 

民間の経済活動が活発化するにつれて、民事訴訟件数は右肩上がりに増加し、民事訴訟の一種である製造物責任訴訟も増えているものと推察される。また、司法人口の増加はアメリカで見られるような「訴訟の産業化」につながり、弁護士主導の提訴件数が増加する可能性も懸念される。

アジアで相次ぐPL法理の制定

中国以外のアジア諸国においても、経済発展とともにPL法理の制定が進められており、台湾、韓国、フィリピン、マレーシアなどでは2000年初頭までに導入されている。さらに近年では、2009年にタイで、2011年にはベトナムで、PL法理の導入が実施された。 

現時点では、基本的にアジアにおけるPL賠償額は、欧米諸国と比較して高い状況ではない。しかし、経済の発展に伴い、これらの国々の国民所得が向上し、消費者権利を強く意識するようになることは、日本や中国を見ても明らかであり、今後高額化していくものと予想される。

訴訟大国アメリカの厳しい環境

訴訟大国アメリカでは、アメリカ連邦裁判所が公表する製造物責任訴訟の提訴件数は2009年以降、年間6万件を超えるレベルで推移している。この提訴件数があくまで連邦裁判所に限ったものであることを踏まえると、州裁判所も含めた全米の年間提訴件数は、十数万件に上ると推察される。

このように、製造物責任訴訟が非常に多い理由としては、①裁判で争うことに抵抗感や違和感のない社会② 安い提訴費用③被害者に同情的になる陪審員制度(欠陥判定、賠償額の認定は一般人である陪審員業務)④弁護士の成功報酬制度(敗訴した場合の原告の負担無し。着手金不要)⑤広い範囲の情報開示⑥原告を支援する専門家証人の存在(専門家証人の会社があり容易に利用可能)などが挙げられる。 

さらに、アメリカでの製造物責任訴訟において、賠償金が課される場合、2種類の賠償金(通常賠償、懲罰賠償※)が存在する。判例を見てみると、アメリカでは通常賠償でも他国と比較して高額となり、また、一般論として懲罰賠償の金額は通常賠償と比べ非常に高額になる傾向があり、厳しい訴訟環境にあるといえる。 

また、「自社製品は、消費者向けではなく企業向けなので安心」という考えも当てはまらない。 

アメリカでは、州によって異なるが、一般に労災補償額が低額なことに加えて、雇用主には労災補償額以上の責任を問えない。日本では、間違いなく労災保険の範囲内の事故であっても、アメリカでは産業機械メーカーが訴えられるケースが多い。

※懲罰的賠償金は本制度では保険金支払対象外

言い掛かりの訴訟でも対応

本制度の大きな特長の一つに、「示談代行サービス」が挙げられる。 

これは、訴訟トラブルに巻き込まれた際、保険会社が代わって解決までの対応を行うもの。日本企業を狙った言い掛かりの訴訟にも対応できることから、製品を輸出する会員中小事業者には必須の保険といえる。 

また、賠償請求が発生した場合には、弁護士の選任や応訴手続きも行い、さらにその費用は契約の範囲内で保険会社が負担する。

情報漏えい賠償責任保険 外部からの攻撃にも対応

創設の経緯

平成17年4月に「個人情報保護法」が施行され、商工会議所会員事業者の法への対策支援および負担軽減を目的に、情報漏えい賠償責任保険制度は創設された。日商が保険契約者となり、参加損保会社9社の協力の下、運営している。

対象の情報とは

①個人情報 

個人に関する情報(加入者の役員情報は含まず)のこと。その情報に含まれる氏名や生年月日、その他の記述などにより、特定の個人を識別することができるものをいう(ただし、日本国内に所在する、または所在した個人情報に限る)。 ※死者・従業員の情報を含む

②法人情報 

特定の事業者に関する情報であり、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていない情報をいう。

法人情報にも対応

24年3月以降の始期契約分から、賠償損害補償の対象となる情報が会員事業者の保有する法人情報まで拡大された。業務遂行における取引先企業などの情報漏えいに起因して、法律上の損害賠償責任を負うことによって被る損害に対しても保険金の支払いが可能となる。 漏えいの発生原因

漏えいの発生原因としては、次のようなものが挙げられる。①外部からの攻撃(不正アクセス、ウイルスなど)②過失(セキュリティー設定ミス、廃棄ミス、単純ミス)③委託先(委託先での漏えい)④内部犯罪(従業員・派遣社員・アルバイトなど)

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