厚生労働省はこのほど、令和2年版厚生労働白書を公表した。2部構成の白書の第1部では「令和時代の社会保障と働き方を考える」をテーマに、平成の30年間の社会の変容を振り返るとともに、高齢者人口がピークを迎える2040年にかけての変化の見通しを分析・整理、また今回の新型コロナウイルス感染症の影響も含め、今後の対応の方向性を提示した。第2部は「現下の政策課題への対応」をテーマに、子育て、雇用、年金、医療・介護など、厚生労働行政の各分野の施策の動きをまとめた。特集では、白書(第1部)の概要を紹介する。
白書の全体像
第1部(テーマ編「令和時代の社会保障と働き方を考える」)
〇平成の30年間の社会の変容と2040年にかけての今後の20年間の変化の見通しを踏まえ、今回の新型コロナウイルス感染症の影響を含め、今後の対応の方向性などとして以下を提示。
・人生100年時代に向けて
・担い手不足、人口減少の克服に向けて
・新たなつながり、支え合いに向けて
・生活を支える社会保障制度の維持、発展に向けて
・デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応
○①人口、②寿命と健康、③労働力と働き方、④技術と暮らし・仕事、⑤地域社会、⑥世帯・家族、⑦つながり・支え合い、⑧暮らし向きと生活を巡る意識、⑨社会保障制度の九つのテーマに沿って分析。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う生活や社会・経済への影響についても検討。
(図1・2)
第2部(年次行政報告「現下の政策課題への対応」)
省略
今後の対応の方向性
(1)人生100年時代に向けて
〇平均寿命は、平成の30年間に約5年伸び、さらに2040年にかけて約2年伸びる見通し。40年時点で65歳の人は、男性の約4割が90歳まで、女性の2割が100歳まで生きると推計され、「人生100年時代」が射程に。
〇高齢期の身体機能が若返る中、「高齢者像」が大きく変化。健康寿命が延伸してきており、男女ともに40年までにさらに3年延伸が目標。健康寿命の延伸とともに、ライフステージに応じてどのような働き方を選ぶか、就労以外の学びや社会参加などをどのように組み合わせていくかといった生き方の選択を支える環境整備が重要に。
(2)担い手不足・人口減少の克服に向けて
〇今後、本格的な人口減少が進む中で、就業者をはじめとする「担い手」の減少を懸念。女性や高齢者の就業率の一層の向上と、働く人のポテンシャルを引き上げ、活躍できる環境整備が必要。
〇特に、医療福祉従事者は40年には最大1070万人(就業者の約5人に1人)に増加の見通し。健康寿命の延伸などの取り組みと合わせて、医療福祉現場の生産性を上げることにより、より少ない人手でも現場が回っていく体制を実現していくことが必要。
〇担い手不足が生じる根本的な原因は少子化の進行。長期的な展望に立って総合的な対策を進めることが必要。
〇40年の就業者数は、今後の経済成長と労働参加の進展によって左右される。平成の30年間、女性と高齢者の就業率は大幅に上昇。人口減少下にあっても、労働力人口や就業者数は 1990年代後半の水準を維持。
(3)新たなつながり・支え合いに向けて
〇平成の30年間で、3世代世帯が約4割から約1割に減少するなど、世帯構造は大きく変化。40年にかけて、未婚の高齢者(単独世帯)が約4割に増加する見通し。一人暮らし高齢者が将来の介護を頼む先は「子」が減り、「ホームヘルパー」が増加。「日頃のちょっとした手助けが得られない」や「介護や看病で頼れる人がいない」など、生活の支えが必要と思われる高齢者世帯は、過去25年間で3・5倍程度増加。今後25年間でさらに1・5倍程度増える見込み。
〇一人一人の暮らしを支えていくために、それぞれの地域事情を踏まえつつ、さまざまな主体や関連分野と連携し、つながり・支え合いの在り方を考えていくことが必要。「地縁、血縁、社縁」が弱まる一方、ボランティアなどによってつながる「新たな縁」や、支え手・受け手といった枠を超え、支え合いながら暮らす「地域共生社会」の実践も広がりつつある。人口減少による地域社会の縮小が見込まれる中で、子育て支援を含め、感染拡大防止と両立する新たなつながり・支え合いを構築することが必要。
(図3)
(4)生活を支える社会保障制度の維持・発展に向けて
〇平成の30年間の社会保障制度改革は、①機能の強化と、②財政面の持続可能性の強化の二つの軸で実施されてきた。
〇今後は、三つの方向性(①人生100年時代、②担い手不足・人口減少、③新たなつながり・支え合い)に沿った改革、特に、担い手不足・人口減少の観点からサービス提供面を含めた持続可能性の強化が重要に。デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応も不可欠に。
〇「ポストコロナ」の社会も展望しつつ、社会保障制度改革について、国民的な議論を深めていくことが必要。
(図4)
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