このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方や留意点を解説します。今回は「一般取引関係」の「相手先から分割払いの要望があった場合の対応方法」についての相談事例をご紹介します。
公正証書を作成
Q.A社は、B社からプリント基板の製造を継続的に受託していましたが、未払いの売掛金が累積で合計100万円を超えました。相手先B社は、資金の余裕がなく1回で支払うことはできないとのことで、月5万円ずつの分割払いを希望しています。これでは売掛金の完済まで1年以上の期間が掛かってしまいますが、売掛金の回収を保全する何か良い方法はありませんか。
A.請求通りに売掛金を支払う必要があることは認めているものの、B社に資金がない場合には、実際には支払いを延期したり分割払いにしたりする場合が多いと思います。しかし、単に期限を延期したり分割払いにしたりするだけでは、B社が約束通りに支払ってくれない場合に困ります。そのような場合に備え、公正証書を作成しておく方法があります。
公正証書は、公証人役場にいる公証人に作成してもらうことになりますが、この公正証書に強制執行認諾文言を付けてもらうとよいでしょう。強制執行認諾文言とは、約束通り売掛金が支払えない場合に、債務者である相手先(この場合はB社)がすぐに強制執行(相手の財産を強制的に換価して回収すること)に服する旨を陳述することをいいます。
つまり、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、相手先が約束通りに期限までに支払ってくれない場合や分割金を支払ってくれない場合には、裁判所の判決がなくても強制執行、すなわち相手先が所有している不動産を差し押さえて競売したり、相手方が有している売掛金や預金などを差し押さえたりして強制的にその支払いを受けることができます。
強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するためには、最寄りの公証人役場に、原則として債権者であるA社と債務者であるB社の双方が出頭することになります。公正証書の作成費用も掛かりますので、詳しくは最寄りの公証人役場にお問い合わせ下さい。なお、分割払いの交渉がうまくいかないときには、「下請かけこみ寺」で行っている裁判外紛争解決手続(ADR)を活用することもできます。
<留意点>
相手先からの支払いをより確実にするためには、公正証書を作成し、この公正証書に強制執行認諾文言を付けてもらうとよいでしょう。ただし、公正証書を作成すること、またこの公正証書に強制執行認諾文言を付けることは相手先の承諾が必要なため、相手先が支払いを約束しても公正証書の作成を嫌がる場合には困難でしょう。
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