日商 Assist Biz

更新

コラム石垣 2016年9月11日号 宇津井輝史

国籍を移すのは、いまはそう難しくない。移民や難民の認定はこのところ厳しさを増すが、それでも20世紀以降は人が国境を越えて移動するようになった。混血も進んだ。むろん血統による特徴は身体や容貌にあらわれるから、いかにもフランス人という顔はある。だがもはや「その国の人の顔」がイメージの中だけになったのを、オリンピックを観ていて実感した。メダルの数に一喜一憂するのはどの国も同じだが、もともと民族神話は近代以降、ナショナリズムを鼓舞するためにつくられたという説もある。

▼日本はどうか。そもそも私たちの遠い祖先は、この島国にいろいろなルートから渡ってきたはずである。ユーラシア大陸との距離を考えれば、相当の勇気を伴う航海の果てにたどり着いたところに日本列島があった。

▼現生人類は20万年前にアフリカで生まれた。理由は分からぬが6万年前から世界に拡散し始めた。ベーリング海峡は陸続きだったから南米にも到達した。手段はほぼ徒歩と小舟。日本へのルートは、シベリアからサハリン経由、朝鮮半島から対馬経由、台湾から琉球列島経由の3つとされる。近年の遺伝子研究なども踏まえた定説だ。

▼今夏、この3つ目のルートを、当時の技術水準を想定した装備で渡る再現航海が試みられた。国立科学博物館の研究者らが綿密な計画を立て、地元の協力で実行された。台湾から与那国島まで100キロ余り。草を束ねた、葦船ならぬ草船に木製のオール。初めは順調なるも次第に黒潮に流され始め、人力では修正困難と判断して断念した。古人の渡来は偶然だったにせよ、確かな航海術を身に着けていたと推定される。3万2千年前のわが遠い祖先に頼もしさを感じた夏だった。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

次の記事

公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗

地域の工場・工房や産業遺構などから交流ビジネス(観光)を創出する「産業観光」に長く取り組んできた。激甚公害を経た1970年代以降、多くの企業が広報・CSR活動の一環として工…

前の記事

神田玲子・総合研究開発機構理事

7月の参議院選挙で与党が勝利し、政策についての国民の支持が得られたかのようだ。しかし、実際は、いくつか気になることがある。▼消費増税の先送りをすれば税収が減少するが、…

関連記事

政治経済社会研究所代表 中山文麿

今回の米国大統領選挙は、トランプ氏を絶対に再選させたくない民主党と熱狂的な支持者からなるトランプ党との戦いだった。トランプ支持者は戸別訪問などどぶ板選挙も行い、前回…

時事総合研究所客員研究員 中村恒夫

アニメ映画「鬼滅の刃・無限列車編」が空前ともいえるブームを巻き起こしている。目を見張るのは観客動員数だけでなく、関連グッズの多さだ。二番煎じ以降になると、効果もそが…

東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

2015年に創設された「日本遺産」は、今年6月、新たに21件が認定、合計104件となり、当初予定の認定数に達した。今後は新たな認定は行わないが、そのさらなる磨き上げに力を入れ…