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あの人を訪ねたい ラッキィ池田

「『妖怪ウォッチ』の振り付けを依頼されたとき、何としてでもヒット作にしなくては、というプレッシャーがありました。でも一度、その考えを捨てたんです。ヒットを狙うんじゃなくて、ちゃんといいものをつくろう、と。ヒットするかどうか分からないけれど、そうすればどんな結果になっても恥じることはありませんから」

昭和59年にダンサーとしてデビューして以降、長く振付師として業界の第一線で活躍を続けているラッキィ池田さん。数多くの楽曲、CM、映画などでその手腕を振るってきた。特に平成26年に主題歌の振り付けを担当したアニメ『妖怪ウォッチ』は国民的な大ヒットとなり、老若男女問わず注目を集めた。多くの人に愛される作品をつくるために大切なことは何か。そのポイントを伺った。

チーム力で大ヒットした〝妖怪ウォッチ〟

ラッキィ池田さんといえば、頭の上にゾウのジョウロ、奇抜なファッションと独特なキャラクターのタレントとして活躍しているイメージが強いかもしれない。しかし、キャリアのスタートはダンサーであり、同時に振付師として長く第一線で活躍を続けている。

「踊りに興味を持ったのは20歳くらいのときです。ディスコミュージック、ディスコダンスにひかれて、そこからダンスの仕事に入っていきました。ただ、20歳を超えてからダンサーとして食べていくのは非常に難しかった。だから、つくる方に回って、自分の頭脳を提供できればと思いました」

そう当時を振り返るラッキィさん。タレントとして見せる明るい雰囲気はそのままに、時折見せるクリエイターらしい真剣な表情が印象的だ。

そんなラッキィさんが最近手掛けた作品の一つに、国民的ヒットとなったアニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌『ようかい体操第一』がある。誰でもまねしやすい、易しい動きでありながら、それまでにないユニークな振り付け。子どもだけでなく大人にも人気を博している。

「最初に妖怪ウォッチの楽曲制作を打診されたのは、26年のアニメ公開の4年前。妖怪ウォッチをつくったレベルファイブの日野晃博社長に『国民が歌って踊れて喜べるような作品をつくってほしい』って言われて。例えば『アンパンマン』の『アンパンマンマーチ』。『ちびまるこちゃん』の『踊るポンポコリン』のようなものを、と。これって、必ずヒットさせてくれっていう意味ですよね(笑)。かなりプレッシャーは感じましたよ」

実際に制作に入ったのは、アニメ公開の1年ほど前から。音楽プロデューサーの高木貴司氏、作曲家の菊谷知樹氏と意見を出し合う中でまず決めたのは、「国民的ヒットを生み出そうと思わない」ということだったという。

「必ずヒット作にしなければ、というプレッシャーがありましたから、最初は『踊るポンポコリン』のような作品を目指そうかって、話をしていたのです。でも、すぐにそこを目指しても仕方がないなと気が付きました。国民的ヒットになっているからといって『踊るポンポコリン』を追いかけるのはやめようと決断したんです。どんなに追いかけても、あの素晴らしい楽曲以上のものはつくれない。そうじゃなくて、ちゃんとしたものをつくろう、面白いものをつくろうと。そうすれば、ヒットするかどうかは分からないけれど、どんな結果になっても恥じることはない」

その決断には勇気が必要だったとラッキィさんは笑う。そして決断できたのは「このチームが素晴らしいものだったから」と続ける。

「最終的には、日野さんが考えていたコンセプトの中でどうやってつくっていくかということになりました。妖怪ウォッチというのは、子どもたちが日々の生活をする中で遭遇する困ったこと、それが実は妖怪の仕業で、妖怪を説得したり、戦うことで、その問題を解決していくというものです。日常の中で、逃げたいのに逃げ場がない。そんなときに妖怪のせいにすることで、子どもたちは逃げ場を見つける。そんな、作品が持つコンセプトと、その後ろにある思い。それをどういうふうにつくっていくか、そこに集約されたというわけです」

結果、作品は大ヒット。それだけではなく、その年に最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームに贈られる「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」にも選出された。

ヒントは身の回りにある

ラッキィさんが作品をつくるうえで大切なポイントとして挙げたのが、ユーザーを意識するということ。自身が振り付けを考えるときも常にユーザーを意識していると言い、妖怪ウォッチの場合は、小学校3、4年生の男の子に的を絞り込んで、徹底的に研究して作成したという。

