日本商工会議所は12月8日、「中小企業のデジタル化推進に関する意見」を取りまとめた。同日、日商のIoT・AI・ロボット活用専門委員会の岩本敏男委員長がデジタル庁に牧島かれんデジタル担当大臣を訪ね、意見書を提出。政府の策定するデジタル社会の実現に向けた「新重点計画」に商工会議所の意見を反映するよう働き掛けた。
意見書では、基本的な考え方において、コロナ禍で、オンライン会議やECなどに取り組む中小企業が増加し、デジタル活用の有用性を認識したことを指摘。デジタル活用の動きが加速するよう、官民を挙げた取り組みの継続とともに、行政のデジタル化を含む環境変化への対応を中小企業に促すことの重要性も強調している。
主な要望事項は、「コロナ禍で進み始めたデジタル化の動きの加速」「デジタル人材の活用・育成」「サイバーセキュリティー対策」など5項目。中小企業の「デジタルビジョン(仮称)」の策定のほか、オンライン会議、テレワーク、EC、キャッシュレス決済の活用に向けた補助・相談・サポートの充実なども求めている。
デジタル人材については、中小企業のデジタル化を伴走支援できる専門家の活用への支援を要請。また、受発注やバックオフィス部門のデジタル化、行政手続きデジタル化への対応、地域課題の解決に向けては、デジタル技術の活用に対する補助や5Gの前提となる基地局などの全国的整備の促進などを要望している。
基本的な考え方
○人手不足や市場縮小に対し、中小企業の生産性向上が不可欠。
○その鍵はデジタル活用。IT導入補助金で12・5万社が採択されるも中小企業全体の数に比べれば少ない。
○コロナ禍でオンライン会議、テレワーク、ECなどに取り組む中小企業が増加し、デジタル活用の有用性を認識。この動きが加速するよう官民を挙げた取り組みの継続が必要。
○デジタル庁の発足で行政のデジタル化が加速。岸田政権の下、「デジタル臨調」「デジタル田園都市国家構想」により、さらなる加速が見込まれる。中小企業は遅れず対応が必要。
○コロナ禍で進んだデジタル化の取り組みが、コロナ禍の収束とともに低調になることのないよう後押しが必要。行政デジタル化を含む環境変化への対応を中小企業に促すことも重要。
要望事項
1 コロナ禍で進み始めたデジタル化の動きの加速
(1) 中小企業のデジタル化を緊急対応から持続的な取り組みへ
①中小企業の「デジタルビジョン(仮称)」の策定と診断指標の改訂・普及
◇「デジタルビジョン(仮称)」の策定
◇DX(デジタルトランスフォーメーション)推進指標などの改訂・普及強化
②距離や時間の制約を超えるオンライン会議・テレワークの活用
◇IT導入補助金の継続・拡充
◇テレワークに関する施策の継続・拡充
③新市場開拓に向けたEC、キャッシュレス決済の活用
◇IT導入補助金の継続・拡充(再掲)
◇EC支援体制のさらなる強化
◇キャッシュレス決済の導入を促進する措置
④生産性向上に資する身の丈IoT・AIの導入
◇身の丈IoT・AIの開発・普及を行う企業への補助
◇IoTなど最新機器の体験スペース整備
◇実機を用いた導入テスト費用の補助
◇身の丈IoT・AIインストラクターの養成・派遣
◇地域のシステムインテグレータの育成
(2) コロナ禍で特に苦境にある飲食・宿泊・観光業などに対する重点支援
◇顧客と密なコミュニケーションを取るSNSなどの活用、オンライン予約システム、混雑状況確認システム、自動注文受付(セルフオーダー)システム、配膳ロボットなどの導入支援
◇IT導入補助金をはじめとする各種補助金において、飲食・宿泊・観光業などを対象とした取り組みなどの補助率の引き上げや特別枠の設定
(3) 中小企業のデジタル化に対する顕彰制度への支援
◇中小企業のデジタル化に対する顕彰制度の開催費用の補助
2 デジタル人材の活用・育成
(1) 社外の専門家派遣や大企業の人材の活用
◇デジタル専門家派遣などの継続・拡充、経営課題診断ツールの普及支援
◇大企業の副業・兼業人材やOB人材を活用する仕組みの構築
(2) 社内人材の育成および経営者の教育
◇中小企業の社内人材のリスキリングに対する支援
◇企業変革としてのDXに向けた経営者教育
(3) 日本全体で不足するデジタル人材の中長期の育成
◇地域におけるデジタル人材の育成・確保
(4) 商工会議所におけるデジタル人材活用・育成
◇経営指導員など向けデジタル教育の充実と資格取得の奨励・費用助成
◇商工会議所のデジタル化を支援する専門家の常駐
◇中小企業のデジタル化支援を担う経営指導員などの人材配置のための予算措置(「地域社会デジタル化推進費」の継続など)
3 デジタル庁主導によるデジタル社会の速やかな形成
(1) 企業間取引(受発注・請求・決済)をはじめとする事務管理部門(バックオフィス)のデジタル化
◇受発注業務のデジタル化推進に資する「産業データ連携基盤」の早期整備
◇請求書の発行などのバックオフィス業務のデジタル化に向けた支援
◇キャッシュレス決済の導入を促進する措置(再掲)
◇付加価値向上を目指した企業間取引のデジタル化
(2) 行政手続きデジタル化への対応
◇中小企業・小規模事業者の電子申請サポートに向けた支援体制の強化
(3) マイナンバーカードの機能拡充とワンカード化の加速
◇災害時の対応機能の拡大
◇ワンカード化の加速
4 地域課題の解決に向けてデジタル技術を活用する取り組みの促進
◇地域課題の解決に向けたデジタル技術の活用の取り組みに対する支援
◇5Gの全国活用を可能とする、基地局や光ファイバーなどの整備促進
◇ローカル5Gの開発実証を踏まえた中小企業が利用しやすい仕組みの提供
5 サイバーセキュリティー対策
◇サイバーセキュリティお助け隊サービスの普及に向けた支援
◇SECURITYACTION取得企業の拡大に向けた措置
◇2025年大阪・関西万博に向けたサイバーセキュリティー対策の強化
日商の取り組み
中小企業のデジタル化支援強化に向けたトライアル事業
○日本商工会議所は、2021年10月より中小企業デジタル化支援の強化に向けたトライアル事業を開始。長野県商工会議所連合会、長野県下の18商工会議所、合同会社デジトレ、特定非営利活動法人長野県ITコーディネータ協議会、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)の協力の下実施している。
○具体的には、デジタル化をしたいものの、「どこから手を付けたらよいか分からない」「自社の課題がデジタル化で解決できることに気付いていない」中小企業が、自社のデジタル活用度を簡単に自己診断できるツールを活用。これにより、中小企業から商工会議所に寄せられる相談を、現在よりもスムーズに専門家へ受け渡すことができるようになることを狙いとし、専門人材が不足しているとされる地域において、副業・フリーランス人材などの多様な人材と連携する可能性について検証している。
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