本日の日本商工会議所第132回通常会員総会は、感染拡大防止の観点から、オンライン形式での開催とさせていただきました。オンラインではありますが、全国から多数の皆さまにご参加いただき、誠にありがとうございます。
さて、新型コロナウイルスが発生してから1年以上が経過しました。かつて経験したことのない苦境の中で、国民生活を守るために献身的な活動を続けられている医療従事者の皆さまの弛まぬご尽力と、事業継続と雇用維持に必死に取り組まれている経営者の皆さまに対し、心から感謝と敬意を表します。また、各地商工会議所の役員・議員、経営指導員はじめ職員の皆さまが、困難に直面している事業者への支援や地域経済再生に、日々懸命に取り組まれていることを大変心強く感じており、感謝申しあげます。
わが国経済は、一度目の緊急事態宣言により、昨年4―6月期のGDPが戦後最大の落ち込みを記録した後、徐々に持ち直し、10―12月期GDPは、年率換算で実質プラス11・7%にまで回復しました。
しかし、二度目の緊急事態宣言発令により、本年1―3月期は再びマイナス成長に転じる見通しです。
2月の日本商工会議所景気調査では、中小企業の7割が依然としてコロナによる経営への悪影響が続いており、とりわけ飲食、宿泊、交通、イベントなどの業種は極めて厳しい状況に陥っています。雇用調整助成金や無担保・無利子融資制度などを活用し、何とか生き延びてきた事業者も借り入れが大きく膨らんだ一方で、先行きの見通しが立たず、さらなる借り入れに踏み出せない状況です。
ここで事業者の心が折れてしまい倒産・廃業に至らないよう、商工会議所は再度、緊急要望を政府に提出することにしております。政府におかれても、各種支援策の継続・拡充とともに、ワクチン接種や医療提供体制の充実を図ることで、経済活動についても徐々に正常化させていけるんだという明るい見通しをぜひ示していただきたいと考えます。
昨年はコロナに明け、コロナに暮れた1年間でした。しかしわれわれはただコロナに苦しめられていただけではなく、そこから多くのことを学びました。
デジタル化の遅れや大都市集中リスクなど、課題の大部分は以前からも指摘されていたことであり、目新しいものではありません。しかしコロナは、それを誰の目にも明らかにし、またそれに対処すべき時間軸を劇的に短縮させました。
国民全体で克服すべき課題を共有した今こそ、デジタル活用による行政やビジネス変革、地方分散化などへの取り組みを加速させていく好機です。単にコロナ前の社会経済に戻るのではなく、この令和3年を新しい日本へと向けて船出する、スタートの年と前向きに位置付け、官民が力を合わせて、持続可能で強い豊かな社会を実現していく第一歩を踏み出そうではありませんか。
次に、アフターコロナ時代に向け、国の果たすべき役割、商工会議所の果たすべき役割について、それぞれ申し述べたいと思います。
1 国の果たすべき役割
(1)コロナを制御し、先行きの見通しを国民に示すこと
国の果たすべき役割の第一は、コロナの感染拡大を制御し、先行きの明るい見通しを国民に示すことです。
緊急事態宣言は、国民生活や経済活動に深刻な影響を与えますので、今回を最後にしなければなりません。ワクチンが、接種を必要とする国民に早期に、スムーズに行き渡ることを期待しておりますし、変異株の拡大が懸念される中で、今後多少の感染拡大が生じたとしても経済活動を継続していけるよう、検査と医療提供体制の整備・拡充を継続的に図っていただきたいと思います。
またワクチンについては、今後は季節性のインフルエンザなどと同様に、毎年定期的な接種が必要となることも想定し、ワクチンの国産化、さらには治療薬の開発・生産に向けて、具体的な目標を設定し、スピード感を持って進めていただくことも必要です。
政府におかれては、これらの取り組みを通じて、コロナをコントロール下に置き、オリンピック・パラリンピックを契機に国民生活と経済活動を本格的に回復していくと同時に、将来への備えと明るい道筋とを、力強いメッセージで発信していただきたいと思います。