「でも、フタを開けてみたら一番人気が出たのは、幼稚園から小学1年生だったという(笑)。必ず狙った所にヒットするわけじゃないという、微妙なさじ加減の難しさっていうのは感じますね。今回の反応を参考に、また今後、他の年齢の子どもたちに対して何が面白いのかっていうのは、その内容を含めて、どんどん探っていきたいと思っています。ユーザーって、常に身の回りにいると思うのです。僕はまちを歩いていて『あ、この人は踊るかな?』とか、『この人は大人だからこんな踊りはしないだろうけど、子どもだったら踊るんじゃないかな?』とか。常にイメージしていますね。だから新宿や渋谷、原宿、そういう雑踏の中に身を置いたときに、アイデアが浮かんだりします」

どんな人が、どんなふうに喜んだり、楽しんだり、面白がったりしてくれるのか? そこを具体的にイメージしてものづくりをすることが大切だということだ。

「『ちっちゃいおっさん』というキャラクターを生み出したアップライトの池田進太郎社長。彼の根底には、ご病気だったお母さまを笑わせたい、という非常にシンプルで強い思いがあったそうです。結果、ちっちゃいおっさんは大ヒットとなりました。ヒットありきでつくったわけではなくて、目の前にいるたった一人を喜ばせるためにつくったものなのです。そういうものこそ、大ヒットするかもしれないんですよね」

さらに付け加えるならば、つくったものが世の中にどんな影響を与えるのか、そこまでをイメージするようにしているのだとラッキィさんは続ける。

「アイドルグループの振り付けをする際には、今いる固定ファンが満足するだけでなく、どれくらい新しいファンが獲得できるかについても重点を置きます。その際に大切なのは、今いるファンの人たちが新しく驚く、興奮するということを無視せず、なおかつ知らない人にも受け入れられるものをつくるということ。そのアイドルグループが、この曲で何を表現するべきなのか。可愛さなのか、格好良さなのか、面白さなのか……。振り付けによって曲の世界観を表すだけじゃなく、そのアーティストのその後の活動や、ブランディングの部分にも考えを巡らせます。そういったことまで含めて振り付けを考えるようにしていますね」

皆で楽しめることが踊りの強み

ラッキィさんの仕事の細やかさには、〝職人〟という言葉がピッタリ合う。

「僕が生まれたのは下町の、スカイツリーが立ってるあたり。優秀な町工場がたくさんあります」

職人たちが集まるまちで育ったことも、今の仕事ぶりにつながっているのかもしれない。そんなラッキィさんの振り付けの特徴の一つは、「参加型」であるということだ。つまり、見ている人が思わず一緒に踊りたくなる振り付けなのだ。

「踊りが持つ本来の目的っていうのは、集団でワッと踊るということだと思うんです。お祭りでいえばリオのカーニバルとか、阿波踊りとか。何かを皆で祝うっていうのが基本的にあると思う。集団が持つエネルギーっていうのはすごく強いし、大切だと思うのです。だから、僕が携わっているのは皆で踊れたり楽しめたりする、大衆的なものが多いですね」

〝皆で楽しめる〟という踊りの強み。それを国内だけでなく、海外でも生かしていきたい。特に、世界中の子どもたちに元気を与えられるような、そんな活動をしていきたいとラッキィさんは前を向く。「今、タイに友人がいる関係で、タイでも仕事をしています。まずは幼稚園の慰問から、他にもダンスイベントなどを楽しく広げていけたらいいなと思っています。タイの子どもたちに向けて英語教材の番組をつくろうとか、そんな構想もあります」

子どもたちが大きな夢を持てるような環境が整っていること。「これを望まない人はいないですよね」とラッキィさん。もちろん、妖怪ウォッチというアニメ、ゲーム自体を海外で広めていくというチームでのビジョンもある。それだけでなく楽しく個人でも踊りの輪を広げようとしているわけだ。活躍の場は世界中にますます大きく広がっている。

ラッキィ池田(らっきぃ・いけだ)

振付師、タレント

1959年10月25日生まれ。東京都墨田区出身。20歳の頃からディスコミュージックに影響を受け、1984年にダンサーとしてデビュー。振付師としてのキャリアもスタートさせる。その後、芝居やコントなどで活躍し、ラジオレポーターなど活躍の幅を広げながら、振付師として第一線で手腕を振るい続けた。2014年に手がけたアニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌『ようかい体操第一』が大ヒットを記録した

写真・後藤さくら

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