テーマ別企業事例 小さなイノベーションで大きな成果 逆境でも業績を上げる! アクト

新たな分野の開拓や新事業への進出は、大掛かりに考えてしまいがちだ。コロナ禍で苦境にある中小企業では大規模な事業投資は難しい。しかし、ピンチはチャンスでもある。そこで、転機を見逃さず、自社の技術やサービスを見直す〝小さなイノベーション〟で業績を伸ばしている企業の取り組みに迫った。

農場の「安全×除菌」技術に医療機関、飲食店、一般家庭が注目

北海道帯広市に拠点を構えるアクト。2021年1月には札幌支店を、11月には函館支店を開設し、工場も併設した

社員数わずか9人の会社に全国から問い合わせが殺到した。北海道帯広市にあるアクトは、農業施設をはじめ浄化槽や家畜ふん尿処理施設などの設計施工を手掛けており、その一環で開発したのが次亜塩素酸水「クリーン・リフレ」だ。それが農業の枠を超え、医療機関や飲食店、会社や一般家庭にも広がる。瞬く間に主力商品として業績を押し上げた。

〝飲める水で除菌〟商品がコロナ禍でヒット商品に

農業施設の専門メーカー・アクトの開発した次亜塩素酸水「クリーン・リフレ」が、世界的パンデミック下で、洗浄・除菌水として一気に知名度を上げている。開発したのは10年ほど前で、畜産業に携わる顧客の悩み解決や「食の安全」を追求した末に生み出したものだ。家畜の口蹄疫や鳥インフルエンザ、豚流行性下痢(PED)などの強力な伝染病の感染拡大対策として生まれたものだが、驚くのは原料が水と食塩のみであること。厚生労働省認定の食品添加物で、水質基準は水道水基準に合致し、誤って口にしても人体に影響がないという。

これをトンデモ商品と決めつけるのは早計で、大学や研究機関の試験をクリアし、エビデンスもしっかり取れている。コロナ禍前より人がかかるインフルエンザやノロウイルスの不活性化も確認され、用途は農業施設から医療機関やオフィス、一般家庭へと広がっていった。そして、新型コロナウイルスの不活性化に関する論文が国際学術誌に掲載され、テレビでも取り上げられると、一躍ヒット商品として脚光を浴びたのだ。

一時は注文から3〜4カ月待ちの状態となり、代理店制度に切り替え、全国の製造拠点を6カ所に増やすなど急ピッチで体制を整えた。

「強力な消毒(除菌)剤を使えば、確実に効果は出ます。しかし、細胞損傷が発生するなど人や家畜に影響が出て、環境汚染にもつながります。安全で確実に除菌ができなければなりません。誤って飲んでも問題のない、〝飲める水で除菌する〟のが正解なんです」

代表取締役の内海洋さんは、二兎を追うから二兎を得られたと断言する。2020年5月のクリーン・リフレの販売加盟店は19店で、月間売り上げは約87万円であったが、21年9月には2851店、1670万円強という驚異的な伸び率を誇る。

だが、コロナ禍による〝棚ぼた〟的なヒットではない。クリーン・リフレ誕生の背景にある同社の経営姿勢やものづくりへの飽くなき挑戦にこそ、業界、業種を問わず、逆境を乗り切るためのヒントがある。

会社の利益より大事なのはお客さまの悩みを聞く姿勢

「前例のないものや突飛(とっぴ)なアイデアを否定しては、何も生まれません。『できない』という常識は私にとっては非常識です」

その言葉を裏付けるように、内海さんがこれまでに取得した特許数は33(申請中を含めると68)にも上り、数々の畜産業の課題解決に貢献し続けてきた。だが、もともと農業に興味があったわけではない。

「経済的な理由で大学に行くことが叶(かな)わず、大手自動車メーカーの研究室への内定が決まったものの、そこは有名大学の博士課程を修了した人ばかりと知って断念。小さな会社で力を発揮したいと選んだ先が農業関連でした」

大手農業機器メーカーの子会社に就職し、酪農課に配属されたことで農業はきつい・汚い・臭い仕事ではなく、人・命を守る高貴な仕事であるという思いに至る。この20代前半の経験が、内海さんの揺るぎない信念になっていった。その後、会社の先輩が立ち上げた会社に引っ張られて営業を任された際も、営業関連本8冊を買って研究、分析を重ねて独自の営業スタイルを確立する。一躍トップセールスマンとなった内海さんが心掛けたのは以下の三つだ。

①自分が理解するまで商品を売らない。

②商品のデメリットも伝え、それでもお客さまの課題解決につながることを説明する。

③他の人の3〜4倍も足を運ぶ。

こちらからは値引き交渉をしなければ、商品の価格すら口にしない。納得した上で「欲しい」と思ったお客さまは金額を聞いてくる。

「私自身が納得した商品しか紹介しませんでした。会社の売り上げや自分の業績ではなく、お客さまの課題が解決できるものかどうか、それだけを考えて足しげくお客さまに会いに行っていました」