(2)国全体としての潜在成長率の底上げ
国の果たすべき役割の第二は、強く豊かな国をつくるため、潜在成長率の底上げを図ることです。
今回のコロナ禍のみならず、新たなパンデミック、激甚化する自然災害などはいつでも起こり得ます。こうした不確実な将来に備えるためには、国全体としてのレジリエンスすなわち「戦略的ゆとり」を持つ必要があります。
そのためには、国全体の生産性を高め、持続的な経済成長を図ることが不可欠です。とりわけ人口減少期に入った日本においては、グロスGDPに加え、1人当たり生産性と豊かさを示す1人当たりGDPも国家目標に設定し、潜在成長率を底上げしていく成長戦略を早急に策定していただきたいと思います。
また、政府が掲げた2050カーボンニュートラルは極めて高いハードルでありますが、何としても官民挙げて達成すべき目標であり、その実現のためには国および国民一人一人の強いコミットメントが必要です。加えて、経済だけ、または環境だけが良ければよいということではなく、エネルギーの安定供給をベースとしつつ、「3E+S」をバランスよく実現するという大原則をしっかり守ったエネルギー政策が重要です。
(3)不安定さを増す世界における日本の国益の追求
国の果たすべき役割の第三は、国際社会における同様な考え方を持つ国々との協調を通じて、日本の国益を追求することです。
新型コロナ対策、グローバル経済体制の維持、地球温暖化対策など、各国が協調して取り組むべき課題は山積しておりますが、コロナという未曽有の災厄により、各国の内向き志向は継続しており、米中対立についても、安全保障や統治体制の違いにまで及んでいることから、長期化は避けられないと覚悟しなければなりません。
このような協調と対立が共存する多層的かつ不安定な世界において、日本が国益を守り重要な役割を果たしていくためにも、同様な考え方を持つ国々との連携と、日本がコロナ禍からできるだけ傷を浅くして、いち早く立ち上がることが必要であり、菅総理には強力なリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
2 商工会議所の果たすべき役割
次に、アフターコロナに向けた、中小・小規模事業者の生産性向上や地方創生への挑戦を後押しするため、商工会議所が果たすべき役割を3点申し述べたいと思います。
(1)デジタル化による経営改善、事業成長の加速
第一に、中小企業のデジタル化を積極的に進めることです。コロナ以前から人手不足に苦しみ、またコロナ禍での新たな生活様式への適応を模索している中小企業にとって、デジタル化は自らの生き残りをかけた重要な経営課題です。
政府は、商工会議所の要望を受け、書類の押印原則の見直しや電子帳簿保存法改正など、デジタルガバメントへの改革を進めています。商工会議所においても、中小企業のデジタル実装による生産性向上やビジネス変革に向け、クラウドサービスの活用などの取り組みを、さらに強力に推進してまいりたいと考えています。
また、コロナ禍での消費者ニーズの変化などに対応して企業が生き残っていくためには、業態転換など事業再構築への取り組みが必要です。中小企業の業態転換への意欲は大企業に勝っており、またイノベーションへの意欲は極めて高いものがあります。各地商工会議所では、対面での売り上げ減少を補うため、Eコマースの導入やウェブ商談会の開催などを支援しており、例えば有田商工会議所のWeb陶器市、四日市や箕面商工会議所などの越境ECによる販路拡大は大きな成果が出ていると聞いています。
(2)経営資源の集約や取引適正化による付加価値向上
第二に、事業承継やM&A、取引適正化を通じ生産性向上を支援することです。経営者の高齢化が進む中、生産性を高めつつ、価値ある事業を残し、雇用を維持していくためには、事業承継やM&A、資本性劣後ローン、事業の大胆な見直しを行う事業再生などによる中小企業の体質強化が急務です。
