事例3 200種類の野菜を生かした「食の観光都市」を目指す
伊達商工会議所
農業や水産業を中心とした第一次産業が盛んな伊達市。中でも年間200種類に及ぶ豊富な野菜は、人を呼び込む大きな魅力となっている。しかし、今後の人口減少などによるマーケットの縮小を見据え、野菜の高度活用に着目。登別と洞爺という二大温泉地の間に位置する強みも生かして、さらなる誘客を目指している。
新鮮な食材目当てに年間180万人が訪れる
北海道の中では四季を通じて温暖で、雪も少ないことから「北の湘南」と呼ばれる伊達市。古くから農業や水産業を中心に発展してきたが、特に野菜は有名で年間約200種類が生産されている。これを目当てに遠方から足を運ぶ人も多く、産業としても十分成り立ってきたことから、これまで観光に力を入れる必然性に乏しかった。
しかし、この10年程で人口はなだらかに減少を続けている。また、北海道新幹線の札幌延伸に伴い、室蘭-長万部間を走る特急が廃止になる可能性があり、そうなればその途中に位置する同市へのアクセスはかなり悪くなる。そんな状況に伊達商工会議所経営支援課課長の笠師芳和さんは、かつてない危機感を覚えたという。
「その予測が現実となれば、マーケットの縮小は避けられません。第一次産業に頼る従来の産業構造の転換を考え始めたとき、登別商工会議所から『一緒に観光開発しませんか』と声が掛かったんです」
同市の観光資源として真っ先に挙げられるのは、旬の野菜を常時取りそろえている伊達市観光物産館(道の駅)だ。平成28年度の同館の入込数は年間約140万人で、3年連続道内1位を誇る人気施設である。また、有珠山などの自然遺産や、縄文時代の歴史遺産からなる洞爺湖有珠山ジオパークなどもある。さらに、北海道内唯一の藍の生産地であることから、藍染め体験もできる。
そうした自然の恵みを求めて訪れる人はコンスタントにおり、過去4年間の観光入込客数は年間170~180万人で推移している。また、インバウンドに関しては増加傾向にあり、28年度には初の4万人超えを果たした。
体験プログラムを導入して新たな価値の創造へ
とはいえ、同市も通過型観光地という側面が強い。国内外を問わず多くの人が長時間滞在し、宿泊してもらう仕組みづくりは急務といえる。
「そのカギは、やはり伊達野菜だと思います。現在は販売がメインですが、今後は観光客に収穫してもらったり、プロの料理人と調理をしてもらうなど、多彩な体験プログラムを考えているところです」
それらは今、スタート地点に立ったばかりだ。同市では野菜がそのままでよく売れるため、それで何かをするという発想に乏しいという。食品加工会社も少なく、加工品や土産物の種類も豊富とはいえないのが現状だ。そうした課題を解決していくためにも、地元の商工業者への説明や働きかけを強化している。
また、インバウンドの誘客には別のアプローチが必要だ。今年の春、外国人留学生を対象に観光の視点でまちを評価してもらうと、外国語のパンフレットや看板の整備、外国語で対応できる人材の育成など、さまざまな課題が浮き彫りとなった。さらに、野菜をメインとした企画を提案し、留学生に自国の観光客に受け入れられるかどうか意見を聞いてみたところ、ベジタリアンが多い台湾の人にはおおむね好評だったものの、それ以外のアジア人には不評だったという。
「まちの強みを生かしつつも、幅広い人々に喜んでもらえる観光開発が重要であることがよく分かりました。そういう意味でも今回の連携は渡りに船といえます。隣接するまちにものづくりや観光のノウハウを学びながら、食の観光都市を目指していきたい」と笠師さんは締めくくった。
※月刊石垣2017年10月号に掲載された記事です。
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