全国112カ所の商工会議所では、国の委託事業に協力し、「人材育成・確保支援の拠点」である地域ジョブ・カードセンターと地域ジョブ・カードサポートセンターを設置し、有期実習型訓練(3カ月以上6カ月以内)などのジョブ・カード制度の職業訓練を実施する企業を支援している。これまでにジョブ・カードを活用した職業訓練を受講し、終了後に正規雇用された訓練生は、制度がスタートした平成20年度からの累計で3万6473人。正規雇用率は、81・6%(平成27年4月30日現在)で、企業側からも求職者側からも評価が高い。ジョブ・カードを活用した職業訓練を通じ、有能な人材を育成したい企業と正社員の経験が少ない求職者とのマッチングが進んでいる。この特集では、ジョブ・カード制度の仕組み、企業にとってのメリット、活用企業の声などを紹介する。
採用時のミスマッチを解消 求職者からも高い評価
正規雇用率が8割を超えるジョブ・カード制度の職業訓練。実施企業では、訓練生の適性や職業能力などを判断した上、正社員として継続雇用できることから、採用時のミスマッチや早期離職のリスクを軽減できるというメリットを実感しており、リピーターとなる企業も多い。また、一定の要件を満たしている場合は、職業訓練の終了後に、国から助成金が支給されることも魅力の一つ。職業訓練にかかるコスト負担が軽減されるからだ。
「ジョブ・カード」と聞いて、免許証のようなカードをイメージする人も多いが、実際は、求職者の職業能力を証明するA4判の大きさの4種類のシート(①履歴シート、②職務経歴シート、③キャリアシート、④評価シート)を総称して「ジョブ・カード」と呼んでいる。履歴書にはない求職者に関する詳細な情報が企業の安心感につながる。短時間の採用面接では分からない求職者の職業レベルが客観的に評価できるからだ。
求職者は、まず、職業訓練の開始前に、履歴シート、職務経歴シート、キャリアシートに必要事項を記載する。その後、ハローワークなどに配置されている「登録キャリア・コンサルタント」という専門家と求職者が面談(キャリア・コンサルティング)。その結果を踏まえた第三者としてのアドバイスなどがキャリアシートに記載され、職務経歴シートとともに求職者に交付される。評価シートは、職業訓練の終了後に企業から渡される。正規雇用率の高さ、求職者からの高い評価の秘密は、「キャリアシート」の客観性にある。
パートなどの登用もOK 訓練期間を自由に選択
職業訓練を実施する企業では、職業訓練の種類によって、3カ月間から2年間までの訓練期間を訓練生の仕上がり像に合わせて自由に選択できる。自社のニーズに合った訓練カリキュラムに盛り込んだOff-JT(座学)とOJT(実習)を通じて訓練生の職業能力を高めることによって、有能な人材を育成し、採用できることになる。
自社のパートやアルバイトなどの非正規労働者を正社員として登用するときにも活用可能。人材育成や能力開発に積極的な企業であることをPRできるメリットもある。
商工会議所が全面サポート 各種手続きの負担軽減
ジョブ・カード制度の職業訓練を実施する場合は、都道府県労働局やハローワークのほか、地域ジョブ・カードセンターや地域ジョブ・カードサポートセンターを設置している全国112カ所の商工会議所においても相談できる。
地域ジョブ・カードセンターは47カ所。都道府県ごとに1カ所の商工会議所に設置されており、地域ジョブ・カードサポートセンターは全国に65カ所。日頃から企業のさまざまな相談に乗っている商工会議所は、企業にとっては心強い味方だ。
各地の商工会議所では、職業訓練を実施するための訓練実施計画や訓練カリキュラム、評価シートの作成、職業訓練を実施するに当たってのアドバイス、助成金を支給申請するためのアドバイスなど、企業単独では対応の難しい各種申請手続きなどを分かりやすく、丁寧にサポートしている。
このほか、商工会議所では、ジョブ・カードを採用面接の際の応募書類として活用する「ジョブ・カード普及サポーター企業」の開拓も行っており、制度の普及に力を入れている。