そして農業機器の製造販売をする中、農業施設の精度の低さに目が留まり、農業施設の建築にまで仕事の幅を広げる。もちろん建築の知識があるわけではない。独学で2級建築士、1級建築士、1級建築施工管理技士、1級土木施工管理技士、1級管工事施工管理技士など18もの建築に関わる国家資格を次々に取得していった。

「農業施設を低く見ることは、命を低く扱うことと同じように感じました。転職を経験しながらも、いつしか農業施設の建築に本腰を入れて取り組みたいと考えるようになり、大きな決断をしたのです。それが独立です」

常識を破り農家の課題解決に挑む

1997年、「食の安全を支える全ての技術を提供する」という目標を掲げ、アクトを設立する。主に農業施設の建築企画・設計・施工、浄化槽・家畜ふん尿処理施設設計・施工、業務農業施設の設計施工を手掛ける。設立から24年の間には施工を別会社にしたものの、たもとを分かつことになり、その後別会社の倒産や、来るもの拒まずで採用して資金を横領されるなど、人材育成で四苦八苦したこともある。研究開発費に注ぎ込みすぎて資金繰りに窮して倒産に追い込まれたことも一度や二度ではない。

「コロナ禍前からずっと逆境にいるようなもの」と内海さんが苦笑するが、テコ入れしたのは中小企業の多くが課題としている「ヒト」「モノ」「カネ」だ。経営計画書の作成、経営計画発表会の実施、社内コミュニケーションの活性化を図り、「全てはお客さまのために」という仕事観を社員と共有することに努めた。

そして同社独自の技術開発を進め、建物内の通気性、採光性を高める屋根形状(セミモニター)換気システムで特許を取得し、さらにミルクを浄化できる排水システムの開発にも着手する。

「酪農で出る廃棄乳は、一般の浄化槽では0・5%でも混ざると浄化できません。北海道では冬に水温が下がると浄化槽そのものが機能せず、酪農家の作業負担は相当です。私は浄化槽管理士、浄化設備士などの国家資格を持っていましたので、ないならつくろうと躍起になりました。しかし研究開発には多額の資金が必要で、共同開発を持ちかけても浄化槽業者などの知見がある人ほど『無理』と言って取り合ってくれませんでした」

だが、全員が「NO」を突きつけたわけではない。産業技術総合研究所、地元の帯広畜産大学、KCMエンジニアリングが関心を示し、産学官連携によるプロジェクトチームが結成された。2008年度の経済産業省「地域資源活用型研究開発事業」に採択され、委託費を受けることで共同研究は加速する。そしてついに、廃棄乳混入率20%でも水温が5度でも機能する常識破りの排水浄化システムを完成させ、数々の賞にも輝いた。

自社製品を否定する声に地道に〝効果〟を訴え続ける

クリーン・リフレの開発もまた、北海道の厳しい冬の農場の防疫対策に端を発する。「伝染病を防ぐために農場の出入り口に消毒装置が設置されているのですが、00年5月に北海道の十勝エリアで口蹄疫が発生した際に『冬だったら大変だった』とお客さまが言っていたことから、01年に開発をスタート。10年に世界初のマイナス30度でも凍らない車両消毒装置を完成させました。その際に着目したのが次亜塩素酸水です」

国が食品添加物として規定する次亜塩素酸水にも一室、二室、三室と三つの電解法があり、三室型で生成したものは有効塩素濃度が下がりにくく、保存期間が長い。同社のクリーン・リフレは三室型の電解無塩型次亜塩素酸水だ。品質の高さがあっての抗菌、抗ウイルス効果なのだが、コロナ禍でアルコール除菌液が品薄になった際に次亜塩素酸水の知名度が一気に上がった。が、同時に別物である次亜塩素酸ナトリウムと誤認されて情報が拡散し、さらに塩素系漂白剤を薄めれば次亜塩素酸水になるというミスリードで「次亜塩素酸水は効かない」と噂される。

「それでも『正しいものを正しく広める』ことを地道に続けました。次亜塩素酸ナトリウムとの違い、クリーン・リフレと他の次亜塩素酸水の違いをテレビや講演、著書で伝え、実際に使っている人たちの事例も紹介しました。世の中に役立つことを続けていれば、どんな逆境にあっても必ず扉は開かれる。そう信じてお客さまに提供するだけです。お客さまの悩みをどうしたら解決できるかずっと考えて、自分なら解決できると信じて開発の手を止めず努力し続ける。全てはお客さまのために。その一心です」

クリーン・リフレを生成する機械の小型化や大型化、食品工場での導入や海外展開など、同社の快進撃は続く。

会社データ

社名:株式会社アクト

所在地:北海道帯広市大通南16-2-2 アクトビルディング5F

電話:0155-20-4510

HP:http://www.act-hokkaido.com/

代表者:内海 洋 代表取締役

従業員:9人

【帯広商工会議所】

※月刊石垣2021年12月号に掲載された記事です。

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