Q 民法(債権法)改正により法定利率が変更されるとのニュースを聞きました。そもそも、法定利率はどのような場合に適用されるのでしょうか。また、変更の内容はどのようなもので、企業経営には、どのような影響が予想されるのでしょうか。
A 法定利率は、①利息を支払う合意があり、利率に関する合意がない場合の利息の算定と、②約定利率の定めがない金銭債務の遅延損害金の算定に用いられます。原則年5%、商事債権は年6%とされていた法定利率は、今般の民法(債権法)改正により、その施行時に年3%に統一され、その後は市中金利の変動に合わせて3年ごとに見直されることとなります。
法定利率とは
法定利率は文字通り法律上定められた利率をいいます。適用場面は、主に①利息を支払う合意があり、利率に関する合意がない場合の利息の算定、②約定利率の定めがない金銭債務の遅延損害金の算定、の二つです。
具体的な法定利率は、民法404条で5%(民事法定利率)、商法514条で6%(商事法定利率)と定められており、商事法定利率は、商行為によって生じた債務に適用されます。民事・商事法定利率とも、民法・商法の制定以来、変更されたことはなく、今般の民法(債権法)改正で、初めてその利率の変更が行われるものです。
法定利率は3%に引き下げて統一以後は緩やかな変動制へ
まず、法定利率が3%に引き下げられます(新民法404条1・2項)。その上で、商法514条の削除により商事法定利率が廃止され、法定利率は3%に統一にされます。その後は3%に固定されることなく、法務省令で定めるところにより、3年を1期として、1期ごとに法定利率を変動させます(同条3項)。同条4項、5項に詳しい変動ルールが定められていますが、平易にいえば、銀行が新たに行った短期貸付けの平均利率の過去5年間の平均値を指標とし、1%以上の変動がある場合のみ法定利率を変更します。また、法定利率の変更は1%刻みで行うことになります(利率は整数になる)。
なお、利率は変動制となりますが、「一つの債権には一つの法定利率」の考え方がとられ、ある債権について、利息・遅延損害金の利率が途中で変動することはありません(新民法404条1項、419条1項)。
法定利率変更への対応
この法定利率の変更について、企業が対応すべきことは、まず、自社が今後有することになる売掛金や貸付金などの金銭債権について、利息および遅延損害金の利率をきちんと約定しておくことが必要です。利息や遅延損害金の利率に法定利率が適用されるのは当事者間の約定がない場合に限られ、新たな法定利率(当初3%)では利息や遅延損害金が不十分と考えられる場合には、適正と考えられる利率で合意しておくべきですし、契約書に盛り込んでおきましょう。
中間利息控除の利率変更の影響
また、やや特殊な場面ですが、逸失利益などの損害賠償の額を定める際の「中間利息控除」も法定利率で計算されます。この場合、法定利率が低下すると損害賠償額が増加する関係になります。
中間利息控除とは、不法行為などによる損害賠償において、損害の一つである逸失利益の現在価額を算定するにあたり、将来得たであろう収入(逸失利益)から運用益を控除(割り引いて計算)する手法です。将来の収入について、一定の利率で割り引いて現在価値を算出するわけです。
法定利率が3%に下がるので、結果として、死亡や後遺障害に対する損害賠償額は大きく膨らむことが見込まれます。損害保険についても保険料率を上昇させる圧力となり、企業経営上は、やがて保険料率が上昇することも織り込んでおくべきでしょう。 (弁護士・軽部 龍太郎)
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