1911年に創業以来、110年にわたって「眼を護(まも)る」を基本理念に、製品を開発し続けてきた山本光学。光をコントロールする独自技術の下、幅広いスポーツシーンを支えてきたのが、スポーツアイウェアブランド「SWANS(スワンズ)」だ。多くのトップアスリートからも絶大な信頼を得ており、今やプロ・アマチュアの垣根なく活用が広がっている。
ブランド名は高級品のイメージに憧れて名付ける
今夏に開催された東京五輪の卓球混合ダブルスで、金メダルに輝いた水谷隼選手が、サングラスを着用していたことを覚えているだろうか。「屋内競技なのになぜ?」と思った人もいることだろう。
同製品は、スポーツアイウェアの製造で国内トップシェアを誇る山本光学のブランド「SWANS」のものだ。卓球会場のLED照明がまぶしくてボールが見にくいという水谷選手の声を受け、レンズに特殊な加工が施されている。さらに、激しい卓球のプレー中でも振動でずれないように、アンダーテンプルデザインが採用されている。これはレンズとフレームの位置が逆さまになったようなデザインで、かつてアテネ五輪の女子マラソンで金メダルを獲得した野口みずき選手が着用し、話題になったモデルと同じである。今や各競技のトップアスリートが、高いパフォーマンスを発揮するための必需品として選ばれているのが、SWANSなのだ。
同社はレンズ加工業として1911年に創業後、主に産業用防塵(じん)眼鏡の製造を担ってきた。やがて保護眼鏡の製造にも乗り出し、戦後すぐに手掛けたのが、魚や海藻を取るための水中眼鏡だ。
「当時、二代目社長の祖父がリヤカーに商品を載せて、神戸の港まで売りに通っていたんです。そのとき、港に集積されたコンテナの中に白鳥マークを見付け、いかにも高級品というイメージだったので、当社の商品にも『スワン印水中メガネ』と名付けたと聞いています」と同社四代目で社長の山本直之さんはSWANSの由来を説明する。
目的に合わせ視認性向上に特化して開発したレンズ
同社はその後、産業用だけでなく一般向け商品も扱うようになり、バイクの埃(ほこり)よけ用眼鏡やサングラス、スキー用・水泳用のゴーグルなどを次々と開発する。72年、それらの一般向けスポーツ用品を「SWANS」ブランドの下で販売するようになった。それは同時に、曇り止めの技術を模索する日々でもあった。
「スポーツ用ゴーグルやサングラスは、水中や雪山、炎天下の屋外など、過酷な環境で使われることがほとんどです。水、湿気、汗などによりレンズはすぐに曇ってしまうので、使用シーンごとに曇り止め技術を駆使してきました」
こうした努力の結果、トップアスリートからも支持され、一般のスポーツ愛好者からのニーズも高まっていく。その流れを受けて、2012年に打ち出したのが「ULTRA LENS(ウルトラレンズ)」だ。これは単に眼を護る、まぶしさを防ぐというだけでなく、目的に応じて見たい対象物をくっきりと見せ、「視認性」を高めることに重きが置かれている。スポーツによって見たい対象物は異なるため、競技ごとにプロのアスリートを交えて研究し、最適な製品を生み出していった。例えばゴルフの場合、空に消えていくボールを目で追いやすくするために、ボールの色を浮かび上がらせるレンズを考案。釣りの場合は、朝晩の薄暗さを感じにくく、水中の魚影や地形を把握しやすいようにコントラストを強調したレンズを採用するといった具合だ。
「一般ドライバーが運転中の危険を察知しやすくするため、赤や黄色を認識しやすいレンズを開発していたんですが、テストに協力してくれたレーシングドライバーからなかなかOKが出なくて。ドライブ用は、1年くらい試行錯誤を繰り返し、苦労しました」
現在、ゴルフ、釣り、スノースポーツ、ドライブ、野球の5種類があるが、さまざまなユーザーに受け入れられてファンを拡大している。
「サステナブル」を鍵に長く愛される商品を目指す
同社がスポーツアイウェアのトップメーカーであり続けているのは、高品質な製品をつくっていることに加え、常にユーザーを念頭に置く姿勢も挙げられる。同社ではSNSなどを通じて、トップアスリートとの商品開発ストーリーなども積極的に発信し、ユーザーとの共有を心掛けてきた。今年9月からSWANS公式アプリをリリースしたのもその一環だ。こうした取り組みを通じて得た何気ないフィードバックが、新たな商品開発につながることもある。
「最近、フレームとレンズをそれぞれ選んで自分の好みにカスタマイズできる製品を発売しましたが、これはお客さまの声がヒントになりました。用途に合わせてレンズを選ぶと、フレームが気に入らないという人が思いの外いらしたので、レンズが簡単に付け替えられるものを考案し、直営店で大変好評をいただいています」
この10年で大きな進化を遂げてきたSWANS。コロナ禍にあるここ2年は、比較的好調に推移していたゴルフやキャンプ、釣りなどのアウトドア用品に重点を置く一方、20年前から製造販売してきた透明度の高いフェイスシールドの増産に力を注ぎ、医療従事者向けに提供しているという。
「何かと目まぐるしい10年でしたが、これからの10年は『サステナブル』をキーワードに、いいものをつくって長く使ってもらおうと考えています。レンズの付け替えもその一環で、性能はもちろんですが、環境にもやさしいデザインを追求していきたい」と山本さんは明快なビジョンを示した。
会社データ
社名:山本光学株式会社(やまもとこうがく)
所在地:大阪府東大阪市長堂3-25-8
電話:06-6783-0232
HP:https://www.yamamoto-kogaku.co.jp/
代表者:山本直之 代表取締役社長
設立:1947年
従業員:272人
【東大阪商工会議所】
※月刊石垣2021年12月号に掲載された記事です。
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