今年4-6月期のわが国GDPは、年率換算1・6%減と3四半期ぶりにマイナスに落ち込んだ。GDPの内容を見ると、個人消費と輸出の下落が大きく足を引っ張った。政府の見解は天候要因などによる一時的な下落としているものの、今後の個人消費や輸出の展開によっては、わが国の景気回復のシナリオが崩れることも懸念される。
特に輸出の動向は要注意だ。今回、輸出が落ち込んだ背景には、中国経済の減速が一段と鮮明化したことにある。それによってアジア諸国の景気回復にも一服感が出ており、わが国から中国やアジア諸国向け輸出の勢いがなくなっている。わが国経済の行方を占う上で、中国経済の動きには十分な注意が必要だ。
その中国は8月中旬に、突然、2%近い人民元の切り下げを実施した。今回の措置は、表向きIMF(国際通貨基金)の勧告に従った人民元改革と称しているものの、実際には、中国政府の輸出のてこ入れを狙った景気刺激策の一環と見られる。中国国内では生産能力の過剰感が高まっており、企業間の取引価格の水準を示す今年7月の卸売物価指数は、前年同月比マイナス5・4%と3年5カ月連続で下落した。
そうした経済低迷に危機感を持つ中国政府は、これまでにも金利の引き下げやインフラ基金の創設など矢継ぎ早に手を打っているものの、不動産バブルの崩壊や債務の積み上がりなどの問題があり、期待したほどの効果が上がっていない。7月の輸出が前年同月比でマイナス8・3%と大幅に落ち込んだことを受けて、中国政府がなりふり構わず人民元の為替レートを切り下げたというのが実態だろう。
人民元は、現在でも中国人民銀行の厳格な管理下にある。実際に人民元とドルを交換する場合、中国人民銀行が毎日提示する交換レート(基準値)から、上下2%の範囲に限定されている。中国人民銀行が独自の判断に基づいて基準値を決めているのだ。そうした中央銀行の恣意的な基準値の提示や厳格な為替管理体制に対して、米国など主要国から人民元が実勢を反映せず、過小評価されているとの批判を受けることが多かった。
ただ、従来、中国人民銀行が提示する毎日の基準値は、緩やかにドルと連動するため、ソフトペッグ制度(管理された変動相場制)と呼ばれてきた。ソフトペツグ制度であったこともあり、過去数年間はドルの上昇とともに人民元も上昇傾向を辿ってきた。
自国通貨が上昇することは、輸出依存度の高い中国経済にとって無視できないマイナス要因だ。中国政府とすれば、足元の景気減速感を考えると、そうした為替のマイナス要因を放置しておけなかったのだろう。中国国内からは、「人民元を10%程度切り下げるべき」との声が出ているという。
一方、中国経済の減速が明確になり実質的な人民元切り下げを行ったことで、世界経済の微妙なバランスを崩す懸念がある。中国は世界第2位の経済大国であることを考えると、そのインパクトは無視できない。オーストラリアやブラジルなどの資源輸出国や、韓国やわが国などのアジア諸国、さらにはドイツなど中国と密接な関係を持っている国には、大きなマイナス要因になる。特に、一部のアジア諸国経済への影響はかなり大きくなるはずだ。現在のように、世界的に過剰生産能力が存在し、企業間物価指数に下押し圧力がかかりやすい状況では、景気減速の連鎖が広がることが懸念される。
そうした状況の中で、2009年央以降回復を続けてきた米国経済が、これからも回復基調を維持することができればよいが、ドル高・原油安の逆風の中で、米国企業の業績の伸び悩みの兆候が出始めている。人民元切り下げをきっかけに世界経済のけん引役の米国経済の息が切れると、世界経済に大きな試練が訪れることが考えられる。わが国経済にとっても、輸出の伸び悩みが顕在化すると、企業の設備投資の足を引っ張ることも考えられる。そのリスクを過小評価すべきではない。
最新号を紙面で読める!