わが国経済の好循環を実現するためには、「下請等中小企業」の取引条件を改善することが重要です。本コーナーでは、価格交渉力の強化に向けて、どのような取引行為が親事業者の法令違反に該当する恐れがあるのかなどについて解説します。初回はその背景をご紹介します。
下請事業者の取引条件改善に向けて
これまで、高品質で安全・安心な商品・サービスとして国際社会に信頼されてきた「日本ブランド」は、下請取引を受注する多くの中小企業・小規模事業者によって支えられてきました。この高い品質を維持するコストは、適正な形で社会によって負担される必要があり、品質に見合った適正な価格を支払うという取引慣行をわが国産業に定着させることが重要です。
他方、取引上優位な立場の親事業者が下請事業者に対して一方的に自社に有利な取引条件を強要することが存在していることもまた事実です。
国際競争が進展する中で、「日本ブランド」を守り、わが国産業が競争力を維持していくためには、親事業者が下請事業者にコストやリスクをしわ寄せするのではなく、当事者同士が相互に恩恵を受ける関係をつくり上げることが重要です。
こうした背景を基に、政府において平成27年12月に「下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省等連絡会議」(注:下請取引の条件改善のみならず最低賃金引き上げへの対応、生産性向上、長時間労働の是正、人手不足など、中小企業・小規模事業者が直面している諸課題の対応策を検討するため、29年8月に「中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」に改組)が設置され、取引条件の改善に向けた体制の整備が図られました。
この会議では、親事業者など大企業等、および下請事業者など中小企業の双方に対して取引の実態を把握するための調査を行い、その結果、さまざまな課題が確認されました。これを受けて中小企業庁および公正取引委員会は、この調査で明らかになった手形支払いや金型保管・管理などの取引慣行における課題の改善につなげるため、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の運用基準における違反事例の充実や、関係法令の運用強化を図りました。また、同庁では、下請等中小企業の価格交渉力強化を支援するための取り組みとして「価格交渉サポート事業」を創設し、下請等中小企業が親事業者の調達部門への見積もり提出や価格交渉を行う上で必要なノウハウの習得に向けた支援を行っています。
この事業は、全国中小企業取引振興協会が同庁より委託を受けて全国で展開している、下請取引の適正化を推進することを目的とした「下請かけこみ寺事業」の機能を拡充したものです。当協会内に「価格交渉サポート相談室」(TEL:0120‐735‐888)を開設し、同庁作成のハンドブックおよび事例集を基にしたセミナーの開催、個別企業への相談指導を実施し、価格交渉ノウハウの普及に努めています。
次回以降の本コーナーでは、下請等中小企業の取引条件改善に向けて参考にしていただくための、法令違反となる可能性がある取引事例などを連載形式で分かりやすく解説しますので、ぜひお役立てください。
提供
公益財団法人 全国中小企業取引振興協会(全取協・ぜんとりきょう) 下請取引適正化の推進を目的に、全国48カ所に設置された「下請かけこみ寺」を中小企業庁の委託により運営。(http://www.zenkyo.or.jp)
最新号を紙面で読める!