地方創生に向けた「第5期科学技術基本計画」のあり方に関する7つの提言(抜粋) 日本商工会議所
日本商工会議所(三村明夫会頭)は15日、中小企業と地域発のものづくり立国の推進を目指す計画となることなどを求める「地方創生に向けた『第5期科学技術基本計画』のあり方に関する7つの提言」を決議した。提言は、政府の総合科学技術・イノベーション会議に提出し、実現を働き掛ける。特集では、提言の概要を紹介する。(1面参照)
Ⅰ 中小・中堅企業の活力強化
提言1 中小・中堅企業の活力強化に焦点を当てた科学技術予算の確保
①政府の研究開発投資対GDP比1%(5年総額約26兆円)の確保と政府負担研究費割合をドイツ並みの3割へ引き上げ
科学技術・イノベーションの進化には、産業に直結しにくい基礎的な研究開発であっても、大学や公的研究機関などにおいて、取り組みを継続・強化することが不可欠である。民間ではリスクテイクしにくい研究開発については、産業競争力強化につながる骨太な国家プロジェクトを目標として用意し、官民挙げた投資により新たな技術や事業を創出していく仕組みが必要である。
また、アジアをはじめとする諸外国が科学技術・イノベーション政策を推進しつつある中で、わが国の政府予算および研究費の負担割合は諸外国と比べ低い水準であり劣後している。(グラフ1、2参照)
このため、官民合わせた研究開発投資4%の呼び水となる、政府研究開発投資対GDP比1%(第5期計画期間中の政府研究開発投資総額約26兆円)を確保すること、および、わが国の政府負担研究費割合をドイツ並みの3割へ引き上げることを、投資目標として基本計画に盛り込むべきである。
②「中小・中堅企業の活力強化による『地方創生』とイノベーションの推進」を基本計画の柱に立て、十分な予算を確保
中小企業は、日本の企業数の99・7%を占め、約5割の付加価値額を創造している。また中小企業は、日本全体の雇用の7割を抱えている。
特に地方圏において、中小企業の雇用が8割を占めるなど大きな吸収源となっている。さらに、地方圏のGDPが日本全体の約7割を占めている。
「人口急減」「地方の疲弊」という課題を克服し、「地方創生」を実現するためには、地方圏で活躍する中小・中堅企業が取り組む技術開発や成長分野への挑戦を、政府が強力に後押しすることが必要である。
このため、「中小・中堅企業の活力強化による『地方創生』とイノベーションの推進」を基本計画の柱に立て、十分な予算を確保すべきである。
提言2 中小・中堅企業の活力強化に焦点を当てた科学技術予算の執行
①地域経済をけん引する中小・中堅企業への投資増と中小・中堅企業向け予算枠の設定
わが国の中小・中堅企業のなかには、(ア)優れた技術を生かし、大企業に世界最高水準の部品・素材を供給するサポーティングインダストリーや、(イ)域外から需要を獲得し、地域における取引を通じて多くの企業とその従業員や家族を支え、新たな雇用を生む中核企業(コネクターハブ企業)、また、(ウ)高度な技術で世界に挑戦して高いシェアを獲得し、わが国が国経済のけん引役となっている「グローバルニッチトップ(GNT)企業」などが数多くある。
わが国の潜在成長率を引き上げ、地域経済を活性化するためには、こうした中小・中堅企業が取り組む高付加価値化・生産性向上のための技術開発、新たな製品・サービスの開発、成長分野への進出などへの後押しが必要である。とりわけ、ドイツにおける「インダストリー4・0」などの動きを踏まえ、IoT・ビッグデータの活用による「ビジネスモデルの変革」などに対応することが必要である。しかしながら、政府の研究開発予算は、大半が大学や公的研究機関などへ支出され、こうした企業には回っていない。
このため、政府の研究開発予算について、高付加価値化・生産性向上に資する中小・中堅企業向け予算を増加させるとともに、例えば、SIPやImPACTに中小・中堅企業向けの小口の予算枠を設け、自由なテーマ設定を認めるなど、使いやすい制度に改善すべきである。
②ロボット技術開発の加速と農業・介護分野などへの活用促進
労働力不足が深刻化し、また、円安の定着に伴い国内の生産拠点を活用する動きが出始めている中で、ロボット技術の導入は、省力化、生産性向上に極めて有効な手段である。
このため、ロボット革命イニシアティブ協議会の場などを活用して、先端的なロボット技術の研究開発・投資を加速するとともに、農作業ロボット、介護ロボットなど、構造的・社会的課題の解決に資する分野への活用を促進すべきである。
③補助事業の公募期間の十分な確保、申請手続きの簡素化、支援策の普及・PR強化
企業向けの公的補助事業は、技術開発、新製品・サービス開発、新分野進出を行うきっかけとなり、極めて有効であるが、公募期間が短く、申請手続きが煩雑なこともあり、申請機会を逃す事業者も多い。また、周知不足との指摘もある。
このため、より多くの事業者が申請を行えるよう、補助事業の十分な公募期間の確保と、申請手続きのさらなる簡素化を図るべきである。また、国の中小企業向けポータルサイト「ミラサポ」に構築された「施策マップ」の活用促進を図るなど、中小・中堅企業向け支援策の普及・PRを強化すべきである。さらに、生産性向上やイノベーションの成功事例を収集・発信し、全国に横展開すべきである。
Ⅱ 地域の活性化
提言3 〝地元主導〟の「地方創生クラスター(仮称)」形成への後押し
(中略)地域の企業、大学、金融機関、自治体、研究機関などが連携して新事業や新産業を創出し、雇用を生み出す、〝地元主導〟の「地方創生クラスター(仮称)」の形成を、それぞれの地域事情に応じた支援策で後押しすべきである。
①地域に不足するプロジェクトマネージャーの発掘・育成・マッチング
