大和市は神奈川県のほぼ中央に位置する人口約23万の都市です。私は、このまちで「欧風菓子クドウ」を開業し、経営してきました。高校卒業後、すぐに菓子職人の道に進みましたが、天職だったと思います。この仕事を選んだのは、小さなころに知ったバターやチーズの味わいなどが忘れられなかったからかもしれません。私の生家は宣教師や語学教師のための下宿屋を営んでおり、食生活や家具類も当時としては珍しい洋風。おやつも母が手づくりしてくれたアイスクリームやチョコレートなどでした。
最初の職場は、ドイツ人が経営するジャーマンベーカリー。仕事は忙しかったですが、将来はヨーロッパで勉強したかったので、夜間にドイツ語学校にも通いました。しばらくしてから、「ドイツに行かせてほしい」と社長に直訴したところ了承してくれました。夢にまで見た本場の菓子修業に旅立つことになったのです。
当時は1ドル360円、ヨーロッパでは、まだ日本の菓子職人は珍しい時代。日本を背負っている自覚とプライドを持って仕事に取り組みました。職人の世界では言葉も大切ですが、「仕事」がコミュニケーションの手段となります。最初は、「どんなやつなんだろう」と好奇の目で見られたようですが、仕事を通じて信頼を勝ち得ることができました。
4年間の修業を終えて帰国した後、総仕上げとして学んだ技術を生かして仕事に取り組みました。ここで自信をつけ、昭和47年に独立しました。最初のうちは苦戦しましたが、徐々に軌道に乗り、4年後には店を移転・拡張。さらに、東京・青山など3カ所に支店を出しました。そして、8年目には日本橋髙島屋から出店の申し出が来ました。鮮度の高い商品を提供するため、店内に製造工場を併設。営業を16年間続けました。
私の考える経営の基本は①人を大切にする②良い材料を厳選し、無駄にしない③期日通りに代金を支払う、というもの。クドウの菓子をつくる従業員には、自分を磨くため、一人一台の作業台を与えて各自に管理させています。彼らには、技術の習得だけでなく、経営も学んでほしいと願っています。また、クドウの菓子は材料を無駄にしないレシピに特徴があります。「モノ」も「カネ」も自分ではしゃべりませんが、人間が礼節を持って扱わなければならないと考えています。
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