日本銀行は、1月29日、金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めた。2013年4月の量的・質的金融緩和、14年10月の追加緩和に続く、〝黒田バズーカ第3弾〟ともいえる。それほど思い切った政策だ。黒田東彦総裁とすれば、インパクトの強い金融緩和策を導入することで、デフレ脱却に向けた決意を示す意図があったのだろう。
マイナス金利政策とは、中央銀行が政策で定める金利(政策金利)を、ゼロ%を下回る水準に設定する金融政策だ。すでに、ユーロ圏、スイス、デンマーク、スウェーデンがマイナス金利政策を導入している。マイナス金利を導入すると、民間銀行が中央銀行に預ける預金(当座預金)に課される金利の受け取りと、支払いの関係が逆転。お金を預ける民間銀行が、中央銀行に対し金利を支払わなければならなくなる。日銀は、マイナス金利の効果を利用し銀行が企業への融資や有価証券(株式など)への投資を誘発することを狙った。それにより、株式や不動産などのリスク資産の価格を支えて消費者心理を改善し、デフレ脱却を目指している。
2月16日、日銀は3つの階層に分けてマイナス金利を適用した。3つの階層とは①0・1%部分(基礎残高=昨年末の日銀当座預金の平均残高、2月16日に約206兆円)、②ゼロ%部分(マクロ加算残高=貸出支援基金および被災地支援オペなど、2月16日に約24兆円)、③マイナス0・1%部分(政策金利残高=①、②の合計額を上回る部分、2月16日に約23兆円)だ。マイナス金利を適用する階層を分けることで、金融機関の収益に悪影響が出ないよう配慮した。すぐに個人の預金金利がマイナスになるわけではないが、マイナス金利の影響は軽視できない。国内の大手銀行も、金利の低下を受けて預金金利の引き下げを決定しはじめた。今後、年金や保険商品の想定利回りも引き下げられる恐れがある。
注目すべき点は、マイナス金利が銀行の主な収益源である国債利回りを低下させることだ。それは銀行の利子収入が減ることを意味する。経営体力のある大手銀行であれば、海外事業などの強化を通した収益源泉の分散を図ることも可能だろう。しかし、地方を地盤とする地銀などにとって、今後の収益基盤の強化は大きな課題だ。状況次第では銀行業界の再編が進む。そうなると、地方の中小企業の経営状況にもマイナスに作用することも考えられる。
重要なポイントは、マイナス金利政策の効果だ。金利水準の下落によって、債券市場から株式市場に投資資金が移動することなどが期待できる。それは株式市場にはプラスに働くはずだ。また、世界の金融市場が落ち着きを取り戻せば、円高傾向の歯止めに一定の期待できる。気掛かりな点は、日銀が短期的な効果を重視しているように見えることだ。13年4月、日銀は2年程度で2%の物価目標を達成するために〝量的・質的金融緩和〟を導入した。これは短期間での効果を目指した措置で、円安・株高傾向を加速する効果を示した。その後、14年10月末にも追加緩和を行い、株高傾向をつくり出すことには成功した。しかし、日銀の当初の目標である物価上昇にはつながらなかった。
その後、日銀は目標の達成時期を17年度前半ごろに延長したが、消費税率の再引き上げの影響を考えると目標の達成は容易ではない。日銀は、金融政策のみで経済を活性化し、デフレから脱却を図るには限界があることを認識したほうがよい。
マイナス金利を先に導入したECB(欧州中央銀行)の政策は、短期的に自国通貨の上昇を抑えることに一定の効果があった。しかし、その効果は長続きしなかった。むしろ、マイナス金利は不動産市場への資金流入など、〝バブル発生〟のリスクを高める。日銀は、必要に応じてマイナス金利を拡大する可能性を示唆している。だが、金融機関の収益悪化など景気にマイナスに働く恐れがあることを考えるべきだ。
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