テーマ別企業事例 キャリア教育で地域と企業を活性化 平田商工会議所

地域に必要な人材の育成が地域や地元企業にとって深刻な問題となっている。そこで、地域を活性化し中小企業を成長させるため、若い人材の地域定着を目指して各地の商工会議所が取り組む、各世代に向けた新たなキャリア教育を紹介していく。

管内唯一の県立高校とタッグを組み“若者が住みたいまち”を共に育む

「小豆」がテーマの地域協働学習では、平田産小豆の栽培から商品開発、東京・日本橋での販売促進まで実施した

2018年、創立70周年を迎えた平田商工会議所は、記念事業の一環として地元の県立高校との連携事業に乗り出した。少子高齢化が加速する中、若者は地域の宝と捉え、管内唯一の高校と協働して〝まちの魅力〟に生徒らが気付く事業を次々展開している。生まれ育った川に鮭が戻る「母川回帰」をテーマに、若者もまちを盛り上げる。

高校生は〝地域の宝〟若者が住みたいまちを模索

島根県出雲市といえば出雲大社が有名だが、その出雲大社と松江を約1時間で結ぶ山陰唯一の私鉄ローカル線、一畑電車をご存じだろうか。地元で〝ばたでん〟の名で親しまれ、地元の学生らの通学を支える鉄道である。中でも学生らが多く乗降する雲州平田駅は、近くに江戸後期に木綿の集積地として栄えた「木綿街道」があり、風情ある古いまち並みは観光客からの人気も高い。

そんな雲州平田駅から徒歩15分の距離にあるのが県立平田高等学校(以下、平田高校)だ。生徒数は約500人で、地元商店街イベントへの参加や地元企業との新商品開発など、地域活動が盛んな学校。平田商工会議所との関わりも深く、同所が70周年を迎えた18年には事業連携の協定を結んでいる。

「同所では10周年ごとに記念式典を開いて経済産業局や市町村の来賓を招いてきました。しかし式典だけではなく、次の80周年につながる地域や会員企業に実利のある記念事業ができないかと考えたのが、協定を結んだきっかけです。平田地域は少子高齢化や若者の地域外流出など、他の地域同様の課題を抱えます。その解決の鍵を握るのが若者です。若者はまさに地域の宝。まずは平田高校の生徒たちにまちに関心をもってもらい、将来、住みたいまち、帰ってきたくなるまちを一緒に考え、形にしていくことを目指しました」

そう説明するのは、平田商工会議所の専務理事、長岡明生さんだ。事業のテーマは「母川回帰」。鮭が生まれ育った川に戻ってくるように、子どもたちが平田地域に帰ってくることを願って掲げられた。

生徒らの言動で学校も商工会議所も奮い立つ

同所は所内に「出雲市東部都市拠点地区活性化協議会」を設け、ワークショップには平田高校の生徒らを加えた。会員企業や行政機関などが共に取り組む指針として「平田未来ビジョン」を作成し、生徒らの意見も広く取り入れた。さらに地域の文化伝承の担い手の育成として、平田地域に200年以上伝わる「平田一式飾り」という民俗芸術にも着目する。これは陶器や漆器、雑貨や部品などさまざまな生活用品を使って見立て細工をつくるというもの。この飾りの完成度を競う「全国コンテストBKT(ビューティフル・かざりもの・つくりもの)全国大会」を主催し、平田高校の生徒らも積極的に参加して大賞に輝いた。

また、地元商店街の店舗をボードゲームのマス目に見立ててまち歩きを楽しむ「バラ色の人生ゲーム」など、生徒らが商店街とつながりを深めるイベントを多数企画し、商店街の盛り上げ役としても生徒らの活躍が際立って、学校、地域から好評を博した。

大人から子どもへの一方通行の事業ではない。18年11月開催の創立70周年記念式典では、平田高校の生徒会長の発した言葉に、会場が静まり返る。

「このままでいいんですか?」

協働事業に関わる〝大人たち〟の本気度を問う言葉に、その場にいた大人らは神妙になったという。

「この一言でより一層事業に熱が入りました」(長岡さん)

学校側も動いた。19年、文部科学省が募集した「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」に応募すると、商工会議所との連携協定の珍しさからか、指定校として選ばれ、3年間、国から予算がつくことになった。

高校生から大学生へより広域で人材を育む

「地域協働学習は主に2年生が対象です。1クラス1テーマで、4クラスあるのですが、1クラスに1人、商工会議所職員を配置して、学校と地域の橋渡し的な役割を担いました。また年1回ペースで地域の大人が生徒らの悩みを聞く場を設けているのですが、どう答えようか考えることで私たちも気付き、学びを得られます。生徒たちに教え、教えられるいい機会になりました」と長岡さん。

21年7月には新たに「平田高校・夢実現化事業」がスタートし、2年生が地域フォーラムで地域課題や地域活性化に向けて発表したアイデアを、具現化できる企業、団体などを募った。1団体上限5万円の支援金に加え、30万円を上限に補助するもので、すでに生徒とNPO法人による雲州平田駅近くの空き家再生プロジェクトを採択している。

「これが起爆剤となって、他の空き家や空き店舗の再生が進んでいます」とうれしそうに語る長岡さん。

事業が3年目を迎えて国の予算が終わるものの、学校内に民間の協働学習専門スタッフと取りまとめ役の教職員が配属され、平田高校が21世紀枠で甲子園出場を果たしたのを機に、商工会議所内に「平田高校後援会」が設立されるなど体制強化、進化が進む。「高校から大学へ人材育成の場を広げ、9月には島根県立大学と連携協定を結びました。大学と高校、地元企業や医療機関をつなぎ、もっと広域で平田地域への関心度アップ、魅力の掘り起こしを図ります。人材育成は始まったばかり。長い目で取り組んでいきます」と長岡さんは穏やかに語った。

会社データ

平田商工会議所

所在地:島根県出雲市平田町2280-1

電話:0853-63-3211

HP:http://www.hirata-cci.or.jp/

※月刊石垣2021年11月号に掲載された記事です。

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