インバウンド(訪日外国人)の市場拡大に期待が高まっている。とはいえ、現状では彼らが訪れる観光地はまだ限られている。そこで、インバウンドに力を入れている北海道の3商工会議所による広域連携での各地域の特色を生かした「広域周遊型観光」戦略に迫る。
事例1 3商工会議所が強み生かし周遊型観光チャネル構築
登別商工会議所
登別市、室蘭市、伊達市と互いに隣接する3市の商工会議所が連携して、国内外からの誘客拡大を目指す「魅力再発見プロジェクト」を展開している。その音頭をとったのが登別商工会議所だ。北海道有数の温泉地として栄え、現在も多くの日本人客や訪日外国人が訪れる観光ノウハウをもとに、各市の強みをつなげた広域周遊型観光づくりに取り組んでいる。
3市を一つのエリアとして魅力ある観光地をつくる
北海道南西部の太平洋に面した地に隣接する登別市、室蘭市、伊達市。しかし、それぞれ第一次産業、第二次産業、第三次産業で発展を遂げ、成り立ちはまったく異なる地域だ。そんな3市の商工会議所が連携して、「三商工会議所北海道新幹線連携会議」を設立したのは、平成25年7月のこと。それ以前も交流はあったが、観光を目的にタッグを組んだのは初めてだ。その背景には、28年3月の北海道新幹線函館開業があった。
「北海道に新たな集客が見込めるチャンスだけに、ぜひこの地域にも足を延ばしてほしいと思いました。当市は温泉地として名が通っていますが、それだけで集客増を図るのは簡単ではありません。そこで3市が持つ歴史や文化、自然、景観、産業、食などの地域資源を結びつけ、一つのエリアとして周遊型観光チャネルを構築して、地域全体の魅力向上と活性化を目指そうと考えました」と登別商工会議所経営支援課課長の田中将大さんはきっかけを説明する。
しかし、北海道新幹線の札幌延伸ルートは、通称「北ルート」と呼ばれる日本海側を通り、同地域を通らない計画となっている。そこで中小企業庁の補助事業「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」を活用し、北陸新幹線開業時にルートから外れたため観光開発に力を入れている地域などを調査した。その結果を参考に3市に埋もれている魅力を洗い出し、291の地域資源をリストアップした。
「北海道というのは、同じ日本でありながらまったく違う歴史を歩んできました。長らく縄文時代が続いた後にアイヌ文化期があり、明治になって本州から武士が入植して開拓が進むと、一気に近代化したんです。その足跡がこの地域に多く残されています。それらにスポットを当てたら、興味を持ってもらえるのではと思いました」
そこから「北海道開拓の足跡めぐり」をテーマに、新たな周遊型観光コースの開発、モニターツアーの実施、情報発信用パンフレットの制作、さらに東北地方を中心としたPR活動などを積極的に展開してきた。
広域観光のみならず新たな産業の育成へ
登別商工会議所は、この取り組みにおけるリーダー的存在といえる。登別市の27年度の観光入込客数は約390万人、そのうちインバウンドは約47万人と、観光に関しては一日の長があるためだ。
「ここ数年で観光客の数は右肩上がりで伸びており、特にインバウンドの数は3倍増の勢いです。しかも最近の傾向としては個人旅行客の割合が増え、レンタカーを借りたりタクシーをチャーターしたりして、自由に行動する人が目立ちます。これは広域の周遊型観光を目指すわれわれにとって好都合ですが、その分自由度の高い観光プランを提案しないとそっぽを向かれる可能性があります。そういう意味で3市の多岐にわたる観光資源を提案できるのは大きな強みだと感じています」
田中さんの分析によると、観光において日本人やアジア人は景観やグルメを重視し、欧米人は文化や体験を求める傾向があるという。現在、同市を訪れる観光客の多くは、日本人と台湾を中心とするアジア人なので、風情豊かな温泉とご当地グルメ「登別閻魔(えんま)やきそば」の開発で好評を得ているが、欧米人への訴求力は十分とはいえない。そこで新たに、地獄谷めぐりや縄文文化体験、秋限定のサケの遡上(そじょう)見学など、この地ならではの体験プログラムを企画し、魅力向上に努めている。また、32年には隣の白老町に国立アイヌ民族博物館がオープン予定となっており、さらなる集客増が期待される。商工会議所ではそれを見据えて、白老町商工会との連携なども進めているという。
「観光客数だけを見れば登別は活気がありますが、言ってしまえば温泉しかありません。ここでしか味わえない食べ物や土産物、工芸品も充実しているとはいえません。でも、室蘭や伊達にはそれらがあります。3市の強みをうまくつなげれば、地域の魅力はさらに高まると同時に、広域六次産業化を目指せるのではと考えています。そうなれば、それぞれの地元の商工業者にも新たな仕事が生まれる可能性があります」
「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」は今年度が最終年度となるが、今後も時代の変化に対応しながら連携を継続し、誘客に取り組む。幸い各市の行政や観光協会とも風通しのよい関係を築いており、今後も地域の魅力の確立に向けて活動を加速させる予定だ。
※月刊石垣2017年10月号に掲載された記事です。
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