地方創生クラスターの形成のためには、専門分野について深い知見を持ち、地域の中小・中堅企業が必要とするニーズや保有する技術を把握し、技術を必要とする中小・中堅企業への技術の橋渡しから市場動向を踏まえた商品化と販路開拓までを、長期にわたって伴走して支援するプロジェクトマネージャーの存在が欠かせない。
このため、地域に不足するプロジェクトマネージャーを発掘・育成し、適切にマッチングする仕組みを構築することが必要である。
②大学や大企業などが保有する特許などの有効活用
大学や大企業などにおいて研究成果である国内特許などの多くが埋もれたままとなっている。
このため、大学や大企業などが、未活用の特許などを地域の中小・中堅企業が有効活用するように促し、それで生じた利益を大学や大企業などが、さらなる研究開発に再投資するような好循環の仕組みを構築すべきである。
例えば、保有する特許などを一定期間無料開放する、国立大学法人山口大学の取り組みを全国展開することなどが考えられる。
③希望する地域への国立研究機関などの移転
先般、国は各都道府県に対し、中央省庁や国立研究機関などの誘致希望を募った。
地方創生クラスターの形成のためには、多くの技術シーズを持つ国立研究機関などと近接して事業化を図ることが効率的であるため、希望する地域への国立研究機関などの移転を検討すべきである。
提言4 地域のものづくり産業を支え次代を担う人材の育成・確保(中略)
①初等教育における理科教育の強化
自然や科学に興味がある高校生の割合は、日米中韓の4カ国の中で日本が最も低い水準。若者の理科離れが深刻化しているが、1992年から始まった現行の「小学校学習指導要領」で、「理科」が小学3年からとなっていることが一因との指摘がある。このため、初等教育における理科教育を強化し、将来の理工系人材の芽を育てるべきである。
②初等教育~高等教育における地域産業の理解を深め、職業観・就業観を醸成するためのキャリア教育の充実
若者は、地域の企業や産業の魅力を知らないままに、大学進学などをきっかけに大都市圏に流出し、地元に就職しない傾向がある。
このため、初等教育~高等教育において、教育機関と地域社会や産業界が連携して、職業体験やインターンシップなどの体験活動や教育現場へ社会人講師を派遣するなど、社会の仕組みや地域産業の理解を深め、職業観・就業観を醸成するためのキャリア教育を充実すべきである。
③ものづくり分野において働きたいと思う女性の活躍促進
現在、日本の女性の就業率は69・5%と、8割近い西欧諸国に比べ低水準にある。しかし、女性の潜在的就業率は8割を超え、そのうち、約13%(200万人)がさまざまな制約の下、働きたくても働けない状況にある。
このため、特に労働力不足が深刻なものづくり分野での女性の活躍促進を打ち出すとともに、働きたい女性の意志と能力、キャリアが生涯を通じて尊重される社会の構築と就労環境の整備を進めるべきである。
Ⅲ 規制・制度改革などの推進
提言5 経済を成長させる大胆な規制・制度改革、税制改革
規制・制度改革をスピーディーかつ強力に推進するとともに、中小企業基本法の中小企業の範囲を念頭に、税法の基準を見通す必要がある。
①許認可などの定期的・自発的見直しの仕組み(PDCA)導入
わが国の許認可などの総数は1万4579件(平成24年3月31日現在)。これらの中には、制定以来手つかずで、古くなっているもの、現在の技術革新に追いついていないものなどがある。このため、国の規制について、所管府省がその見直しをスピード感を持って定期的かつ自発的に行う仕組み(PDCA)を設けるべきである。
②「地方版規制改革会議」の早期設置
地方分権の進展に伴い、地方自治体の自治事務となり、国の関与が及ばない規制・制度も多い。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で示した「地方版規制改革会議」について、都道府県などへ早期に設置すべき。また、その実効性の担保を支援すべきである。
③中小企業基本法を念頭に税法上の中小企業の基準を資本金3億円まで拡大
資本金1億円超の中小・中堅企業は、利用可能な政策減税が少なく、実質的な税負担率は最も高い。特に、中小企業基本法上では中小企業であっても、税法上の支援対象とならない者がいる。
このため、税法上の中小企業の基準を、中小企業基本法の中小企業の範囲を念頭に、資本金3億円以下まで拡大し、研究開発や投資を促進すべきである。
Ⅳ 知的財産経営の推進
提言6 中小・中堅企業の特許取得推進
①特許の申請手続きの簡素化
出願、審査請求、早期審査、減免制度について、ワンストップで一括申請ができるようにすること。
②中小企業の意匠・商標の早期審査
特許については、中小企業であれば早期審査制度が利用可能となっている。意匠および商標については、権利化について緊急性を要する場合に限るなどの条件が付いているため、中小企業であれば利用可能とするように変更すること。
③特許料などの減免制度の要件緩和と対象の拡大
(小規模事業費などを対象とした)特許料などの減免制度の従業員数要件を、20人以下から300人以下に拡大するとともに、対象を「実用新案、意匠、商標」まで拡大すること。
④特許庁審査部門の大阪設置
出願件数の約2割を占め、ライフサイエンス、電機産業などが集積する大阪に特許庁の審査部門を新設すること。
⑤技術流出対策の取り組みへの支援
開発した技術の流出は、中小・中堅企業にとって命取りであり、情報管理体制の構築・強化に取り組む企業への支援策を講じるべきである。
提言7 中小・中堅企業の持つ技術力を評価した融資の促進
(中略)「知財ビジネス評価書」や「知的資産経営報告書」の活用などにより、中小・中堅企業が保有する特許技術や知的資産を評価した融資をさらに促進すべきである。(10月15日)
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