経済評論家として、さまざまなメディアで活躍中の勝間和代さん。現在、投資顧問および経営コンサルタント会社の取締役でもある勝間さんに、企業がこの先伸びていくために大切なことは何かを伺った。
やり方ではなく何を目的にするかが大切
ジャンルを超えた幅広いフィールドで活躍を続ける経済評論家の勝間さん。歯に衣着せぬ物言いで、経済評論や女性の社会進出に関する問題をズバリと語るスタンスで大きな支持を得ている。
勝間さんに関して、特によく取り上げられるのが慶應義塾大学在学時に当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得したことだろう。しかし、なぜ公認会計士だったのか。勝間さんは少し意外な理由を口にした。
「親が中小企業経営者で、幸いなことにそこそこ余裕のある生活ができていました。今では笑い話ですけれど、当時の私はお寿司屋さんでは好きなものを好きなだけ注文していましたし、近所でお買い物をするときは、財布を持たずに親のツケで好きなものを買うのが、当たり前だと思っていました。ですが中学生くらいのとき、実家を継ぐのは兄であり、このままでは私はこの生活を保てないと気付いたのです。それで親に年収を聞いて、その年収を自分の力で得るにはどうしたらいいのかを考え始めました」
この〝当たり前の生活〟を続けるためには、自分自身でその生活ができるくらいのお金を稼がなくてはならない。そんな、普通の中学生ではなかなか考えが至らなさそうな理由を軸に自身の将来を考えはじめた勝間さん。そこで彼女が選んだのが、公認会計士という職業だった。
「当時、仲良くなった友人にとても裕福な人がいました。お父さまの職業を聞いてみると『会計士』だったんです。そうか会計士になればいいのかと思いました。でも、当時は開業と勤務の違いもわかっていませんでした(笑)」
19歳という若さで資格取得ができたことに関しては「もともと数字をいじるのは好きだったから」と言うが、もちろんそれだけでは最年少合格はできない。そこには勝間流〝学び方〟のコアともいえる考え方があった。
「姉の友人で在学中に会計士に受かっている人がいたのです。それで、勉強を始める前に、まずはどうやって勉強したら〝学生時代に受かるのか〟を聞いたんです」
〝どうしたら受かるのか〟ではなく、〝どうしたら学生時代に受かるのか〟。この目標設定が勝間流だ。
「いわゆる一般に言われている方法だけやっていても、それ以上の結果は得られないわけです。何か目標を定めて、それを達成するための方法を誰かから学ぶ場合は、やり方ではなく、目的が大切。言っていることが理論的、合理的かどうかということと、その人が何を目的にしてどういう思想で何をしようとしているのかを意識するべきです。その上で、自分に合うようにしていく。前提条件は一人ひとり違いますから」
そのときは「日商簿記1級合格の力が付くまでとにかく簿記を勉強するべきだ」とアドバイスを受けた。経済の言語ともいえる簿記を徹底的に学んだことが、試験合格への近道になったという。
「目標達成のために、より効率の良い方法を事前に学ぶ……というか。実は私、虚弱体質なのです(笑)。小さい頃から、ちょっと無理をするとあっという間に熱を出したりお腹をこわしたり……。だから、長時間机に向かういわゆる〝ガリ勉〟はできないのです。自然と無理をしなくても目標を達成できる方法を探すようになりました」
〝間違っているかも〟という感覚を常に持て
経済評論家として活躍を続ける勝間さん。日頃から心掛けていることの一つが、「自分の考えが間違っているかもしれない」ということを常に意識することだという。
「経験を重ねて、実績を積み上げていくと、自分の考えは正しいと思いがちです。でもそれが一番危ない。知識が増せば増すほど自信は付きますが、正確性は全く増さないのです。将来というのは不確定要素が多過ぎて、私たちが得られる情報だけでは判断できないものです。だから、将来予測というのは、基本的には当たらない。それに私たちは不完全な存在だから間違いを犯すのです。経営者の方に必要なのは、自分は間違っているかもという意識を常に持って行動することです」
常に自分の〝考え〟が正しくないかもと疑うこと。ともすれば、自分がそれまで積み上げてきたものを疑ったり、ないがしろにしたりという意識にもなりそうだ。しかし、勝間さんの話す内容はそういった類のものではない。
「私が好きな投資家で、藤野英人さんという方がいらっしゃいます。彼は、自分が〝絶対に上がらない〟と思う会社の株を一定量、必ず買っておくそうです。自分は不完全な存在なので、自分の考えが及ばなかったときに、その株が助けてくれるからと」
