日商 Assist Biz

更新

インバウンドと国内観光振興に地方創生の視点を 「国民運動」展開求める 日商、政府に意見書提出

日本商工会議所はこのほど、政府の「観光ビジョン構想会議」が3月末にも策定する「新観光ビジョン」に向け、インバウンドと国内旅行を車の両輪に「国民観光運動」を展開することなどを盛り込んだ意見書を取りまとめた。意見書では、数値目標の設定や規制緩和などの具体策を提示。地方創生の視点でのビジョン策定を求めている。

今後の観光振興策に関する意見~「新たな観光ビジョン」策定への期待~

Ⅰ.基本的考え方(略)

Ⅱ.現状認識(略)

Ⅲ.今後の重点的な観光施策の展開

1インバウンドの課題と対応

近年のインバウンドの増加は、円安、アジア中間層の増加と、日本への関心の高まりとともに、訪日ビザ発給要件の緩和や免税店の拡大など、政府の取り組みによるところが大きい。しかし、円安などの外部要因は一時的な可能性もあり、インバウンドの受け入れを強化するためのさまざまな課題について、国と地方、官民を挙げた積極的かつ早急な取り組みが必要である。

⑴特定都市・地域に集中するインバウンドの各地への分散

観光を地方創生につなげていくためには、特定都市に偏在する外国人旅行者を、全国各地に分散・拡大していくことが必要である。震災復興の観点からは、風評被害などの影響でインバウンドの増加率が低調な東北地方への誘客を一層強化することも求められる。

各地への旅行者の分散のためには、地方における外国人旅行者の受け入れ体制づくりと地方の魅力を発信することが何よりも重要である。訪日外国人旅行者の認知度が高い観光地は、東京、富士山、大阪、北海道、京都などに限られている。地域をより多くの外国人に知ってもらうためには、地方自治体などが比較的低コストで地域情報を発信できるローカルメディアやインターネットをはじめ、あらゆる媒体を積極的に活用して、地域の観光情報の発信を強化していくことが期待される。

また、全国に97ある空港の積極的な活用も必要である。外国人旅行者が地方空港を利用して各地に直接降り立つことができれば、新たな観光機会、ニーズが生まれる。インバウンド増加に取り組む地方空港に対し、着陸料軽減制度を適用すべきである。

そして、海上からの日本へのアプローチであるクルーズ船については、今後も地方港への寄港の増加が見込まれている。外国人旅行者の地域滞在時間を十分に確保し、各地での観光を楽しんでいただくために、海運会社、自治体および関係省庁が協力してCIQの手続きの一層のスピードアップや、旅行者に対応した港湾施設の整備などに取り組むことが必要である。

こうした取り組みについては、地方創生に係る新型交付金の積極的な活用が期待される。

⑵「交流拠点都市」の構築による観光ネットワークの確立

日本商工会議所が昨年5月に取りまとめた提言「国と地域の再生に向けた観光振興について」では、全国各地域への旅行者の分散・拡大のための方策として、「交流拠点都市」の構築を提案した。「交流拠点都市」は、地方空港や高速道路、高速鉄道などの交通インフラ、優れた観光資源を有し、地域鉄道やバス、タクシーなどの二次交通(地域公共交通)が整備されていて、海外と双方向の送客システムの構築が見込まれる都市を想定している。地域観光の新たな支点として、周辺地域を含めた観光圏の構築を推進していくことを目的としている。

政府は、昨年認定した7つの広域観光周遊ルートや観光立国ショーケースとして選定した3都市(北海道釧路市、石川県金沢市、長崎県長崎市)において、早期に「交流拠点都市」を指定するべきである。

⑶国際情勢などに左右されない多様な訪日外国人旅行者の受け入れ拡大と安定的確保

2015年の訪日外国人旅行者の71・9%が、東アジア〔中国(499万人)、韓国(400万人)、台湾(368万人)、香港(152万人)〕からの旅行者で占められている。また、同年の外国人旅行消費額も72・1%(2兆5016億円)が東アジアの旅行者によるものである。

こうした特定地域に依存した誘客は、経済・社会情勢により、大きな変動が生じる可能性を有しており、安定的な訪日外国人旅行者数と旅行消費額を確保するためには、東アジアだけに頼らない、欧米など多様な国からの誘客を、戦略的に進めていく必要がある。政府は、国ごとのニーズやトレンドをマーケティングし、地域や民間はそのニーズに対応した商品・サービスを開発することが求められる。

特に観光先進国である欧米からの誘客は、長期滞在型旅行商品の開発や文化資源の活用促進など、日本の観光産業のイノベーションに資するものとして期待される。

⑷受け入れ体制強化に向けた民間、地方自治体、政府の役割の明確化

地域が自ら魅力ある観光資源開発を行い、受け入れ環境整備を進め、他地域などとの連携による魅力の多様化や広域・周遊化を図り、効果的・継続的な情報発信を行うことが必要である。

また、海外での誘致プロモーションなど、民間や地域の努力のみでは限界があることについては、国による支援が求められるなど、国、地域、民間がそれぞれの観光振興の取り組みを加速していくことが必要である。なお、旅行消費額のさらなる増加に向け、国が主体となった大型MICEの誘致や、日本企業が実施するMI(会議、インセンティブ旅行など)などにより、誘客を図っていくことも重要である。

