日本商工会議所の三村明夫会頭が会長を務める政府の有識者会合「選択する未来」委員会はこのほど、人口急減・超高齢化を克服し、日本発「成長・発展モデル」の構築を目指す「未来への選択」と題した最終報告書を取りまとめた。報告書のメッセージは極めてシンプル。「現状のまま何もしない場合、極めて厳しく困難な未来が待ち受けている。しかし、未来は選択できる。未来への選択は、いつか将来に行われるものではなく、今の明確な選択が未来を変えることができる」というものだ。人口を1億人程度で安定化させ、50年後も経済成長を持続させるための数値的な目安や時間軸も示した。さらに、「デフレ脱却を射程に入れつつある今のタイミングこそ、人口・経済・地域社会の課題に一体的に取り組み、その相乗効果を生み出すことにより歯車の好転を図るべき」と提言している。特集では、報告書のうち、特に委員会が示した具体的な15の先導的な取り組み提案と主な政策の方向性のポイントにスポットを当て、2020年までに「ジャンプ・スタート」するために着手すべき問題などを中心に紹介する。
15の先導的な取り組み提案
いまやれていないことに大胆に着手して、改革・変革にモメンタムを付けること、また、身近に感じられて人々の理解や参加のすそ野が広がるような取り組みを進めることが重要である。
そうした観点から、以下、いくつかの具体的な取り組み提案をあげる。
(1)人口‐やれること、やるべきことはたくさんある
①少子化対策(2020年に倍増)
これまでの少子化対策は就労に際しての子育て支援に集中しているが、結婚、出産に係る支援や子どもを産み育てたくなるような環境整備など、取り組むべき課題は多岐にわたっており、少子化対策の倍増に踏み出しながら、できるかぎりの取り組みを進めるべきである。
②地域の実情に応じた対応強化
地域それぞれの実情に応じたきめ細やかな対応が望まれる。小さな町村、中規模な地方都市、大都市、東京圏など、地域によって抱えている課題は異なっている。また、実情に応じた努力をしている地域では、成果につながる地域も出てきている。
地域の実情に応じた対応強化を図るため、2015年度以降に向けて国の支援を充実する、地域における自治体、民間団体などの連携協力などの取り組みが必要である。
③妊娠、出産に関する知識普及
妊娠、出産に関する科学的知見への理解浸透が重要である。
知識、理解の不足がライフプランニング上の適切な判断を損なっている可能性があり、教育やさまざまな場を通じて理解浸透を図る。不妊治療のための休暇取得が許容されるくらいの理解浸透が望まれる。
結婚、就労、出産、子育てなどの選択に伴って生涯収支にどのような影響が生じるかといった情報提示に取り組む。
④企業による子育て支援、若者支援の促進
2015年4月の改正次世代育成支援対策推進法施行を踏まえた企業の行動計画などの中で、若者支援、結婚・出産支援、子育て支援、ワーク・ライフ・バランスにおける優良な取り組みが積極的に位置付けられ、それら取り組みの見える化が進められる必要がある。
⑤教育への社会的支援
乳幼児期の後につながる支援として、教育への支援を位置付けることが重要である。
例えば、政府支出による支援以外にも、2015年末に終了する教育関連贈与の非課税措置の延長・拡充など、高齢世代から子ども・孫世代への資産の移転を促していくことも側面支援として考慮されるべきである。
(2)経済‐多様さを育て、異能・異才も受け入れ、活かす
一人ひとりの個性と能力がもっと多様なかたちで活かされるよう、働き方改革などを進めていくことが重要である。
ユニークな個性を大事にする。若者、女性、高齢者の活躍の場を職種、業種などの偏りを改善しながら促進する。地域社会に働く場を創出し、人の交流を促進する。
研究開発やビジネス化の最先端の場でも、多様な個性と能力を尊重する視点がもっと強調されるべきである。多様さを育て、異能・異才も受け入れ、活かすことが、イノベーションの創出につながる。
多種多様な草の根のイノベーションこそが成長力の源泉となる。
⑥学びの機会の多様化
基盤となるのは人材育成。公的教育に限らずに学びの機会の多様化、選択肢を増す取り組みや、家庭の状況にかかわらず教育が受けられる支援などが必要である。
⑦異能、異才の発掘、育成
多様な個性を尊重する。そのなかで、異能、異才を見出し、育てるような視点からの取り組みを推進する。
⑧個性的な研究開発やビジネス化の促進
大学発ベンチャーや産学官連携などにおいて、個性的な研究者、開発者がもっと報われ、インセンティブが湧くようなルール、慣行へと変えていくという視点が重要である。
⑨女性、高齢者の活躍促進
女性の活躍を量的に増やすだけでなく、活躍の領域を拡大する。プロダクト・イノベーションにもっと女性の視点を取り込んでいく。女性の就労拡大を抑制する効果をもたらしている制度や慣行などは積極的に見直していく。
高齢者については、働きたい希望年齢まで働ける環境整備が先ず重要である。高齢者と子どもがふれあい、交流する場の拡大や、また、高齢者が伸び伸びと活躍できるよう、個人年金的な仕組み作り、資産活用の選択肢の拡充や、自助・共助・公助のあり方の見直しなどの取り組みを幅広く推進する。
(3)地域社会‐新しい地域のあり方を目指して
従来の地域活性化ではない、新しいコンセプトで取り組みを推進することが重要である。
