通販大手のジャパネットたかたの創業者髙田明さんが社長を退任して2年が経過する。お茶の間の人気者はテレビショッピングから姿を消したが、引退したわけではない。来年70歳を迎える今、初心に立ち返り、地元長崎の「地方創生」に奔走しているのだ。カリスマ経営者は、どのようにして戦略を描いているのだろうか。
次は長崎を売り出す
社長退任の理由を伺うと、「年ですから」と含み笑いをした。「人にはそれぞれ役割があります。働き盛りの世代もいれば、来年70歳になる私には“70歳の役割”があります」。髙田さんの役割とは、すなわち「地方創生」のことだ。
そもそも「地方創生」という視点を持つようになったのは、退任後に唯一テレビ出演している『髙田明のいいモノさんぽ』(BSフジ他)だった。髙田さんが日本各地を歩き、地元の人と触れ合いながら、本当に感銘を受けた商品を紹介するロケ番組だ。平成27年6月の放送開始から、青森県、宮城県、福井県、宮崎県など計12カ所を散歩してきた(29年8月5日現在)。
「番組を通して率直に思うのは、地元のみなさんが真摯(しんし)に頑張っておられるということです。どの地域を訪れても全国に誇れる素晴らしいものと出合うことができますし、それらはどれも一流です。しかし伝え方が弱いせいか、情報が埋もれてしまっているのは残念なことです。私は、地方創生とは『素晴らしいものを発掘して世の中に伝えること』だと思っています」
ジャパネットたかたは、徹底的に消費者目線に立つプレゼン力で発展してきたといっても過言ではない。商品説明はもちろんのこと、商品を手にすることで得られる「消費者の生活の変化」を提案し、購買意欲をかきたててきた。
「大切なのは、とことん情報を深掘りすることです。例えば、商品カタログの最初のページに掲載されるのは、新機能などをうたった目玉情報です。しかしそれらはメーカーが伝えたい情報であって、必ずしも消費者が一番に必要としている情報ではありません。私は、カタログを隅々まで読み、一番最後のページに書かれている大事な情報を、誌面のトップにもってくることで商品をヒットさせた経験があります。知っているようで知らない情報を掘り下げて伝えることで、より多くの人に興味を持ってもらえるのではないでしょうか」
髙田さんは、生まれ故郷である長崎県でジャパネットたかたを創業し、地元企業として会社を成長させてきた。引退後は長崎の観光リゾート施設のCMに出演しPRするほか、講演会活動や先述のおさんぽ番組出演を通して長崎の魅力を伝え続けている。
「長崎の魅力はその歴史にありま す。私の出身地・平戸は日本初の西洋貿易港として栄えたまちです。約400年前、ポルトガル人やオランダ人が平戸に来て貿易を行っていて、その歴史遺産は大変価値があります」
また現在、長崎県の漁獲高は北海道に次いで2位だ。「イカ、ヒラメ、何を食べても絶品ですよ。アナゴは、漁獲量日本一を誇ります。みなさん、ぜひ一度食べに来てください!」と“髙田節”は健在だ。
長崎県は、東アジア、東南アジアを中心とした外国人観光客の誘致を推進している。
「いわゆる“爆買い”の時代は終わりました。今や外国人観光客の関心は、買い物よりも『観る・食べる・泊まる』などの体験がメインです。その点、長崎の歴史遺産や食文化は見応え、食べ応えが十分ですし、長崎は物理的にアジアから近いですから。チャンス到来といえるのではないでしょうか」
地元サッカーチームの救世主へ
髙田さんはスポーツを地域資源とした地方創生にも取り組んでいる。ジャパネットは今年、約3億円の累積赤字を抱え経営難に陥った長崎県唯一のサッカークラブチームで現在J2の「V・ファーレン長崎」の株式を100%取得。髙田さんは同チームの新社長に就任した。圧倒的な知名度を誇るジャパネットたかたが地元のクラブチームに資金援助することを、髙田さんは「長崎への恩返し」と語る。
「現在のジャパネット社長から社長就任をお願いされました。周囲から背中を押されたこともあり、私としましても、長年応援してきた地元チームを何とか存続させたいとお引き受けしました。しかしこれは、倒産した会社を再建するに等しい事業です。4月の社長就任以来、まずは企業の傷んだところを一つひとつ把握している状況です」
サポーターは、沈没寸前のチームを地元のカリスマ経営者が舵取りをしていくことを歓迎している。髙田さんが試合会場に足を運べば歓声が起こり、選手達もそれに応えるように勝率8勝4敗4分(7月末現在)と健闘中だ。
「選手やサポーターのみなさんの『新たにやるんだ!』という気持ちが結果として表れているのだと思います。この勢いを長崎全土に広げていきたいですね」
V・ファーレンのホームタウンは、長崎の中央に位置する諫早市だ。北部や南部からは距離があって、“地元のクラブチーム”という認識が薄いのだと言う。
「離島からも試合観戦にやってくるような文化をつくり上げたいです。例えば、試合の前も後も、すべてひっくるめて一つのエンターテインメントにすることです。おいしい食事、さまざまなイベント、ハーフタイムも見応えがあって、試合も白熱していて面白い。行って帰って約6時間、たっぷり遊べる空間づくりを今後目指していきます。欲を言えば、ディズニーランドのような余韻があればいいですね。お客さまに『また来よう』と思っていただけるのではないでしょうか」
経営者に大切なもの
最後に、経営者に向けてエールの言葉をもらった。
「ぜひ、『夢を語る社長』でい続けてください。売り上げや利益は当然必要ですが、社員と夢を共有して気持ちで動いてもらって初めてそれらを達成できるものだと思います。それと、あんまり5年10年先のことで悩まない方がいいと思います。為替や株価と同じで、景気の動向もコントロール不能です。大切なのは数字ではなく、『何のために商品を販売するのか』『誰のためにものづくりをするのか』です。そこさえブレずに『今を一生懸命やっていれば』未来はもっとよくなるはずです」
世阿弥の言葉である「初心忘るべからず」とは若者に向けた言葉ではないそうだ。どの世代にもそれぞれに初心があり、死ぬ瞬間まで自己を更新し続けることに価値がある、と髙田さんは解釈する。
「よく講演などで、私の寿命は50年先と冗談を言ったりもしています。計算したらギネス記録になるので目指してみるつもりです」
言葉の真意は、人生80年などと決めつけて、残り10年で描く人生など面白くない。あと50年あると思えば新たにやりたいことがでてきて情熱もわく、という髙田さんらしいモチベーションの高め方だった。
「目標は年内のJ1昇格です」と言って、こちらの反応をうかがう髙田さん。一瞬冗談のようにも聞こえたが、そんな夢を本気で抱いているのではなかろうか。一代で売り上げ1700億円の企業へと育て上げた男の言うことだ。とても冗談とは思えなかった。
髙田 明(たかた・あきら)
株式会社V・ファーレン長崎代表取締役社長/株式会社ジャパネットたかた創業者
昭和23年、長崎県平戸市生まれ。大阪経済大学卒業後、機械メーカーを経て、49年父が経営するカメラ店に入社。61年にジャパネットたかたの前身である「株式会社たかた」を設立した。平成11年現社名に変更。2年にラジオでショッピングをスタートし、その後テレビ、紙媒体、インターネットでの通信販売事業を展開している。27年1月社長を退任し、同時期に株式会社A and Liveを設立。29年、サッカーJ2クラブチーム「V・ファーレン長崎」の代表に就任。「夢持ち続け日々精進」をモットーに生涯現役を目指す
写真・後藤さくら
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