社員のレベルアップに貢献 さまざまな業種で活用進む
ジョブ・カード制度の職業訓練は、①有期実習型訓練(3カ月以上6カ月以内)、②実践型人材養成システム(6カ月以上2年以内)の2種類。企業が訓練生と有期雇用契約を結び、訓練期間中の賃金を支払うことから「雇用型訓練」と呼ばれている。
平成20年度に制度が始まって以降、これまでに2万7335社でジョブ・カード制度の職業訓練が終了。これらの企業で訓練を修了した4万4708人の訓練生のうち、3万6473人が正社員として採用されている。
職業訓練を実施した企業を規模別に見ると、中小企業が94・7%で大企業が5・3%となっており、年々中小企業の活用割合が増加している。その多くが初めて職業訓練を実施した企業というのも特徴的だ。
業種別では、「生活関連サービス業・娯楽業」が17・8%で最多。次いで「卸売・小売業」が15・5%、「医療・福祉」が12・7%、「製造業」が9・3%、「その他のサービス業」が8・0%など多岐にわたり、さまざまな業種で活用が進んでいる。
ジョブ・カード制度の職業訓練の訓練生は、必ずしも、ハローワークで募集する必要はない。求人情報誌やホームページなどで直接募集する方法、自社内のパートやアルバイトなどの非正規労働者を訓練生にして実施することもできる。
制度を活用した企業からは、ミスマッチの回避や資金面のメリットだけでなく「訓練カリキュラムを作成したことによって、社員研修の仕組みを構築できた」「職業訓練の指導者になった社員が、自分自身の業務を改めて勉強し直したことでレベルアップにつながった」などの副次効果を指摘する声も多い。
<活用事例> 有期実習型訓練 株式会社香月園(愛媛県新居浜市)
正社員確保で売上アップに成功
茶道具、抹茶、抹茶を使った菓子などを販売している愛媛県新居浜市の「お茶の香月園」。代表取締役の大久保眞樹さんは、インターネット販売を本格化するに当たり、その専門要員の採用のためにジョブ・カード制度に着目し、平成24年に、初めて有期実習型訓練を実施した。 制度を活用するにあたり、地元商工会議所の手厚いサポートもあり、現在の社員のうち、3人が訓練を経て入社した社員だ。
商工会議所を上手に活用
大久保さんは、知人の会社経営者に有期実習型訓練を勧められたことをきっかけに新居浜商工会議所の地域ジョブ・カードサポートセンターに相談し、実施を決断する。
「何も知らない私に分かりやすく説明してくれ、その後のサポートも、まさに手取り足取り。うちのような零細企業では、煩雑な事務手続きが負担になるので助かりましたね」と大久保さんは当時を振り返る。
同社の場合、商品に関する専門知識と、ネットマーケティングの研修が中心になるが、大久保さん自身が、商工会議所の支援を受けながら訓練カリキュラムを作成。自ら指導に当たったため、スムーズにスタートできた。当初は非正規社員として採用し、給与を支払いながら研修を行った。
会社の魅力が社員定着の鍵
「有期実習型訓練は、期間を決めて必要なことを研修するので成長が早い。うちの場合、研修を修了した訓練生の全員が正社員を希望してくれました。研修でお互いをよくわかっていましたので決定はスムーズでした」と語る大久保さん。
正社員雇用に結びつくポイントとして「自社のニーズに合った訓練カリキュラムを作成する」とともに、「人材の採用と定着には、会社に長く働きたいと思える魅力があることも重要です」と強調する。
優秀な人材が定着したことで、同社の売上は上昇カーブを描く。26年の売上高は24年の約4倍と好調だ。
会社データ
社名:株式会社香月園(愛媛県新居浜市)
設立:昭和54年
資本金:1000万円
従業員数:15人
※会議所ニュース2015年6月1日号に掲載された記事です。
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