このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方や留意点を解説します。今回は「一般取引関係」の「納期遅延の場合の損害賠償の範囲」についての相談事例をご紹介します。
契約内容、損害の程度、寄与度合いによる
Q.A社は、ゴルフ練習場の鉄塔補修工事を元請のB社から1000万円で請け負いました。工事完了が4日間遅れたところ、発注者であるゴルフ練習場を経営するC社から、工事遅れの損害の他に1週間分の損害を加算した請求があったとして、元請B社から支払代金は600万円に減額すると言われました。A社としては、減額に応じなければならないでしょうか。
A. A社の4日間の工事遅れ(納期遅延)が専らA社の責任の範囲内の理由によるものである場合、それによって元請B社が発注者C社への納期遅延を生じることになったとすれば、B社のC社に対する債務不履行(履行遅滞)に基づく損害賠償責任に応じてC社の主張する損害額をA社もB社に対して負担することになります。
「損害賠償の範囲」が問題とされますので、C社の主張している損害の内訳を吟味する必要があります。損害賠償の範囲については、相当因果関係にある「通常生ずべき損害」は賠償責任の対象であり、「特別の事情によって生じた損害」についても、その特別の事情について当事者が予見していたときや知らなかったことに過失がある場合には賠償すべきとされます(民法416条)。ただし、例えば、天災地変(予期できない地震や、台風などの自然災害)の発生など、その他A社の責に帰すべからざる事由により「工事遅れ」(納期遅延)が生じた場合は、A社の債務不履行(履行遅滞)の責任は否定されると解されます。
<留意点>
発注者C社に生じた損害が「通常生ずベき損害」と解される程度の内容であれば、B社のC社に対する「納期遅延」の履行遅滞に応じてA社も相応の賠償責任があります。また、C社がゴルフ練習場のオープン時期を想定し、その際のセレモニーの諸準備をして元請に「納期厳守」を申し入れていたような場合には、BC間の工期履行の約束は「定期行為」とも解されます。この場合は、C社の被った特別損害についても賠償の対象となります。「損害賠償の範囲」は、契約内容、損害の程度、寄与度合いなどにより判定が難しい部分があります。「下請かけこみ寺」での無料弁護士相談などを利用して、通常損害や特別損害のどれに該当するかをチェックをしてもらい、減額を主張されている額の当否を判断されると良いでしょう。
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