地域のなかに成長・発展の種を見出して、内発的で持続性があり、外部と交流し、外部の良さを取り込みながら発展していくモデルの構築が目指されるべきである。
若者、女性が活躍でき、子どもを産み育てやすく、壮年層や高齢世代の理解や協力があって、外部の新しい視点も取り入れながら、地域の活力を生み出していく。
⑩従来の姿にこだわらない取り組み推進(集約・活性化、東京圏の少子化対策、介護政策)
現状にこだわっていると行き詰まる可能性が高いと認識すべき。従来の街の在り方を見直して、思い切って集約・活性化に取り組む。多層的に外部との連携、協働に取り組む。
コンパクトシティの形成や地域間連携のためのネットワークなど支援策の拡充、公的資産のマネジメント、地域おこしのノウハウや知見の共有・展開、地域経済の中核を担う中堅企業などの活躍などを積極的に推進する必要がある。
また、東京圏においても、少子化対策や介護政策などにおいて思い切った取り組みが求められる。
⑪「新しい絆」を起点とした取り組み推進
地域社会には、ビジネスを通じて地域の発展に貢献できる事業の種がたくさんある。
そうした種を大きく育てるには、地域金融や寄付などによる社会的投資などを通じた資金循環の構築や、営利・非営利を越えた法人、事業の在り方の検討が必要である。これらの取り組みは、一言でいえば、「新しい絆」の創出である。
⑫ICTを利活用したブレイクスルー
ICTは、地理的な不利を解消する有力な手段である。地方には良いものがあっても、売り方が分からない、紹介できづらいなどがボトルネックとなっている。しかし、ICTを上手く利活用すれば、コストをかけないで効果的に外部とつながり外部を取り込むことも可能である。
(4)政策の検証や評価
人口、経済、地域社会を巡る課題に対する取り組みを着実に継続し、進化させていくためには、政策の検証や評価が重要になる。
⑬人口急減・超高齢化の克服の効果を定量的に提示
人口構造が安定的なものになる場合や、成長力の強化が実現する場合のマクロ経済などへのプラス効果や、遅延する場合のマイナス効果を定量的に提示することによって、政策を進める費用対効果の目安を得ることができ、また、取り組みの必要性に対する理解浸透を図ることができる。
⑭少子化対策の評価
少子化対策に即効性を期待することは難しい。それだけに、粘り強い取り組みを推進できるよう、慎重かつ能動的に検証、評価していくことが重要である。地域において合意が得られる場合には、人口の自然増減数や社会増減数の動向に照らして検証、評価する取り組みも望まれる。
⑮地域の資金循環の定量的な提示
内発的で持続的な地域経済を実現するためには、地域内の資金循環および地域外との資金の流出入を定量的に把握、分析して対応を検討することが重要である。そうした取り組みは先進的な地域で出てきており、普及拡大に取り組むべきである。
主な政策の方向性のポイント
経済、産業、金融、国土、地域、雇用、教育、人材育成、福祉などに係る主な政策や関連する取り組みが、望ましい未来像を共有して同じ方向性を指向すれば、相乗効果が生み出される。
1.成長と発展の持続する経済社会へ
【ポイント】
・人口動態は、経済の成長力を決定する3要素(労働投入、資本蓄積、生産性(TFP))全てに影響を与える。そうした観点からも、人口を1億人程度で安定化させることが重要。
・人口規模の安定化の経済への押上げ効果が現われるまでには時間がかかるため、イノベーションにより生産性を飛躍的に向上させるジャンプ・スタートが必要。
・企業の付加価値創造力の強化、ビジネスの「新陳代謝・若返り」、グローバル化への対応により、生産性(TFP)上昇率を世界トップレベルに引き上げ、さらに、世界に誇れる「日本ブランド」を構築することで世界をリードする国を目指す。
2.地域の疲弊、衰退を緩和、反転させる
【ポイント】
・東京一極集中に歯止めをかけるとともに、東京と地方が相互に支え合いつつ、それぞれが持続的発展を遂げ、長期的な成長を担っていく。
・地域の主体性と「創意」・「人材」を活かしつつ、「個性を活かした地域戦略」を推進することが重要。地域の置かれた状況は多様であり、それぞれの地域の持つ独自の個性を活かせるような「選択と集中」による地域づくりを行う。
・地域の再生のためには、生活の利便性を高めながら経済活動の活性化を図る「集約・活性化」に向けた取り組みが求められる。
・その際、「所有から利用」への転換、ファシリティ・マネジメントの考え方を導入する。
・「新しい絆」によるネットワークを形成。関係者がビジョンを共有し、地域への愛着と誇りを持って、持続可能な循環型の地域社会を形成していく。
3.「人」を育て、愛しみ、多様さを伸ばし、活躍を実現する
【ポイント】
・変化の中で、経済社会全体が活力を増し、未来に向けた持続的発展を実現するためには、一人ひとりの「人」の力が不可欠。
・若者、女性、高齢者など全ての人が、それぞれその能力を最大限発揮し、活躍することで生産性を高めていくことが必要。多様な人々の「草の根の知識」が土壌となってイノベーションを生み出していく。
・「人」を大切にしていくことは、安心して子どもを産み育てられる環境の実現にもつながる。それは、人口急減・超高齢化の克服にもつながり、人口規模の維持がさらなるイノベーションの創出につながることで、持続的な成長・発展にも寄与していく。
最新号を紙面で読める!