2016年は世界的な株価下落で幕開けとなった。今回の株価下落が意味するものは小さくはないだろう。ある意味では、今までの量的金融策によって供給された潤沢な流動性(マネー)を背景に、世界的に株式や不動産の価格が上昇傾向をたどってきた、〝宴(うたげ)〟の終焉(しゅうえん)が近いことを示唆するものと考えられる。
08年9月のリーマンショック以降、わが国や欧米諸国、さらには中国などの新興国も積極的な金融緩和策で未曽有のマネーを供給してきた。潤沢なマネーの一部は、投資資金となって株式市場や原油などのコモディティー市場に流れ込んだ。多額の投資資金の流入で世界の主要株式市場はいずれも上昇し、「買うから上がる。上がるから買う」という一種のミニバブルが形成された。それと同時に、投資資金は原油などのコモディティー市場にも流れ込んだ。しかし、そうした〝宴〟は永久に続くことはない。
14年の年央以降、中国景気は、大規模な景気対策の効果が剝(はく)落し減速が鮮明化した。資源の大口需要者である中国経済の減速は、原油などのコモディティー価格を下落させ〝資源バブル〟を破裂させることになった。もう一つ見逃せないのは、FRBが昨年末に行った金利の引き上げだ。米国の金融政策の変更は、米国景気のみならず新興国を中心とした世界経済にもマイナスの効果を及ぼす。株価大幅下落は、世界経済がそうしたマイナス要因に耐えられないことを示している。
世界同時株安を増幅させたのは、中国景気の一段の減速懸念と中国政府の株式売買規制だ。中国政府は年初から、株価が一定割合以上、下落した場合、市場での取引を止める仕組み(サーキットブレーカー)を導入した。1月4日には早速、サーキットブレーカーが作動した。それをきっかけに大手投機筋が、一斉にわが国の株式市場で先物売りのオペレーションを仕掛けた。それが世界同時株安の引き金となった。原油などコモディティー価格の下落などによって、新興国経済に一段の下落余地が生じていることも株安を加速する要因となった。これまで注目されてきたBRICS諸国のブームが終わりを告げているということだ。
足元で世界経済を概括すると、なかなか明るい絵が描きにくい。中国政府が個人消費主体の経済構造への改革を標榜している以上、中国経済が短期的に盛り上がることは期待できない。中国政府が、緩やかに景気を軟着陸させることができるか否かが最大の焦点だ。仮に過剰債務問題が火を噴くようだと、ハードランディングの可能性を否定できない。
一方、欧米やわが国などの主要先進国の景気にも、当面、大きな期待を持つことは難しい。最も重要な米国の景気については、経済の川上である製造業部門に元気がない。昨年11、12月と二カ月連続で、製造業部門のPMI(購買担当者景気指数)は節目といわれる50を下回っている。今のところ、経済の川下に当たる個人消費は、労働・所得環境の改善を背景にそれなりにしっかりした展開を示しているが、今後、製造業部門でのレイオフなどが目立ってくると、個人消費にも影を落とすことも考えられる。
また、エネルギー関連企業の多い米国にとって、原油価格が不安定な動きをしていることも気になる。最近の相場展開を見ると、原油価格と米国株価指数の連動性が高い。原油価格が一段と下値を切り下げると、米国の株式市場も不安定な展開が続くだろう。
わが国経済に関しては、安倍政権の補正予算や夏の参院選挙に向けた景気対策も期待できる。また、日銀黒田総裁は予想外のマイナス金利の導入を発表した。ただ、早い時期に米国経済の減速が鮮明化すると、足を引っ張られるだろう。
今後の世界経済の行方を占う上で、鍵を握るのは何と言っても米国経済だ。中国経済の減速は避けられず、米国が世界を支えられるか否かがキーポイントになる。米国の減速に中国のハードランディングが重なると、世界経済が大きな下落の渦に巻き込まれる最悪のシナリオもあり得る。そのリスクシナリオも無視できない。