最近、大手企業の不適切な会計処理を巡る問題が注目を集めている。不適切な会計処理によって損失を隠蔽したり、利益を膨らませる手法は、わが国だけではなく米国などでも数多く発生している。2001年には、米国の大手エネルギー関連企業だったエンロン社の不正会計が発覚し、最終的に同社が破綻に追い込まれた。エンロン事件は、金融市場などに大きな悪影響を与えたことでも大きなインパクトを持っていた。そうした事態の発生を防ぐため、米国ではコーポレートガバナンス(企業統治)の重要性の認識が高まり、企業の不祥事に対する罰則規定を強化するサーベンス・オックスレー法(SOX法)が制定された。
今年、わが国でも上場企業の企業統治の指針であるコーポレートガバナンス・コードが導入され、企業統治に対する考え方が整理されつつある。ただ、社外取締役の導入など体制の整備だけでは、今回のような不祥事は減らない。本当の解決策は、経営者自身が隠蔽工作が発覚したときの高いコストを認識することに尽きるだろう。
実際、経営者にヒアリングしても、「手段を選ばず利益を増やしたいと思ったことは何度もある」との声もあった。しかし、多くの経営者は、「一時的に利益を増やしても、それが発覚して信用を失うコストの方が大きい」と冷静に判断していた。不正などの発覚によって企業が信用を失うデメリットの方が、一時的に利益を膨らませるメリットよりも大きいことを理解しているからだろう。
ところが、ライバル企業との競争や経営者同士の勢力争いなどによって、時に、不正発覚のリスクが片隅に追いやられてしまうことがある。そうした状況が、本来であれば不適切な手法を抑えるべき経営者を、〝収益至上主義〟の心理状態にさせてしまう。仮に経営者がそうした心理状態になってしまうと、現場の〝利益水増し〟の心理を抑えることは難しい。
本来、企業に何らかの不正や不適切な会計処理があれば、それらを見つけ出して是正する仕組みがあるはずだ。例えば、現金などの出し入れは、基本的に二人以上の認証が必要となる。不適切な会計処理があれば、通常、企業の内部統制や監査部、外部の会計監査などによって見つけられる。ところが、組織ぐるみの関与があると、不正を見つけ出し、正す機能が低下することになる。
そうした事態の発生を防止するために、コーポレートガバナンスの機能が重要だ。コーポレートガバナンスとは、企業内部のけん制システムに依存することなく、社外取締役や株主などの利害関係者(ステークホルダー)によって、企業活動を監視する仕組みだ。仲間内では管理やけん制の機能が甘くなりがちなので、外部の人たちにも入ってもらい、日常の企業活動を監督しようというシステムである。この考え方は、1960年代の米国で注目されたといわれている。わが国でも、今年、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とした有識者会議が行われ、6月からコーポレートガバナンス・コードが施行されている。
コーポレートガバナンス・コードの中にはさまざまなポイントが挙げられている。その中で、最も注目されるのは社外取締役の導入が要請されていることだ。企業内部の取締役だけだと、仲間同士という意識もあり、どうしても相互の管理体制が甘くなったり、意見具申を尻込みすることが多くなりがちだ。それでは、本来のガバナンスの機能は働きにくい。そのため、社外の独立した人材を取締役に選任し、管理体制を強化することが求められている。
ただし、社外取締役の仕組みを導入しただけでは、ガバナンスの機能が十分に機能する保証はない。まず経営者は、社外取締役に適した人材を見つけなければならない。また、適材を見つけても、経営者自身が、取締役会などで社外取締役が発言し難い雰囲気を醸成すると、その本来の機能が発揮できなくなる。コーポレートガバナンスの機能を充実させるためには、経営者自身の意識を変えることが必要不可欠なのである。
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