2国内観光の課題と対応

国内観光の長期的な減少は、20年に及ぶデフレ経済や円高による日本人の海外旅行の増加、東日本大震災など外的要因によるところが大きいが、日本人の余暇の過ごし方に関する選択肢の多様化、団体旅行から個人旅行へのトレンドの変化、地域の観光産業におけるニーズへの対応の遅れなども要因としてあげられる。

国内観光を推進するためには、それぞれの地域の資源を生かした魅力ある観光プログラムやルートの開発、商品化、効果的な情報発信などを継続的に実施する必要がある。また、グリーンツーリズム、スポーツツーリズム、医療ツーリズムなど、見る観光から体験する観光へのシフトに対応した新たな観光開発、プロモーションの動きも一部の地域で生まれている。

また、国内観光においては、季節的・時期的な需要格差が激しく、それが観光産業の安定雇用や生産性向上の大きな阻害要因となっている。こうした問題の解決に向けて、国を挙げて休暇取得キャンペーンを実施するなど、官民一体となって観光需要の平準化に向けた取り組みを推進していく必要がある。

さらに、地域別の観光客数、宿泊施設の客室数や空港容量、交通手段、通信環境など、正確な基礎データの整備が不可欠である。政府は、こうした観光統計を早急に整備し一元的に提供することで、各自治体の実効性ある計画の策定、施策の実施を支援していくことが求められる。

なお、観光産業においては、泊食分離や電子決済の導入、IoTの活用、接客などのためのサービス向上などにより、これまでの商習慣の改善や経営改革、生産性の向上に努めるとともに、雇用の安定、労働環境の改善を図っていく必要がある。また、国、自治体は、こうしたイノベーションに取り組む、観光関連の中小・ベンチャー企業への支援を行うことが必要である。

3その他今後検討が必要な課題

⑴地域の魅力創造に向けたさらなる規制緩和

観光にとって魅力的な資源となる歴史的建造物や史跡、古民家、さらには、河川・港湾など、全国各地域には多くの未活用観光資源があるが、関連法制の煩雑な手続きや縦割り行政により、その活用が進まない。文化財保護法や河川法などのさらなる規制緩和や、地方自治体内の文化財にかかる部局と観光にかかる部局との連携強化などにより、さまざまな地域資源を観光振興につなげていくことが必要である。

【具体的な項目】

・河川・港湾など、水辺の活用を進めるための民間利用の促進と占有許可期間の延長

・特別史跡や歴史的建造物などの歴史・文化資源、古民家、町家などの宿泊施設やレストラン、オフィスなどへの活用促進

・郷土の祭りなどの無形文化、食文化などの保存・継承支援

⑵安全安心の確保などを前提とした新たな観光ニーズへの対応のための法制度の整備

政府は、訪日外国人旅行者の急増などにより浮かび上がったグローバル化に対応した観光産業の在り方について、既存の法制度では対応しきれていない問題を整理し、抜本的な見直しを図る必要がある。

その際、安全安心、清潔など、日本が保持し続けている公共価値や公正な競争環境が損なわれることがないよう、十分な配慮が必要である。

各地域が地元の観光資源情報を積極的に発信し、ランドオペレーターを活用して地域に外国人旅行者を誘導することも有効である。他方、旅行業の登録を行っていないランドオペレーターが宿泊施設、バスなどの各種手配を行っていることなどからさまざまな問題が生じており、政府はその解決に取り組むことが必要である。

【具体的な項目】

・優良ランドオペレーターの登録制度の導入

・地域限定旅行業の参入を促す旅行業法の登録制度の弾力化

・多様な観光ニーズに対応した宿泊施設の整備の促進に向けた旅館業法、建築基準法における構造・設備基準の見直し、民泊に関する法制度の整備

・安全性を前提としたバス、タクシー事業者の再生と新規参入に対するルールづくり

⑶地域における観光マネジメントの推進と二次交通・宿泊施設など観光インフラ整備の促進

地域においては、観光産業を育成していくために、交通、宿泊、観光施設、災害対策といった観光関連情報を一元的に収集・管理し、提供する体制を構築する必要がある。それにより、インターネットなどを活用した地域の観光情報の発信をはじめ、旅行者の受け入れ環境整備、観光商品・サービスの開発・改善、販路開拓、マーケティングなど、地域で実効性のある観光マネジメントを推進することができる。

地域の観光マネジメント推進のためにも、地域の主体的な取り組みと関係府省庁で構成される連携支援チームの支援などにより、日本版DMO(Destination Management Marketing Organization)が有効に機能することが期待される。

また、地域において観光振興を図るには、観光資源へのアクセスの改善や周辺地域との連携構築の観点から、二次交通(地域公共交通)や宿泊施設などの観光インフラ整備を促進することが必要であり、国による支援の拡充が望まれる。

⑷関係府省庁の垣根を越えた推進体制の構築・強化

観光庁は、農業、文化、スポーツ、医療など、ニューツーリズムの推進に向けて、観光と密接な関係にある関係府省庁とのさらなる連携の強化が必要である。

また、内閣官房と連携して観光振興策の総合調整を進め、新たな観光ビジョンにおけるKPIを設定して、施策の推進状況の見える化を図るなど、積極的な取り組みを推進することが望まれる。

そして、政府は、地域が財政制約の厳しい中で自らビジョンを打ち出し、効果的な観光振興の取り組みを進められるよう、ワンストップの相談・情報提供体制の構築を進められたい。

(2月18日)