こうしたことを意識して動くことが危機管理のベースとなる思考なのだと勝間さんは説く。さらに、勝間さんがコンサルティングする際も、自分自身の会社に対しても気を付けていることが、「なるべく一人のお客さまに10%以上の収入を頼らない」ことだという。
「このお客さまがいなくなったら会社が持たない、という状態をつくらないことが重要です。だからこそ、大切なのが新規開拓です。一社に頼らないようにするためにはお客さまを増やさないといけません。100年以上続いている老舗の企業は、やはり皆さんイノベーションされていますよね。全く新しい分野を開拓するのではなくても、自社の強みを時代や需要に合わせてどう活用していくかという意識で常に新規開拓をされています」
長く、安定して企業経営を続けていく……。そのために大切なのは現状維持や保守的な姿勢ではなく、大切なものを守りながら常に新しいチャレンジを続けていくという姿勢だという。
若者の思考の変化に対応できる企業を目指せ
現在、勝間さんが一番力を入れている事業が「勝間塾」である。勝間塾とは、スキルアップ、起業や出版などを目標に学びを高めていくための場だ。勝間さんはそこで講師として、自身のノウハウを伝授しつつ、塾生の目標達成をサポートしている。
「私も50歳を前にして、第一線でバリバリ働く……という感じではなくて。その代わり、後進の育成をしていきたいのです。私自身、30代後半はめちゃくちゃ働きましたし、非常に充実していました。ですから、一人でも多くのビジネスマンが、特に能力のピークに当たる30代後半〜40代前半時に全ての力が出せるお手伝いをしていきたいなと思っています。私自身、若いころにある経営コンサルタントの方の本を読んで、感化されて仕事に取り組んできました。私も次はそういう〝与えること〟でも貢献していきたいですね」
そうして育っていった人たちが、また後進を育てていけば大きなプラスの連鎖になると笑顔を見せる勝間さん。並行して、政策提言などは、政府の委員会や新聞連載などで続けていきたいとも語る。
内閣府男女共同参画会議の議員でもある勝間さん。現在の日本における女性の社会進出に関してこう指摘する。
「現状では、性差別と能力差の問題がごっちゃになっていると感じます。なぜそうなっているかというと、女性が厳しく切磋琢磨しなくても生き残れる環境だから。思い切って配偶者控除や時短勤務の許可など既得権益をなくしてしまう。そうすれば男性も女性も競争できる環境になります」
男女が平等な競争環境にある――そういった思想にない企業が、まだ日本には多いと話す勝間さん。そんな中、すでに若者の思考は変化しつつある、とも感じている。
「今の20代は競争環境の点ではほぼ平等です。あと20、30年経てば、時代は変わっているはずです。でもその間に企業が変われなかったら? 厳しいですが、変われなかった企業は生き残れない。そういうことです」
企業が長く続いていくためには現状維持ではなく、常に変化していくこと、新しいことにチャレンジしていくことが大切だと話す勝間さん。彼女の言葉の端々からは、そんなメッセージが溢れ出ていた。
検定ホームページhttp://www.kentei.ne.jpにも勝間さんのインタビュー記事を掲載しています。ぜひご覧ください
勝間和代(かつま・かずよ)
経済評論家 中央大学ビジネススクール客員教授
1968年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究専門職学位課程修了。当時最年少記録となる19歳で会計士補の資格を取得し、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。現在は経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授として教鞭をとりながら、株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議議員、国土交通省社会資本整備議会委員として活躍中。著書に『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』、『勝間和代のビジネス頭を創る7つのフレームワーク力』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
写真・後藤さくら
最新号を紙面で読める!