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日本成長の切り札

松山 良一(まつやま りょういち)日本政府観光局(JNTO、独立行政法人国際観光振興機構)理事長 1949年鹿児島県生まれ。72年東京大学経済学部を卒業後、三井物産に入社。95年イタリア三井物産社長、2005年九州支社長、06年三井物産理事。08年駐ボツワナ日本国特命全権大使および南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表。11年から現職。

新年特別対談 松山良一日本政府観光局理事長×三村明夫会頭

「観光立国」を掲げ、成長戦略の柱にインバウンド(訪日外国人客)振興を据える日本。その旗振り役である日本政府観光局の松山良一理事長をゲストに迎え、三村明夫会頭と、観光振興の課題とあるべき将来像などについて語っていただいた。

訪日客目標 2030年に6000万人目指す 松山理事長

松山 世界全体の国際観光客の動きですが、2015年で約12億人に達しています(図1)。だいたい毎年3・4%伸びていまして、20年に13億人、30年に18億人となる見込みです。地域的なシェアでは、今までヨーロッパ中心だったのが、アジアの伸びが非常に顕著で、20年に25%以上、30年には30%がアジアになる見通しです。そして、観光産業は世界のGDPの約9%を占めていて、産業規模としても非常に大きい。日本ではGDPの5%で、拡大の余地があります。

最近話題の日本のインバウンドは、東日本大震災があった11年には620万人にまで落ち込んだのですが、13年に年間で1000万人を達成し、15年が2000万人弱、16年には10月までで2000万人を突破(図2)。非常に好調に推移しています。政府は20年に4000万人、30年に6000万人を目標としています。

旅行消費額を輸出産業の規模に当てはめると、20年に8兆円と化学産業を抜き、30年には自動車産業をも凌駕(りょうが)する数値が目標とされています。インバウンドはわが国の一大産業となります。

そして、日本のブランドイメージはものすごく良いのですが外国人観光客数は、まだアジアでも5番目、世界でも16番目ということで、そこに大きなギャップがある(図3)。日本は「いつかは行きたい国」ですが、「今行きたい国」になっていない。そこをいかに埋めるかというのが、われわれの大きなミッションだと思います。

インバウンドが伸びているといっても、日本全体の観光客数に占める割合は、まだ10%にとどまっています。ところがフランスでは約3分の1。隣の韓国では半分が外国人、つまり外需です。日本の場合は内需(日本人客)が圧倒的。さらに地域によっては外国人客はたった1%です。つまり、これまで日本中で、「外国人いらっしゃい」ということを、積極的にやってこなかったというのが現状です。

三村 まだまだいくらでも伸びるということですね。

松山 伸びしろはものすごく大きい。外国人客を増やす方法として、一つ目は地方にいかに誘客するかということ。地方には魅力的な観光地がたくさんあるので、きちんと磨き上げてデータに基づくマーケティング戦略を推進し、誘客する。わが地域の魅力はこれだと絞り、広域観光周遊ルートなどを打ち出すべきだと思います。例えばドイツのロマンティック街道のように広域連携すべきです。今は全国で観光地を中心に11のブロックレベルの広域観光ルートを決め、それを磨き上げてアピールしています。

まず地方でやることはDMO(観光地域経営組織)づくり。現在110カ所ほどありますが、もう少し活力ある形でやらなければいけない。顧客に対して広域エリアをどうやってアピールするか、戦略が課題です。瀬戸内海、南信州、山陰、東北海道などうまくいっているところも多い。そういった成功事例を学び、お知らせしようと思っています。

そして2番目が、観光産業の強化。規模は大きいですが、収益性や労働生産性が低い。観光産業自体を基幹産業として、日本を背負って立つというところまで育てなければいけないと思います。

3番目が、来ていただいた方々に満足して過ごしていただくこと。そのためには、外国語案内の充実やWi-Fiなど通信環境や設備をきちんと整備するなど、満足して再び来ていただく仕組みを作らなくてはなりません。

東京オリンピック・パラリンピック 大きなチャンス 松山理事長

松山 2020年の東京オリンピック・パラリンピックは大きなチャンスです。日本からの情報発信の強化によりインバウンドの拡大や日本に対する理解促進の絶好の機会となります。さらに前年の19年にラグビーワールドカップがあって、21年には関西地域で参加人数が2万5000人規模のワールドマスターズゲームズという大会があります。

国際会議やイベントなどももっと誘致しなければなりません。1990年代は、アジアで国際会議といえば、ほぼ半分は日本で開催していました。ところが最近はシンガポールや上海での開催が増えてきて、日本での開催は4分の1に激減してしまいました。

次に富裕層の呼び込みも一つの柱と考えています。彼らは長期に滞在して、日本文化などに大きな関心を持っています。例えば「ナイトライフ」。日本の場合はゆっくり夕食をとった後に行くところ、ニューヨークのブロードウェイのような魅力的なアミューズメントが少ない。食後に楽しめるような設備をつくらなくてはいけない。

そして、一番大きいのは、意識改革。「観光は基幹産業」、観光業者や地域住民の方々も、「もう少し外国人を受け入れましょう」という意識改革です。

日本人は「おもてなし」精神があり、基本的には非常に優しいのですが、外国人を見ると、逃げたり目をそらしたりするのです。そうすると、「われわれはあまり歓迎されていないのでは」という印象を持たれてしまいます。

三村 東京商工会議所では「声かけ・サポート運動」を始めました。街なかなどさまざまな場面で困っている方や手助けが必要な方に「声かけ」をすることで、誰もが安心・安全・快適な地域社会を目指しています。

松山 素晴らしい取り組みだと思います。とにかく笑顔で声を掛けることです。例えば飛騨高山では、小学生が外国人観光客に気軽に英語であいさつしている光景が見られます。こういうことを国民運動としてやらなければいけない。国を開くという意識改革は、一番大事だと思っています。

新規参入も大切です。例えばお寺では、参拝客が来ることでお土産などのニーズが生まれ、そして門前町ができます。インバウンドも同様に、旅行者が来ることでサービスへのニーズが高まり、それがビジネスチャンスになるのです。いかに観光産業の裾野を広げるか。商工会議所のメンバーで、今まで観光と関係がなかった方々にもぜひ、手伝っていただきたい。

さらに、観光産業の労働生産性の向上は非常に大きな課題だと思っています。効率性の高い製造業などからノウハウを学ぶ必要があります。さらに農業とも連携し、観光産業の強化を図りたいと思っています。