また、サプライチェーン全体での付加価値向上や取引適正化を図るため、昨年夏より、官民協力して、「パートナーシップ構築宣言」の取り組みを開始し、宣言企業は大企業・中小企業を含め1000社を超えました。私としては、目標を2000社に引き上げ、ぜひともさらに多くの企業に賛同いただきたいと考えております。
(3)地方分散型社会・地方創生の推進
第三に、各地で多様な関係者と連携して地方創生の推進を図ることです。コロナ禍で一極集中のリスクが顕在化し、労働者の郊外移住や二拠点居住、また企業の地方分散化などの動きが顕在化してきています。とりわけ、都市圏から地方への人材の移動は地域の活力強化につながる大きな契機にもなり、既に人材獲得競争が始まっています。ぜひとも地元自治体などと連携し、これらの動きを各地の地方創生に取り込んでいただきたいと考えます。
一方で、これまで地域経済を支えてきた観光産業は、インバウンド需要の消滅、移動の自粛に伴う消費低迷などにより極めて厳しい状況に陥っています。しかし、リアルの価値が再認識された中で、観光は必ず復活すると思いますので、その時まで観光産業や観光資源をどうやって支えるかが大きな課題です。まずは感染の収まっている地域内でのマイクロツーリズムなど、各地で創意工夫を凝らした観光振興を進めていくとともに、ワクチン接種や感染状況などを見極めながらGo To事業の再開などをてこに、日本の観光再生に向けて努力したいと思います。
東日本大震災から10年が経過しました。復興を支えるインフラ整備などは着実に進んできていますが、根強く残る風評被害や海外の食品輸入規制など、課題はいまだ多く残されています。商工会議所は今後も震災復興支援に積極的に取り組む覚悟ですし、政府に対しても提言書を手交し、今後10年を見据えた復興の強力な推進を求めたところであります。
なお、今夏のオリンピック・パラリンピックは、わが国が震災を克服し、コロナと懸命に戦っていることを世界に示す絶好の機会です。政府におかれては、適切な形で開催できるよう、万全の準備を進めていただきたいと思います。
最後に、渋沢栄一について触れたいと思います。NHK大河ドラマ「青天を衝け」の放映が始まりました。渋沢翁は、自らの一生をもって481の企業と600の学校や病院などの設立に関与し「私益と公益の両立」を実践した行動の人であると同時に、「論語と算盤(そろばん)」によりその考えを世に広めたビジョンリーダーでもありました。
コロナ禍のような不確実で不安定な時代を生き抜いていくためには、経営者は、環境変化に合わせ自己変革し続けていかなければなりません。しかし一方で、変化を乗り切るためには、変えてはならないもの、ブレてはいけない拠るべき軸が必要となります。われわれ企業経営者は、この難しい時代にこそ、自らの企業は何のために、誰のためにあるのかという存在理由を自らに問い、具体的な解を見いだし、目の前の困難に正面から向き合うことが求められています。
日本資本主義の父とたたえられ、商工会議所の創設者でもある渋沢栄一翁の思想や活動に触れることは、その変えてはならない軸を再確認するという意味で、現代的な意義のあることだと思います。
以上、所信の一端を申し述べました。先行きを見通すことは困難な状況ですが、中小企業と地域社会の発展を通じて、わが国の持続的な成長を実現するという、商工会議所の使命を果たすため、われわれ自身もデジタルトランスフォーメーションに対応し、組織活動基盤を強化してまいりましょう。
日本商工会議所は、来年で創立100周年を迎えます。
全国515商工会議所や連合会、青年部、女性会、海外の商工会議所などとのネットワークを最大限活用し、私自身が先頭に立ち、コロナ禍を克服し、新しい時代を切り開くために頑張ってまいります。引き続きのご支援、ご協力をお願いして、私のあいさつとさせていただきます。
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