このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方および留意点を解説します。今回は「一般取引関係」の「自社の商品を無断で模倣・コピー(形態模倣・デッドコピー)」についての相談事例をご紹介します。
模倣品にはどのように対応する?
Q.A社は、アタッチメントを取り替えて幼児から高齢者まで諸種の髪質、髪形に対応できる特殊ブラシ「万能ブラシ」の製造・販売業者。同社の社員だったBは、このブラシの図面・製造データをコピーし、自らこの特殊ブラシと形状、色、材質、アタッチメントの内容と数も全く同じである商品を「万能対応ブラッシング」として発売しました。A社は、このブラシに対して、意匠などの登録は一切行っていません。Bに対して何か請求できないでしょうか。
A.A社は、このブラシについて意匠登録をしていれば、意匠法という法律に基づいてBに対してコピー商品を排除したり、損害賠償を請求したりすることができます。本件の場合は、何らの登録もしていなかったので、これができません。 このような場合、まずその商品の形がA社の商品であるとして消費者の間で広く認識されているような場合、つまり商品の形態と商品が結びついているような「著名商品」の場合には、それをコピーする行為は、消費者に商品の出所を誤解させたり、混同させたりすることになります。そのため、不正競争防止法2条1項1号により、「混同惹起(じゃっき)行為」である不正競争行為であるとしてBの販売を差し止め、損害賠償などを請求できる可能性があります。ただし、本件の場合は、そこまでこのブラシが世間に周知されているとはうかがえませんので、これに当たることは難しいでしょう。
次に、本件のような意匠登録もなく、商品の形態がそこまで世間に周知されていないような場合には、同法2条1項3号の「デッドコピー」の作成という違反にあたる可能性があります。
同法は、「他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものを除く)の形態を模倣した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのため展示し、輸出し、若しくは輸入する行為」を禁止しています。
「商品の形態」とは、「商品の形」「デザイン」のことをいいます。「模倣」とはいわゆる「デッドコピー」のことをいい、先行者の成果を完全に模倣して何らの改変を加えることのないことをいいます。実質的に同一性を失わない程度のわずかな改変を加えたにすぎない場合も「デッドコピー」に含まれます。
同法では、最初に販売された日から起算して3年以内に模倣する行為のみを規制の対象としていることも注意を要します。
以上のような同法の違反が認められると、違反行為・侵害行為の差し止めや、損害賠償請求(一般の損害賠償より被害者にとって立証が容易になります)の請求、違法な商品の廃棄、信用回復措置などが可能となります。
<留意点>
重要な商品であれば、まず事前に意匠登録など法律的な保護ができないかを検討することが必要でしょう。また、登録の有無に関係なく、日頃から自社のコピー商品の動向にも注意して、早急な対処ができるようにしておくことが大切です。
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