Q 当社は製造業です。取引先からの急な注文に対応するため、社員に当分の間、毎日残業してもらうことにしました。ところが、ある社員が、自分は終業時間以降は趣味に時間を使う、と言って、残業を拒否しています。他の社員から不満の声が上がっており、職場の士気が下がり困っています。何らかの処分をしたいと思いますが、どのような点に注意すればよいでしょうか。
A 残業命令に従わない社員に対しては、まずは口頭で注意をします。それでも従わない場合には、文書による注意をし、従わない場合には処分を行う旨を予告しておきます。こうすれば、文書による注意を行った後も残業命令に従わない労働者に対しては、懲戒処分も可能になります。
一定の条件はあるが時間外労働にも義務
労働時間は、労働基準法(労基法)15条1項における重要な労働条件の一つです。通常、労働契約書が作成されているときは、その文面に労働時間が明記されています。また、就業規則においても、始業および終業の時刻は定めなければなりません(労基法89条1号)。労働時間は、労働契約の内容になっていますので、労働者は労働時間内は労働の義務を負います。その一方で、労働時間外は労働の義務を負いません。この例外を定めるのが、労基法36条です。使用者は、労働者の過半数を代表する者と労働時間を延長する協定をし、これを労働基準監督署に届けることにより、労働時間を延長することができます。
最高裁判所は、労働時間を延長して労働させることについて、次のような判決を出しています。①使用者が事業場の労働者の過半数で組織する労働組合などと書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出ている。②36協定の範囲内で使用者が事業場に適用される就業規則に一定の業務上の事由があれば、労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨を定めている。①、②の条件を満たすときは、規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすので、就業規則の規定の適用を受ける労働者は、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うというものです。
懲戒するには正しい手続きが必要
前記の最高裁判決での、「生産目標達成のため必要がある」「業務の内容によりやむを得ない」「その他前各号に準ずる理由がある」場合という定めはいささか概括的、網羅的であることは否定できないが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正かつ円滑に実施する必要性は労基法36条の予定するところと解されると述べ、相当性を欠くとはいえないとしています。
従って、業務上の必要があるときは時間外労働を命じる相当な理由があると解されますので、取引先からの急な注文に対応するために時間外労働を命じることは有効な残業命令と判断されます。よって、残業を命じられた労働者は、時間外労働の義務を負うことになります。
時間外労働の義務を負うのに時間外労働しないというのは、それだけであれば、労働契約における労働者の債務不履行にとどまります。懲戒処分を行うには、単なる労働契約上の債務不履行ではなく、それが職場秩序を乱すことに至っていることが必要です。従って、残業命令に従わない社員に対しては、まず、口頭で注意を行い、これに従わないときは文書による注意をして、それでも従わないときは懲戒処分を行う旨を予告するという手順を踏むのが妥当です。このようにすれば、残業命令に従わない労働者に対しては、懲戒処分が可能です。
(弁護士 山川 隆久)
きちんとした手順を!
○まずは、口頭で注意をしましょう。時間外労働にも義務があります。
○それでも従わない時は、文書で注意をしましょう。その際、文面に処分の予告を記載しましょう。
※4月号49頁「A」の「労働者災害補償保健_法に基づき」は、正しくは「労働者災害補償保険_法に基づき」です。お詫びするとともに訂正させていただきます。
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