2022年度には団塊の世代が後期高齢者に入り始め、医療給付費の急増が見込まれる一方、支え手である現役世代の人口は急減が見込まれ、医療保険制度は危機的状況にある。
また、現役世代や企業の保険料負担はすでに限界に達しており、こうした状況が現役世代の可処分所得の減少や将来不安を招き、消費活動、ひいては経済活動へ一層の悪影響を及ぼすことが懸念される中、コロナ禍が追い打ちをかけることとなった。今こそ、将来にわたり国民皆保険を堅持する覚悟を示し、制度の持続可能性の確保に向けた改革を着実に進めることで、国民に安心感をもたらすことが極めて重要となる。
このような共通する問題認識の下、被用者保険関係5団体は、下記のとおり意見を取りまとめた。政府におかれては、国民皆保険を堅持するためにも、現在、検討が進められている全世代型社会保障検討会議の最終報告において以下の項目を盛り込むなど、給付と負担の見直しを含む医療保険制度改革を遅くとも22年度までに確実に実行するよう強く要望する。
1.後期高齢者の窓口負担について
全世代型社会保障検討会議の中間報告において、一定所得以上の後期高齢者の自己負担を2割とする方針が示されたが、現役世代に偏った負担を見直し、高齢者にも応分の負担を求めることで、給付と負担の世代間のアンバランスを是正し、公平性、納得性を高めていくことが重要である。
現在、現役世代は所得に関係なく窓口負担は3割であり、70~74歳の高齢者の窓口負担も2割(一部3割)であることや高額療養費制度により負担の限度額は抑えられていることを踏まえ、75歳以上の後期高齢者の窓口負担についても、低所得者に配慮しつつ早急に原則2割とする方向で見直すべきである。その際、支え手である現役世代の過重な負担増の緩和につながる設定とする必要がある。
2.拠出金負担の軽減について
今後、急激に増加する拠出金の負担に耐え切れず、解散を検討する健保組合がさらに増加する可能性があるなど、現役世代の負担に過度に依存する現在の制度では、持続可能性は確保できない。そのため、安定財源を確保した上での公費負担の拡充など、現役世代の負担を軽減し、保険者の健全な運営に資する負担構造改革を早急に断行すべきである。
特に、後期高齢者の現役並み所得者については、それ以外の者と同様に、公費負担50%とするべきであり、それを行うことなく現役並み所得者の範囲を拡大する場合は、少なくとも拠出金負担増が生じないよう、財政支援などの負担軽減措置を講じる必要がある。
3.医療費の適正化などについて
持続可能な制度を構築していくためにも、医療費の適正化を図ることが不可欠である。
医療の質の向上と併せ、地域医療構想の推進や医療機能の分化・連携による医療の効率化、人口減少を見据えた医療提供体制を構築するとともに、総合診療専門医の積極的育成やオンライン診療などを活用し、国民の適切な受診行動を促進する必要がある。
また、ヘルスケアデータの利活用を推進するとともに、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、「国民負担の軽減」、「医療の質の向上」を実現するための薬価制度の抜本改革の推進や後発医薬品のさらなる使用促進(国全体としての新たな目標設定など)、フォーミュラリ(生活習慣病治療薬の適正な選択)の導入の推進、薬剤処方の適正化(重複・多剤投薬の是正、服薬管理の徹底、向精神薬の使用の適正化など)、診療報酬の包括化、医療全体を通じたICT化の促進など、保険診療や診療報酬の在り方に踏み込んだ見直しに取り組むべきである。
4.保険者機能の強化について
健康寿命をより延伸させ、健康な高齢者には社会保障を支える側に加わっていただくことが、制度の持続可能性を高めることにつながる。そのためには、職域・地域にかかわらず、全ての医療保険者には、加入者に対する健康増進などこれまで以上に重要な役割が求められる。
個々の保険者が、それぞれの特性を生かして保険者機能を発揮できる制度体系を維持し、企業、労働組合との連携を含め、保険者機能をより強化していくべきである。
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